お風呂に入って合流する

「ふう…」


 一通り体を洗った後に浴槽に体を沈めて空を見上げます。現在私達はギルドでの用事を終えて町の共同浴場に入っています。下水道にあった部屋は後でギルドの調査が入るそうです。銃に関しても持って帰ってきたライフルをギルドで預かって調べるみたいです。報酬は未探索エリアの報酬と、新しく発見された部屋分の報酬が支払われました。銃に関しては夜遅くて鑑定できる人がいないので明日に持ち越しになったようです。


 取り合えずもらえる分のお金をもらって、まだ閉まっていない服屋を必死に探して服を買った後にラアさんに誘われて共同浴場に行くことにしました。水道に入った後に宿のベットにダイブする気は元々なかったので、素直にラアさんのお誘いに甘えました。


 最初は少し豪華さのある建物にしり込みしてしまいましたが、入ってみればカルセさんと行ったホテルの方が豪華さは上なので少しリラックスできました。向こうは金の魚の口からお湯が出てきましたからね。それに比べたら石造からお湯が出るほうがまだ気が楽です。でも緊張しないわけではありません。初めて温泉に入った時は人が多かったので、タオルで体を巻いたとしても恥ずかしくてお湯に入るまでカルセさんの後ろにいました。背が低かったのでほとんど意味がありませんでしたが…。でもそれから二回の休暇を経て私は少しだけ慣れたので、誰かの後ろに隠れずにお湯まで入ることが出来ます。

急いで、でも匂いが落ちるようにキチンと体を洗ってから湯船に入りました。


「良い場所でしょ?」


 ラアさんが隣に座って空を見上げます。この浴場はいくつか分かれており、その内の一つは天井が吹き抜けになっていて夜空を見ながら温泉に浸かることが出来ます。流石に雨の日には開放していないそうなので、今日が雨が降っていなくてよかったと思います。


「そうですね…本当に良かったです」


 ラアさんにそう答えながら目を閉じて完全に力を抜きます。目を閉じればお湯の温かさにとろけてしまいそうです。これは、まずいですね。寝てしまいそうです。やっぱり運動した後に入るお風呂は最高ですね。部屋のお風呂だったら牛乳を一杯やりたいところです。そういえば、浴場の入口あたりに飲み物を売っていた気がします。買いに行きたいところですが、湯船から出るのが億劫になってしまって出たくないです。ここから出る時に買って更衣室で飲むことにしましょう。とりあえずもう少し堪能することにしましょう。


「アイビーさん」


 ラアさんとは違う声に呼ばれて目を開けて見上げます。そこにはタオルを巻いて片手には飲み物を持っているナギさんがいました。


「あ、ナギさんお疲れ様です」


「お疲れ様。ごめんなさい、急にいなくなっちゃって」


「いえ、大丈夫です。それよりも私初めて依頼を受けたんですよ」


 そう自然に切り出してナギさんに下水道で発見した銃についてのところを重点的に話します。もちろん隣にラアさんがいるので銃という単語は出さないように気を付けます。


「…へぇ、そんな事があったんですね」


 話し終えてもナギさんは特に驚いた様子はありません。どうしてでしょう。知っていたとかですかね?一応ナギさんはこの町が出来た時からいるので知っていても不自然ではありません。とにかく何か知っていそうなので二人きりになったら聞いてみましょう


「それでアイビーさんが、そのよくわからない物を見た時にナギさんなら知っているかも?って言ったんですけど何か分かりませんか?」


 いつの間にか私とラアさんの位置が入れ替わってラアさんがまたナギさんに接近してにそう聞きました。ナギさんは驚いた様子で私の方に目を向けます。私は無言のままナギさんに頭を下げて手を合わせました。


「…え、あ、ちょっと流石に実物を見ないと分からないけど、あれではないでしょうか?」


 ナギさんは思い出すように前に受けた依頼の話を始めました。魔獣退治のはずが魔獣が巣にしていた場所が未発見の遺跡に繋がっている話です。ナギさんは無駄に仰々しく話して本題をあやふやにした後に適当な所で話を辞めました。


「おっと、時間が経ち過ぎてしまいました。今日の話はこれくらいでやめましょう。それとアイビーさんこの後少し話があるので付いて来てください」


 そう言ってニコリと笑うナギさんの雰囲気は有無を言わせない空気です。ここで誤魔化す気は無いので、素直に従って部屋に入ったらすぐ土下座しましょう。


「ア、ハイ」


「では、行きましょう。それとアイビーさんと一緒に依頼を受けたあなた」


「はい、ラアです」


「では、ラアさんこれからもアイビーさんと仲良くしてあげてください」


「大丈夫です。元からそのつもりなので」


 その言葉を聞いて私は少し嬉しくなりました。でもこの後の事を考えると怖いです。


「それは良かったです。ではアイビーさん行きますよ」


「あ、はい、ではラアさん、また明日会いましょう」


 ナギさんはお風呂から出て出口に向かって歩いて行ったので、私もラアさんにお別れをしてナギさんについていきます。後ろではラアさんの周りに人が群がっていますけど、どうしたのでしょうか?

ラアさんが笑顔なので悪い事ではないようです。




「さて…」


「ごめんなさい!!」


 ナギさんが取っている宿の部屋に通されてすぐに私は土下座をしてナギさんに謝ります。とりあえず私が悪いのは確実なので怒られる前に全力で謝ります。


「…いえ、アイビーさん私は別に怒っていませんよ。少し話をしておきたいと思って誘っただけです」


「本当ですか?」


「本当ですよ。私は怒ってないとか言っておきながらネチネチ言うタイプじゃないので、そのあたりは嘘をつきません。とりあえず座ってください」


 ナギさんが部屋に備え付けている椅子を引いて座るように促します。私は立ち上がって椅子に座ると、ナギさんはもう一つ椅子を持ってきて私と向かい合うように置いて座りました。


「さて、その銃の事ですけど、十中八九転移者がこの町で作り出した物ですね。長い間この町にいますけど、銃なんてものが流行ったこともプロトタイプのような物が作られたことも一度もないはずです。その転移者は現在どうしているのは分かりませんが、この町にはいないでしょう。この休暇が終わったら、人事部に友人がいるので聞いて見ます。もし知らない様だったら隊長に報告するので、アイビーさんは何も言わないでください」


「了解しました。どうして銃だけが残っているんですかね?」

「それは分かりませんが、今回見つかった銃については多分回収されませんね。その銃は神の力によって作られた物ではなく、この世界で作られた物なので私達はノータッチです」

「わかりました」

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