アイビー誘われる
ナギさんがいなくなったロビーにて独りぼっちになりながら、掲示板にある依頼の書かれた木札を見ます。掲示板には木札を引っ掛ける鉄の棒がありましたがどれも木札が残ってなく、今残っている木札は一つだけでした。
「えーっと、残っているのが下水道の探索・・・だけみたいですね」
残っている木札を取って見ます。少し上を見れば他の依頼が残っていますが、あれは今の私のランクでは受けられない依頼なので駄目ですね。でも下水道の探索ですか・・・前回の仕事の時に下水道の臭さを味わっているので、出来るなら行きたくないですね。
それによく考えたら、別に今日行く必要もないですよね。別にお金も困ってないので受けなくてもいいんですよね。皆さんには悪いですけど、私は完全に娯楽目的で登録したので急ぐ必要は無いですから明日改めて依頼を受けることにしましょう。
「それ、受けるのか?」
「え?」
依頼を受けるのを諦めて宿を取ろうと思って、木札を掲示板に戻そうとした時でした。突然、後ろから声をかけられました。木札を手に取ったまま振り返ると、そこには3人ほどの男女で構成されたグループが立っていました。見た目は私よりも若い気がします。剣や杖を持っていますが、他の人の装備と比べると少し安く見えますね。
「その依頼、受けるか?」
その男女のグループの中でもリーダー格と思わしき男の子が同じ質問を繰り返しました。腰にナギさんが持っているものよりも少し大きめな剣を下げています。両手剣でしょうか?とりあえず受ける気のない意志を伝えようと思いましたが、それを言う前に向こうが話始めてしまいました。
「受けるんだったら、一緒に行かないか?報酬は山分けになるが、それでも一人よりかは楽になると思うんだ」
「それに初心者だから知らないだろうけど、その依頼一人でやるには大変なんだよ。だから一緒に行こうって言ったんだ」
「あ、因みに誘ったのは私ね」
そう言って少年の後ろから耳が長い少女が顔を出しました。ローブのような布に体を包んでいる彼女ですが、ローブの隙間から下半身の恰好が見えます。腰には何かを締まっているポーチが左右に見え、太ももには何本かのナイフを鞘に納めた状態で直接まいているが見えるので、彼女が斥候のようなポジションにいるのではと予想します。
「私のセンサーにビビッと来たの、貴女結構強いんでしょう?」
そう言って私にズイっと顔を近づけました。その時に彼女の髪からふわりと香ったフローラルな花の匂いが気になりましたが、それどころではないと思って踏みとどまりました。幸いにして今注意はこちらに向いています。ここは私が話しても流れを切らないはずです。
「いえ、私は」
「皆まで言わなくてもいいわ」
断ろうとした口は全てを言い切る前に、彼女の人差し指によって塞がれました
「貴女の言いたいことは大体わかるわ・・・ズバリ私達の実力のことね!」
いいえ、違います。そう言いたいのに、勢いでズバっと言えない私が恨めしく思います
「心配しなくてもいいわ!私達は将来を有望視されているパーティ『クロリア』よ」
そう言って女の子は、びしっと片手で顔を隠してポーズを決めました。それよりも、すっごいツッコミをしたい部分があるんですけど、少し前に聞いたばかりの名前が聞こえたんですけどどういうことですか?
「どう?すごいでしょ?最高にいい名前でしょ?」
私が驚いた顔をしているのに気が付いた女の子は、目をキラキラさせながら近づいてきます。今度こそと息を吸い込んで言葉を紡ごうとしますが。
「その将来有望視されているは自称ですので、悪しからず」
それに茶々を入れるように三人組の最後の一人の男の子が割り込みました。
「何よ!近い将来、現実になるんだから今更名乗ったって関係ないわ」
そう言って女の子が文句というか言い訳を言っていますが、男の子はソッポを向いて全く気にしてません。
「その楽観的な妄想に基づく言動はやめてください。それに僕はこの人を誘うのは反対です」
男の子はソッポを向いたまま反論を始めました
「下水道探索は他の依頼に比べると少し危険が伴う依頼です。それを分かっているのに初心者を誘いたくありません失敗の可能性が高まります」
ローブを着た男の子の言っていることは少し納得できます。私としても向こうの事を何も知りませんし、向こうも私の事はあまり知らないはずです。それなのにどうして私を誘ったんでしょうか
そんな私の疑問を他所に向こうの会話は続きます。
「それは、もうすでに決まったことだろ?今更言うのは間違っているぞ」
リーダーっぽい男の子が少し大きな声で怒りました。
「・・・ごめん」
そう言うとローブを来た男の子は罰が悪そうに顔を伏せます
「謝ればよし」
リーダーっぽい男の子は頷くと、女の子がそれ乗って付け加えます。
「それに、この人あのナギさんと仲良さそうに見えたし絶対ただ者じゃないって」
そう言われて、どうして一応初心者の私に声をかけたのか疑問でしたが、少し納得しました。このギルドの実力者であるナギさんと親しい間柄に見えて、さらに私が冒険者に登録したので、少なくとも只者ではないと思ったのでしょう。その予想は惜しかったですね。私今武器持っていないですし、戦闘経験は銃関連しかないのでこの世界で通用するのかは疑問です。
そう言いたいのに、私が口をはさむ暇が無いほどに話が勝手に進んでいます・・・
せめて私に話すタイミングを下さい
「それに俺ら三人でも少し危険がある少なくとも、もう一人誰かが欲しいのは分かっているだろ?」
「それはそうですが・・・」
言葉に詰まったのをいいことに女の子がパンと手を叩いて流れを変えました。
「決まりね。そう言う訳で、その依頼私達も受けたいから一緒に行こうって誘っている訳、勿論報酬はそっちが多めでもいいわ。どう?一緒にやらない?」
そう言って女の子が私の方を向きました。
すっごく断りにくい・・・
本当なら下水道なんて行きたくないですし、さっきから聞こえた危険と言うワードもあるので初仕事がこれでいいのでしょうかと思っていますし、いきなり危険な依頼を選ぶのではなく、安全な依頼から始めたいと思う気持ちもあります。
でもせっかく彼らが誘ってくれたので出来るならば参加したいです。私はまだ作られて日が浅いのですが、世界は無数にあってその分人も多いのは理解しています。だから私はこのような出会いは無下にしたくありません。断ってしまえば彼らとの出会いはここで終わってしまいます。そうあってほしくないと私は思います。
なので、まずは話を聞いてから改めて話すことにしましょう。
私はそう決めて話始めます。
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