合流

「…ふう」


 最期の一人を縄で縛って額の汗を拭いながら立ち上がる。周りを見れば他の人達も無事無力化して縄で縛って一か所にまとめて置いてあります。今は戦闘が終わったので起きて追いかけてこないように縛って動きを封じている最中です。私にとっては手ごわい相手でしたが、ナギさん達が加勢に来てくれたので何とか無力化できました。もっと精進して一人前になりたいです。


「ナギさん、こっちは縛り終わりました」


 そう言って、現在隊長達と連絡を取ろうとしているナギさん達の下に駆け寄って報告します。


「…ああ、ありがとうござまいす」


 そう言ってねぎらってくれますが、ナギさん達の表情は暗いです。


「どうかしたんですか?」


「隊長と連絡が付かないんスよ」


 ユッカさんがナギさんの代わりに答えてくれました。


「洞窟の中なので届かないとかじゃないんですか?」


このインカムの詳しい仕様は良く分かりませんが、カルセさんから洞窟とか水中だと届かないっていう話を聞いたことがあります。


「いえ、このインカムは空間が繋がっている限り、たとえば水の中とか、別の世界に飛ばされたりしない限りは絶対につながるやつなので多分違いますね」


 割ととんでもない代物ですね、このインカム。


「とするなら、隊長の方に何か問題が起きたということですかね?」


 バロックさんが少し不安そうに眉をひそめて聞いてきました。あの隊長とセラさんが後れを取るとは考えにくいのですが、確かに連絡が取れないのは不安です。


「そうですね…一度向かってみることにしましょう」


「わかりました」


 反対することもないので素直に従って武器を持って歩き出します。





「なんか…静かですね…」


 聞こえるのは私達の歩く音だけで偶に耳元に風が吹く音が聞こえる程度で他に音はしません。


「そうですね…転移者以外の戦力はほとんどこっちに回しているので、妨害もないでしょう」


 辺りを照らしていると黒い石に混ざって石レンガのような物が見えます。もしかして遺跡とかでしょうか?ナギさんと行った世界とか、フレアさんのいる世界にあった古い神殿の外壁とかになんとなく似ているように感じます。


「しばらくは何もなさそうっスね」


 ユッカさんの言う通り特に何かあったわけでは無く、しいて言うなら溶岩を飛び越える時に足がすくんでナギさんにおぶってもらいながら飛んだことくらいですね。それ以外は特にハプニングは無く気を失っている魔法使いを縛ったりしましたけど、無事に床が大きく空いた部屋にたどり着きました。


「ここは…何かあったのでしょうか?」


 床に出来ている大きな穴を覗き込みます。部屋の壁付近の床は残っていて中央だけが綺麗に抜け落ちています。


「よくわかりませんが、この崩落は最近できた物の様ですね」


 そう言ってナギさんも穴を覗き込みます。すると


「…ん?この声、ナギか?」


 そう言って穴の底から聞き覚えのある声が聞こえてきました。


「隊長?隊長ですか?!」


 ナギさんは半信半疑で穴の底に向かって問いかけます。


「ああ、やはりナギか。少し待て…セラ行くぞ、せーの!シャアァ!!」


 穴の底から叫び声が聞こえたかと思うと爆発音と共に土煙が巻き起こって煙の中から隊長とセラさんが出てきました。


「いやなに、転移者が床を崩落させて私達を地面に落としたのだが、このまま追っても意味が無いと思ってな。すぐそこに溶岩があるような地中深くにあるのなら他に出口もなさそうだから、ここに油断して戻ってきた時に瓦礫を吹き飛ばしながら不意打ちをした方が良いと思ってな。セラとスタンバイしていたのだ。だが全く来なくてな…命を差し出すというのはうそだったのかな?と思い始めていた時に丁度ナギ達が着たという訳だ」


「…」


 何か今までの隊長のイメージが少し崩れた気がします。


「あの、隊長って…」


 隊長からこっそり離れて後ろにいるユッカさんに聞きます


「想像通り少しアホの子っス。今まではほぼ予定通りに物事が進んでいたり予想外の事態が起きても俺達が修正したから知らなかっただけだろうけど、今回一緒だったのがセラちゃんっスから…セラちゃん少し天然入っているから、この提案をオッケーしちゃったんスね」


 なるほど…隊長アホの子だったんですか…。


「…そうですか、前の部屋の岩についても関係あると、この部屋の床もそうですけど中々脳筋の方だったんですね」


「ああ、私も床をぶち抜いたときは少しビックリした。そのせいで反応が遅れて落ちてしまったのだがな」


「そのようですね。で?どうします?ここで待ち伏せでもしますか?」


 そう冗談を言いながらナギさんが隊長に聞きます。


「いや、この人数で待ち伏せは無理があるだろう。奥の部屋で迎え撃つとしよう」


「了解しました。それと隊長、インカムはどうしました?こちらの戦闘が終わった時に報告しようとしたのですけど返事が無かったのですが」


「え?」


 隊長は耳元にあるインカムを右手で取り外してコツコツと叩いたり、振ったりしています。やがて、何か分かったのか隊長はインカムを仕舞って結論を出しました。


「多分壊れているようだ。多分戦闘中か、床に着地した時にどこかにぶつけてしまったのだろう」


「…そうですか、取り合えず隊長はアイビーさんユッカさんと同じく一番後ろの方で後方警戒をお願いします。前には私とバロックが出ます」


「え?な、なぜ?私はまだ戦えるぞ?」


「左腕、気づいていないとでも?」


 ナギさんに指摘されて隊長は気まずそうに目をそらしました。バレバレですね。


「そんな状態で十全に戦闘が出来るか不安があります。後方で指示のみに徹してもらった方が安心します」


「…何のことだ?私は特に問題ないぞ」


 飽くまで誤魔化す気なのか左腕を回そうとしました。しかし、セラさんに肩をポンと置いて止められました


「痛いんですよね~?私と戦闘した時も明らかに左腕を動かしませんでしたし~。一発貰ったって言っていましたよね~?」


「隊長、私達が隊長に戦闘を任せているのは負傷していない時だけです。前回は少し強引に出て行ってしまいましたが、私達も心配しているんですよ?少しくらい私達に甘えても頼ってもいいんですよ」


「うっ…」


 セラさんとバロックさんからの攻撃に、大げさに体をそらして後ろに下がります。


「では、隊長は後方にいてください。前には私とバロックが出ます」


「しかし…」


 隊長が心配で後ろで大人しくして欲しいナギさんと、必死に前にいたいと食い下がっている隊長。互いの主張は譲らずに平行線をたどっていました。


「まぁまぁ、じゃあ隊長はセラちゃんとアイビーちゃんのガードってことで、ナギちゃんとバロックの後ろで待機ってのはどうっスか?」


 その話を止めたのはユッカさんでした。


「ですが…」


 不服そうなナギさんを引き寄せてユッカさんは顔を近づけました。


「隊長が飛び出しそうになったら俺が止めるっスから…ね?隊長もいいっスよね?」


 ユッカさんが隊長にそう聞くと隊長はすっごく不満そうな顔もしながらも、渋々といった感じで頷きました。


「…まぁ、それなら…」


「決まりっス。じゃあサッサと行きましょう。いつまでもここにいるわけにもいかないっスからね」


 これ以上話を続けない為にユッカさんは隊長の腕を掴んで歩き出してセラさんもその後に続きます。そういえば、まだ仕事中でした。転移者を追わないと


 私はユッカさんの後をついていき、ナギさんは少し疲れたような顔をしながら前に出る為に追いかけて、バロックさんは少し苦笑いをしながらナギさんの後を追いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る