やけっぱち

 走り出すと魔法の効果がよく分かる。いつもより走る速度が上がっているし、足も軽く感じる。試しに刀を抜いて見るといつもより刀の重みを感じない。なるほど、これは便利だ。が、やっぱりよくわからないから、ある程度調べてから検討しよう。少し今の部隊の人数だと不安があるからもう一人入れようかなと考えていたし、丁度いいかもな


 走りながらそんなことを考えていると、転移者がこちらに気が付いて銃口を向けてきた。今の距離からだと私が切りかかる前に絶対に撃たれるから、狙いが定まらないようにジグザクに動いて距離を詰める。転移者も狙いをつけて撃ってはいるが、他の部隊からの攻撃を防いだりして私に集中できていないので、弾は見当違いの方向へ飛んでいる。


 しかし、所々であの見えない機雷が頭をよぎる。転移者の周りは絶えず魔法や銃弾が飛び交っているので除去できるとは思うが、逆にこれでは近づけない。指示を出したいところだが背後で魔法やら銃やらを放っているのは私とは関係ない他の部隊だ。私が指示を出したとしても混乱するだけになってしまう。部隊の隊長とコンタクトを取って指示を出すのも手間がかかりすぎて意味がない。緊急事態だから連携なんてものはないし、各々が駆除のために勝手に動いているだけだ。第一私も全ての部隊の顔を把握しているわけでは無いから絶対にグダグダになってしまう。上の仕事を基本的に私達に任せる方針は面倒なしがらみが無くて楽なのだが、こういう時はまとめて欲しいと思う。


 だが、今グダグダ考える事ではないので、一度考えるのを止めて片手でライフルを構えて撃つ。やはり銃の反動も抑えることは出来るな。このまま、転移者を包囲し続けて殺せればいいが相手は転移者だ、そうは簡単にはいかないだろう。


「あああああああ、めんどくせーなぁ!気持ちよく戦えよ!!なにチキってんだよ!!」


 ストレスが頂点に来たのだろう、転移者が持っている銃を振り回して乱射させ始めて、天井を床を銃弾がえぐっている。というか、見た目拳銃なのにマシンガンみたいに撃ってるのだが、一体どうなっているのだろうか?


 けれど、狙いが滅茶苦茶なおかげで狙える隙だらけだ。撃ち尽くした銃は使う機会が無いので捨てて、転移者に向かって走り出す。当然のことながら転移者が、気が付いて引き金を引いたまま銃口を向けてくる。


 避けようかと思ったが、私に向けられかけた銃口は別の方から何かが巻き付いて引っ張られる。チラリと巻き付いている物の先を見れば、ユッカが蛇腹剣伸ばしているのが見えた。素晴らしい援護だ。


 転移者は諦めずにもう片方の手から何かを取り出そうとするが、向けられる前に手を掴んで引き寄せる。


「死ね」


 そう短く言って引き寄せたそのままの勢いを利用して転移者の首元に刀を突き差す。喉から刀に血が伝い、転移者の口からこぼれた血が私の胸元を濡らす。転移者は諦めずに震える手でそのまま刀を振りぬいて転移者の首を掻き切る。


そして


「おまけやぁ!!」


 出番を待っていたナワニがハルバートを振るって転移者の上半身と下半身を分ける。死体蹴りはやめて欲しかった。


「フゥ…」


 一度ため息をついてから服に付いた汚れを見る。埃とかならまだいいが、血が付いているのは洗濯が面倒なんだよな。とりあえず死体の回収は他に任せてアイビーの所に行くとしよう


「なんや、終わってしまったんか?出番少なない?」


 ハルバード肩に担いで不満を漏らすようにナワニがぼやきながらついてきた。


「仕方ないだろ。お前の持っている武器は大物で重く、小回りが利かないからああやって攻撃されるとお前は何もできないだろ…というかお前の部隊はどうした。援護してもらえばよかったじゃないか」


「それが、ワイの部隊な前回の仕事の時に下手こいて大怪我してしまってな。ワイ以外能力課のお世話になってんや。それでワイが皆の見舞いをしようとしたら警報やろ?向こうであいつら守ろうとしたら、さっさと殺しに行けって全員から言われてしまってな。しかたないから、こうして一人で来たっちゅう訳や」


「そうなのか、それは災難だったな。」


「そうなんよ。あいつらのサポートがあれば、さっきみたいに出番があるまで指くわえたりはしなかったんに残念やわぁ…」


 そんな感じでナワニとしゃべりながら歩いていた時だ。


「隊長!!後ろ!!まだ生きてるっス!!」


 その言葉に驚いて後ろを見ると転移者がゆっくりと起き上がっていた。生きてるな。泣き別れになったはずの上半身と下半身もなぜかくっついていると思ったら転移者の足元に瓶のような物が転がっている。


「あれ、ポーションじゃないか?」


「せやなぁ…なら、奴が最後に取り出したのがポーションちゅうこっちゃな」


 ナワニがハルバードを構えて警戒する。もしかしたら、やけっぱちに全員を巻き込んで自爆する可能性もあるから逃げるためにも迂闊には近づけない。


「生命力だけで言うたらあのGといい勝負じゃないか?」


「それを言ったら大体の転移者と転生者に当てはまるだろ」


「それもそうやなぁ」


 溶岩に顔を付けても生きてるしレールガンで頭吹き飛ばしても攻撃しようとしてくる奴らだ。Gも頭無くなっても生きているというし転移者達といい勝負になるんじゃないか?


「ああ、わかったぞ」




 上と下の継ぎ目が完全に無くなった。転移者がややハイテンションでしゃべり始める。


「ああそうだ!間違っていた!これは無双ゲーじゃない!これはアクションRPGだ!」


「俺一人じゃない。これはパーティで攻略するものだ」


 そこまで言うと転移者薄ら笑いを浮かべながら虚空に向かって腕を伸ばして、何かを操作するような動きをした。


「こいよ、俺のペット共!!」


 転移者がそう叫び手を翳すと黒いモヤが現れて中から動物のような物が出てきた。狼のような生き物もいれば、ライオンに羽の生えた生物もいる。


「あれは、魔獣か?」


 確かダンジョンにはダンジョン内を徘徊させる魔獣を生み出すことが出来る。その機能を使って際限なく魔獣を生み出している。


「そのようやな。残業やで!」


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