魔法ってかゆいところに手が届かない

隊長が行ってしまいましたので指示通り待機したいんですけど、ここだと邪魔になるので移動したいです。後ろなら他の方達もいるみたいなので安心ですし、出来るなら戦闘に参加したいのですが、腕が動かせないので出来ないし隊長達にも怒られます。能力課の方達なら傷も治せるので戻った方がよさそうですね。


「あのセラさん、向こうに戻れないんですか?」


「それが~、私達の使った装置は一方通行なので、こっちからあっちには戻れないんですよ~通路を通ろうにも、通路中に転移者の能力で見えない機雷が設置されているんで~除去が終わるまでは危険なので通れないんですよ~」


 そう言えば隊長が何もない空間で爆発して吹き飛ばされていましたね。あれが機雷のせいなら確かに見えない爆弾なら面倒くさいですし、私も通りたくはありません。


「なら、ここで大人しくしていた方がいいですね」


「はい、一応能力課から治癒能力持ちの方達が向かっているので~その人達が到着して治してもらうまで大人しくしてましょう」


 それなら特に向こうに戻る意味もないですね。大人しく邪魔にならないように待ちましょう。






「死ねやぁ!!」


 男がハルバードを振り回しながら転移者に接近する。一般人が直撃すればまず即死は免れられないような攻撃でも転移者は特に慌てる様子もなく何もないところから刀と拳銃を取り出して刀を振るって受け止める。


「死なねぇよぉ!!」


 転移者の細い腕からは想像もつかないような力を使ってハルバードの攻撃を片手で持った刀で受け止める。そして空いているもう片方の手に持っている銃を男に向けるが、他の隊の援護射撃が入って転移者が離れる。


 すかさず他の隊が戦闘に参加して転移者に隙を与えずに攻撃をし続ける。


「ああ!!鬱陶しいモブどもがよぉ!こんなに数があるなら無双させろよ!!」


 転移者は面倒臭そうに頭を掻きむしりながら吠えながら戦闘を継続している。


「面倒やなぁ!しかも、あいつさっきから何言ってるんや」


「ナワニ隊長どうやら、彼はゲームと現実が混ざってしまっているようでありますね。この戦闘もゲームのイベント程度の考えなのでしょう。実際彼を殺した部隊は交戦中にゲーム単語を言っているのを耳にしたそうです」


「何やそれ!ワイらがやっているのは殺し合いやで!なにゲーム感覚で人を殺しているんや、頭おかしいんちゃうか!!」


「それがあの転移者の異常性だろう。あれも神の力を持って狂わされた結果なんだろう」


「おお、姐さん。新人は大丈夫なんか?」


 いつも間にか後ろに立っていたシェフレラに驚くような声を出しながらナワニが新人の心配をする。


「ああ、どうやらあれに攻撃と回復を交互に行っていたようで、体に傷はナイフが刺さっていた部分以外には無かった。今はセラと一緒に待機させている」


「そうか、ひとまず無事でよかったわ」


 ナワニはそう言って少し安堵したような顔をする。彼がアイビーを見た時は血の海に横たわっている状態だったから正直生きているのか不安だったが、無事だったと聞いて間に合ったのかと少し安心た。


「ああ、本当に良かった。…さて問題は転移者だが」


 他の部隊も頑張っているが苦戦しているのは見ればわかる。通路にも設置していた機雷をここにも少しづつ置き始めたようだ。魔法と実弾によって設置され次第爆発されているが、置かれていると知れば処理出来ていない物もあるんじゃないかと思ってしまい。足が動かなくなってしまう。おかげで数が仇となって満足に動けず、転移者に対して優位な状況になっている。やっぱり数で押すのは駄目だな。


「ここは、ワイらが前に出ないといけないなぁ!」


「そうだな。ゴミはゴミ箱にきちんと入れないとな。…と、その前に」


 近くにいた魔法を使って攻撃している一人の女性に近づく


「すまない、身体強化関係の魔法ってかけられるか?」


 あの鉄砲やら魔法やらが飛び交っている中に生身で突撃するのは流石に少し怖いから、魔法で身体能力を底上げしてもらうことにする。


「え?あ、はい、分かりました。…えっと種類は?」


「え?種類?えっと…」


 種類ってなんだ?!こう全体的に強くなるような魔法は無いのか?


「俊敏性と防御性を上げてくださいッス。筋力関係は大丈夫っス」


 私が返答に困っているとユッカが肩に手を置いて代わりに答えてくれた。助かったそんなに魔法は詳しくないから、相手を困らせてしまうところだった


「わかりました。じっとしていてください」


 女性はそう言って私に向かって杖を掲げて詠唱を開始した。


「久しぶりに見たっス。隊長が純粋な魔法に頼るところを」


「そうか?飛行装置とか何かと使っていると思うが?」


「あれは装置の一部に組み込まれているだけっスよ。今回は純粋な魔法の力じゃないっスか」


 確かに言われてみれば、あれは科学の装置に一部魔法を組み込んでいる混ぜ物だ。今まで使っていた武器も爆薬による爆発の威力を高めるなど補助的な役割しかなかった。今みたいに純粋な魔法だけに頼ったのは随分久しぶりな気がする。


「そうだな。なに、少し味方の攻撃に当たりそうで怖いだけさ、それに」


 私は一度言葉を区切って転移者を見る。変わらず転移者は面倒くさそうに戦っているが、口元が笑っている。先ほど刀を交えた時も思っていたがやはり戦いを楽しんでいるのだろう。アイビーの時もきっと…


「それに私達の可愛い新人をゲーム感覚で痛めつけた奴に10倍返ししたいだけさ」


「…そうっスか。そういうところは変わらないっスね。」


「お前は変わりすぎだ。昔はもっとまじめだったろうに…」


 いつから、こんな正確になってしまったのだろうか。あれは…


「昔の話はいいっスよ!!それよりも魔法付与し終わったみたいッスよ」


「そうなのか?」


 自分の体を見てみるがこれといった変化は見られない。鎧と違って見た目からして強くなったと思えなくて、変化が分からないから魔法は苦手なんだよな


「付与されている時間は5分ですので注意してください」


 そう言ってはくれるが変化が感覚しかないから時間が迫っても、それを知らせる機能が無いから不便だな。何かタイマーのように時間が分かる機能を付けて欲しい。


「分かった感謝する。行くぞ、ナワニ」


「しゃあ!いくで!」


 ナワニがハルバードを持ち上げて突撃していくのを見た後に、ユッカの方を振り返る。


「先に行っている。付与し終わったらついてこい」


「了解っス」


 ユッカの返事を聞いた後に改めて転移者の方に突撃する為に地面を蹴る。魔法のお陰で、今までよりもはるかに早くナワニを追い抜いて転移者の元に肉薄して刀を振るう。

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