走る
目の前で爆発、後方でも爆発、横も爆発、聞こえる音も爆発音と発砲音だけ、偶にユッカの金切り声が聞こえる程度だ。
「バカバカ!隊長のバカァァァァァ!!」
蛇腹剣を操って転移者から飛んで来る攻撃を弾いたり防いだりしている。
「ユッカ、文句を言うのはいいが手を抜くなよ。前もたまに見ろ、私の後ろから一歩でも踏み間違えたら命の危険があるからな」
今の状況を簡単に言うとライオンに追われながら地雷原を全力で走っている感じだ。無論何もなしに走っているわけでは無く、前方は私とナワニがナギ達から貰った機関銃で強引に機雷を爆発させている。後方の爆発は転移者からの攻撃が地面に当たって爆発しているからだ。そちらはユッカに任せているから別に問題ないだろう。
横からのは転移者の攻撃をそらした攻撃が機雷にぶつかっているからだが、これに関しては仕方ないから何も言わない。言っても仕方ないからな。
「もうすぐ通路を抜けるで!」
ナワニの言葉通り通路が開けているのを目視できる距離まで進んだ。
「ここまで来たのはいいが、ここから創造課まで結構距離があるからこのまま走って転移者を連れていける自信がないで!」
確かにナワニの言う通りここから創造課までは全力で走り切れるほどの長さでもない。
「隊長!何か転移者がへんてこなものを取り出したッスよ!」
ユッカ言っている事がよく分からずに後ろを見ると、確かに変な物だった。転移者がいつの間にか立ち止まっていたらしく、かなり距離が離れているがそれでもよく見えるほど大きなものだ。やたら太くて大きい二つのタイヤに、前輪の両端に備え付けられている二門のブラスト砲、武器と同じく虚空から取り出したそれに転移者がまたがり何か操作している。あれはたしか結構昔にポスターで気になって見に行ったダークヒーロー物の映画で出てきた乗り物だ。
「…あれ、バッ〇・ポッドじゃないか?」
「…なんすか?」
「簡単に言うとだな、乗り物だ」
「乗り物か、ちと不味いんちゃうか?」
流石の私でも乗り物に勝てるほど足は速くない、それにどこまで再現されているのか分からんが、あの両端にあるブラスト砲が本物だった場合は終わりだ。
「やばいっスよ!散開して回避をするっス!」
「やめろ!まだ通路の途中だ、下手に動けば機雷の餌食になる」
しかし、現状他にとれる手もないユッカがタイヤに向かって発砲しているが全弾タイヤに弾かれている。まだ通路から出れる距離でもない。バイクの重いエンジン音が響き渡り動き出すと同時に高くなっていく。
『シェフレラ隊長!』
その時私のインカムにやかましい声が響く
「…室長か?」
『ええ、ヘリオです!状況はナギさんからの説明と、こちらから双眼鏡で覗いているので分かってますよ!』
「通路にいるのか?」
『ええ、転送装置の運搬と操作のために同行しています!』
「それはちょうどいい、何か乗り物とかないかないか?転送装置を運ぶのに使ったりしただろう?エルドルブとかないのか?」
転移者も乗り物を使おうとしているから、こちらも何か乗り物が欲しいところだが
『残念ながら、エルドルブは持ってきていません。ですが、こんなこともあろうかと代わりの物用意しています!!私の趣味満載になってしまいますがいかかです?』
「何でもいい転送装置でここに送ってくれ。このままだと打ち抜かれるか、ひき殺されるかの二択を取ることになってしまう」
『わかりました!!少々お待ちください!』
室長のウキウキしたような声に、一抹の不安を覚えながらも今は信じて準備をする。
「ユッカ!ナワニ!一度止まって周囲に弾幕を張れ!視界を塞ぐ」
二人が指示通りに周りに撃ちまくり銃弾が発射されるたびに至る所で爆発が起きて、煙が辺りに立ち込める。転移者にも直撃させるのでなく周囲の機雷を爆発させるようにしてバランスを崩させようとする。
転移者も負けじと二門のブラスト砲でこちらに照準を合わせる。
「二人とも伏せろ!」
私の叫び声と同時に二門のブラスターが火を噴き弾が高速で排出される。私の頭上を銃弾が通り過ぎ周りにある、まだ処理していない周囲の機雷が起爆する。
爆炎が頭上で起こり煙が私の下に降りかかって転移者の姿が見えなくなる。姿が見えなくなると頭の上を通っていた銃弾が止まった。
『隊長!爆発による煙でそちらの状況がわかりませんが無事でしょうか?』
「無事だ。作っていた爆発の空白地帯にうまく入れたようだ」
転移される物を入れるスペースを作るために周りの機雷を除去していたのが良かった。おかげで煙に隠れてやり過ごせている。
『そうですか!せっかくテスト出来…エフン!隊長が無事ならそれでよかったです』
本音が漏れてるぞ。改良のために数値をとるつもりだな?これでも仕事と作る品物は不備なく作れているから大丈夫だろう。…大丈夫だよな?ちょっと不安になるが今更引き返せない。
「それで転移はまだなのか?」
『いま、ここから隊長達の距離を入力し終えました。転送します』
そうして私達の下に二台のバイクが届けられた。
『届きましたか?』
「届いたが…バイクなのか?」
もっと、こう立体的に高速移動できる乗り物とかなかったのだろうか?
『ええ、この二台しかありませんでした!因みに、この二台はホンダ・CBR1000RR、ドゥカッティ・スーパーバイク999Rです!私の趣味でカラーリングが変わっていますが気にしないでください!』
見ると確かに前と後ろで二色に別れている。フロントから座席までが緑で座席から後輪までが黒く塗られている。よく見ればフロントガラスの部分にも何かアンテナのような物が二本立っている。なんかカッコいいな。特にやたらデカい排気パイプの追加ユニットがいい味出してるな。
「そうか、それで二台だけなのか?」
『二台だけです!どちらか一台を二人乗りして使ってください。因みにヘルメットは座席の下に収納しています!あとグレネードも一緒です』
そこまで言って室長からの通信が切れた。ため息をついて座席の下からヘルメットを二つ取り出して、ユッカをCBRの前に座らせて私が後部に座る。残ったナワニがドカッティに乗って丸目っとを被り準備が完了する。私も運転は出来るがユッカの方が運転うまいし、撃っている方が安心する。
ぶるんとバイクが大きく揺れてその後は小刻みに揺れる。
「エンジン着いたッス」
ユッカの声に頷いてヘルメットのバイザーを下げる。次第に煙が晴れて転移者の姿が再び見える。
ヘルメットをかぶっていない転移者があきらかに驚いた顔をしている。煙が晴れたらなぜかバイクがあるから驚くのも不思議ではない。
「さぁ、三回戦を始めるぞ」
ユッカの肩を叩いて合図を出して片手でユッカの腰をまわして、もう片方の手で銃を構える。ユッカがエンジンをふかしてバイクが動き出し通路を走り出す。
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