アイビー取り残される

「ナギさんお待たせしました」


冒険者の証の金属のタグを触りながら子供達に囲まれているナギさんの所に向かいます。ナギさんは私が歩いてくるまで子供達と話していましたが、私に気が付くと椅子から立ち上がりました。


「いえ、こっちもこの子たちに話をしていたので、それほど待ったとは思っていませんよ」


「おねーちゃんが、ナギねいちゃんが言っていたアイビーさん?」

 ナギさんの所にある待っていた子供の一人、12歳ぐらいに見える男の子が聞いてきました。黒地のマントに身を包んだその姿は少し可愛く見えます。


「ナギさんから聞いたんですね」


 私はしゃがんで子供の目線に合わせて話します。


「そうです。私の名前はアイビーです。あなたの名前を教えてもらってもいいですか?」


 端から見ると子供に敬語で話しているおかしな人に見えるかもしれませんが、こう見えて私は作られてまだ1年も経っていないので人生の先輩にはこうして話すことにしています。

少年は年上にこうして聞かれたことが無かったのか少し戸惑っていましたが、咳ばらいをすると胸を張って自己紹介を始めました


「俺はフェル!!将来この国で一番の戦士になる男だ!」


 そう言って胸を叩く少年を微笑ましく思って笑いながら答えます


「そうですか、ではフェルさん私は先ほど冒険者になったので、フェルさんは先輩になるので、分からないことがあったら教えて下さいね」


「お、おう任せろ」


 フェルさんは少し戸惑ったようにうなずきます。


「フェルはこのギルドに所属している子供のまとめ役もやっているので、実際に頼りになりますよ」


 ナギさんが煽るようにフェルさんを持ち上げます


「お、おう任せろ。俺にかかれば魔獣だっていちコロよ」


 そう言ってドンと自分の胸を叩きましたが、力を入れ過ぎたようでゴホゴホとむせてしまいました。それが面白かったようで誰かが笑ったのを皮切りに全員つられて笑ってしまいました。


「さて、今日はここまでにしましょう。明日続きを話しますので、その時にここに集まりましょう」


「分かったよ、ナギねいちゃん、じゃあ全員いつもの空き地で遊ぼうぜ」


「「「おー」」」


 フェルさんがそう提案すると、子供たちはタタタと走って行きました。


「ナギさん、あの子供達も冒険者何ですか?」


 去って行く子供たちの後ろ姿を見ながらナギさんにそう聞きます。


「ええ、彼らも冒険者です。彼らの場合は朝の仕事が終わったり、子供では受けることが出来ない依頼、例えば力仕事の依頼だけになったりすると、ああしてロビーにいるので暇な時に話し相手になってもらっているんですよ」


 確かに子供達なら重い物を持つ依頼などは酷ですね。逆に子供が受けられる依頼は何かとナギさんに聞くと、呼び込みや迷子になったペット探しが子供たちの主な仕事になるそうです。


 幼い子供に呼び込んでもらうと結構売り上げが伸びるそうで、特に高齢の方のお客が増えるみたいですね。ペット探しは子供の行動力や独自の情報網によって見つけ出すことが多いみたいです。

また、呼び込みは相手とのコミュニケーション能力を鍛えたり、ペット探しは動物の痕跡や習性を覚えることによって斥候などの能力を鍛えるのに持ってこいだそうで、特に荒事に発展する危険が少ないこともあってギルドも子供に多く振る仕事のようです。


「詳しいんですね」


「これでもナンバー5ですから、職員の方と話す機会が多いので色々教えてくれるんですよ。」


 そう言えば受付の人と話す時も結構お互いにリラックスして話しているように見えました。


「それにしても、皆さんとはどうやって仲良くなったんですか?」


「それはですね。依頼が終わった帰りに子供達が、よそから来ていた不良に絡まれていたので助けたら好かれてしまいまして、私がギルドに来るたびに構ってくれるようになったんですよ」


 そう言っているナギさんの顔は、いつもよりも明るく見えました。


「ナギさんは子供が好きなんですね」


「・・・」


「・・・ナギさん?」


 返事が返ってこなかったので、振り返るとナギさんは目を瞑っていました。しばらくするとナギさんは目を開けて首を横に振りました。


「・・・いえ。私はあの子供たちが、うらやましいだけなんですよ」


「うらやましい・・・ですか?」


 予想していた答えとはだいぶ違う答えが返ってきました。


「ええ私達にはなかった時間なので少しうらやましいと思っているので、あの子たちと話していると自分が子供の頃だったらと思えるんですよ。」


 重い理由が帰ってきました。思えば確かに私達には子供時代がありません。作られた時からこの状態で、いつか死ぬ時までずっとこのままの姿なので子供時代も老人の気持ちも分からないで生きていくことになるんですよね。そう思うと少し悲しく感じます。


「さて、真面目に答えたら暗い回答になってしまいましたね。取り合えず依頼を受けに行きましょう」


 そう言って歩き出そうとすると向こうから、受付のお姉さんが走ってきました。


「すみません!ナギさん少し待ってください」


「どうかしましたか?」


 ナギさんがそう言うと受付のお姉さんが一枚の羊皮紙を差し出しました。ナギさんはそれを見た途端に露骨に嫌な顔をしました。ナギさんのあんな顔見たことないです


「・・・これは・・・あれですか?」


「はい・・・あれです」


 そう答えるとナギさんは黙りながら羊皮紙を受け取って読み始めました。しばらくして顔を上げるとナギさんはものすごく申し訳なさそうな顔をしながら、私の方を見ました。


「ナギさんすみませんが急用が出来てしまいました。ここからは一人で頑張ってください」


「え?」


「ちょっと断れない依頼なのでごめんなさい。もし困ったらザックさんとかに聞いてください、多分そこらへんにいるので頼ってあげてください。では」


 ナギさんはそう言うと受付のお姉さんを連れてギルドから走って出て行ってしまいました


「・・・え?」


 余りに突然の出来事だったので理解が追い付かず、しばらく放心状態にいました。取り残された机で一人頑張って理解を追い付こうと頭を働かせた結果一つの結果にたどり着きました。


「・・・そうだ依頼受けに行きましょう」


 私はこれ以上考えることせずに掲示板に向かって歩き出すことにしました。

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