冒険者ギルド

「あれがこの町の最大の観光スポットのサント・ファミリア大聖堂です」


私が見上げている建物の名前をナギさんが教えてくれましたが、今は正直それどころではありません。


 私が今まで見た中での一番大きな建造物は、前回の仕事の時に行った世界で転生者が使っていたお城です。大きさはあのお城には敵いませんが、あのお城はボロボロで今にも崩れてしまいそうでした。しかしこの大聖堂はどこも損傷していない綺麗な状態の建物です。壁に彫られている彫刻やステンドグラスの輝き、どちらも荘厳さと優雅さを醸し出しています。フレアさんの家にも似たような彫刻などはありましたが、それでもこちらの方が綺麗だと私は思います。


「綺麗ですね」


 私は思った感想をそのまま言う。


「そうですね。なにせ、ここの国の国教である『サルバシアン教』の本拠地ですから、他の教会よりも装飾の豪華さなら何処にも負けていませんよ。今は中に入ることが出来ませんが、ミサなどが行われる時に入れるので、その時に入りましょうか」


 そうナギさんが提案してくれたので


「はい!是非お願いします」


と即答します


「では、ミサの日を確認するついでに、少し寄りたいところがあるのですが、ここで待っていますか?」


 少しだけ聖堂の方を見て目に焼き付けてから、ナギさんの方を見ます


「・・・いえ、大丈夫です。ついていきます」


 すぐ帰るわけではないのですし、ミサの時に見ることも出来るので、ナギさんについていきます。


「分かりました。では向かいましょう。人が多いので手をつなぎますが、はぐれないように注意してください」


 そう言って差し出された手を握るとナギさんは歩き出しました。ナギさんに手を引かれながら、そう言えば行く場所を聞いていないことを思い出しました。


「あの行くのは大丈夫なのですけど、どこに行くのか教えてくれませんか?」


 ナギさんは振り返らずに答えました。


「冒険者ギルドです」





「到着しました」


 人通りがまだ多い通りを歩いていると、ナギさんは一つの建物の前で立ち止まりました。


「ここが・・・」


 木製の大きな両開きの扉の前に立ちます。


「そうです。冒険者ギルドになります」


「それで、ここに何の用なんですか?」


「登録の更新です」


「え?ナギさん冒険者やっているんですか?」


「はい、完全に趣味ですが冒険者をしてます」


 そう言えばこの前ナギさんが帰ってきた時に、戻る前に寄った町のお土産を持ってきてましたね。あの時は旅をしているのかと思ってましたが、こういう事をしていたんですね


「でも、それってどうなんですか?私達が彼らに対して行っていることから、あまり深くかかわるのはどうかと私は思うんですけど?」


 流石にここで転生者だの転移者だのいう訳にもいかないので少し言葉を濁して話します


「彼らがああなるのは奴

かみ

から力をもらったこと、それを振り回して国を亡ぼしたり、そこにとってのオーバーテクノロジーをポンポン生み出して渡したりする恐れがあるから、あの結末になるわけです。私達の持ち物はここでは不自然でないものを選んで持ってきているので大丈夫となっています。もし、アイビさんがカンタービレとかを持ってこようとすると止められますよ」


 なるほど、と思いました。


「それにしても立派ですね。ここまで大きくなるのには」


「それについては二つの理由がありますが、その前に中に入ってしまいましょう。ここでずっと立っているのも不自然なので」


 そう言ってナギさんは扉を開けて中に入って行きました。


「あ、待って下さい」


 扉が閉まる前に体を入り込ませて何とか中に入りました。中には弓や杖、剣を持っている人がカウンターで何か話したり、奥で食事をしていたりしました。


「少し向こうの方で待っていてくれ、すぐ終わらせる」


 そう言ってナギさんはギルドの奥、長机が均等に置かれている場所を指しました。


「分かりました」


 言われたとおりに机に座ろうと歩いていると、壁に賭けられている掲示板に目に留まりました。なんとなく掲示板に近づいて眺めてみます。掲示板には沢山の木札綺麗に並べて掛けられています。書かれているのは何かの依頼みたいです。掲示板の上の方には魔獣討伐や護衛依頼等がありますが、下の方には店番やゴミ掃除等の雑用の依頼が多いみたいですね。


「お?なんだ嬢ちゃん興味あるのか?」


 後ろから急に声が聞こえたので、驚きながら振り返ると見上げるほどに大きな男性が話かけて来ました。服の上からでもわかるほど盛り上がっている筋肉


「見ない顔だな」


「あ、いえ、その、とある人についてきただけで・・・」


 今まで話しかけられることはあっても、その前に気づくことが出来たので何とかなりましたが、今回は急に知らない人から話しかけられたので、どう対応すればいいのか思いつきませんでしたが、それでも答えなければと思いしどろもどろになりながらも答えます


「お、なんだ、そうなのか?なら初めてか、俺が案内してやろうか?」


 二カッと笑う男の人の顔を見ながら、どう断ろうか考えます。見た目から怖いですけど、言っていることはすごい良い人に感じます。でもこの見た目の印象のせいで不審者に見えて仕方ありません。正直少し怖いです。


 転生者や転移者なら、迷わずに殴ることはできるんですけど、この人はどちらでもないので殴っていいのか分かりませんし、それにここは人が多いので、そこでひと騒ぎ起こすはどうかと思うので何とか穏便に断る言い方を考えていると


「ザック、彼女は私の連れなので。手を出さないでもらいませんか」


 ナギさんの声が聞こえました。男の人が振り向いたので、反対側にいるみたいで見えませんでした。少し体を傾けて向こうを見ると、腰に剣を下げて左手に盾を持ったいつもの仕事スタイルになっていました。


「ナギ、あんたの連れか?」


「ええ、案内はしようとしてくれるのは助かりますが、前から言っているように、もう少しその威圧感をどうにかしてから話しかけてやってください。少し怖がっていますよ」


 ナギさんがそう言うと


「・・・そうか」


 男の人は少しシュンしたように項垂れた後に、こっちに振り向いて


「悪かったな。怖がらせちまったようで」


 そう言って頭を掻きました。


「いえ、私も突然話しかけられるのは慣れていなもので、私も怖がってしまいました。でもあなたの言動は、少なくとも私の事を気にかけての言葉だということは分かります。」


 確かに、いきなり話しかけてきたのでビックリしましたし、顔が怖かったので不信感しかありませんでしたが、先ほどの会話と今の謝罪と顔を見れば悪い人ではないのが分かります。


「そうか、とにかく済まなかったな。それじゃ」


 そう言って出口に向かおうと背を向けました


「あ、待ってください」


 一つ大事なことを言っていませんでした。


「なんだ?」


「私の名前はアイビーです。よろしければ名前を教えてくれませんか?」


 少し違いましたけど自分を助けてくれようとしたのに違いはないので、名前を聞いておきます。名前はナギさんからの会話で聞いていますが改めて聞いておきたいですし。


 男の人は少しためらった後に


「ザック、ザック=アバンスだ」


と改めて教えてくれました


「ではザックさん。助けてくれようとして、ありがとうございます」


そう言って頭を下げます。ザックさんは驚いた顔をしたあとに恥ずかしそうにそっぽを向いて、返事をせずに歩いていきました。

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