蹴って説教される
入ってきたのは私がここで目覚めてから初めに会ったあの恰幅の良い人でした。
その人は焦ったような顔で扉を開けて牢屋の外に出ている私達を見てギョっとした後にまた焦った顔に戻って、一番近くにいた女の子を掴んで引き寄せました。
「・・・あ、ちょっと!」
一瞬の出来事だったので反応できなかったのですが助けようと動こうとしたら
「動くんじゃねぇ」
そう言って男の人はナイフを取り出して女の子の首筋に当てました
「いいか、動いたらコイツの命はねぇ!」
男は女の子を抱えてこちら方を向きながらじりじりと外につながっている扉に下がって行きます
私の速度なら助けることも不可能ではありませんが万が一失敗してしまうと取り返しのつかないことになるので動けません
男はかなり後ろに下がりこちらを見たまま外につながるドアについているノブに手をかけました
その時に突然
「はああぁぁぁぁ!!」
扉の向こうから叫び声が聞こえて扉が粉砕されました。
扉が粉砕されたことで埃が舞ってよく見えませんが誰かが飛び蹴りをしてドアを粉砕しながら中に入ってきました。
「しゃあぁぁ!」
煙の向こうの相手は空中で姿勢を変えて女の子を盾にしていた男の人目掛けて踵落としを放ちました。
「・・・は」
扉が粉砕されたことに気を取られて踵落としに反応できなかった男は女の子を盾にできず、男の首筋に的確に踵落としが決まり男の人は白目を向きながら倒れました
「・・・ふう」
男を一撃で倒した人は一呼吸おいてこちらを見ました。
私は咄嗟に構えます
あの動きからして只者ではありません。私でも勝てるかどうか・・・でもここで死ぬわけにはいきません。もしかしたら敵ではないかもしれません。まずは会話をしましょう
そう考えていると煙の向こうの人の動きが止まりました
「・・・アイビー?」
「・・・・はい?」
どうして私の名前を?いえ、それよりもこの声は・・
「アイビー!!」
人物はそう言ってこちらに向かって駆け出して煙からその姿を現します。
「隊長!」
煙から出てきたのは隊長でした
「アイビー!」
隊長は満面の笑みでこちらに駆け寄って自分の胸に抱き寄せてきました。
「た、隊長・・・んぐ!」
私は隊長に抱きしめられて頭を抑えられました。
「アイビー!良かった・・・本当に良かった」
隊長はそう言いながら私に回してきた腕を締めてきました。
「た、隊長・・・危ない・・危ないです・・・」
止めようにも隊長に声が届いていないようですし、腕を掴んでも全く動きません
このままでは隊長の胸で頭蓋を割られて死んでしまいます
「隊長そこまでにしてください」
ナギさんの声が聞こえてきた後に隊長の体が揺れました
隊長にしっかりと頭をホールドされてさらに胸に押し付けられているので周りの状況がまったく見えないですが、ナギさんが隊長を揺さぶったようです。
「え?ナギか?」
「隊長このままだとせっかく会えたアイビーさんを殺してしまいますよ」
「え?・・・あ、すまない!大丈夫か?」
隊長が腕を緩めてくれたので私は隊長のホールドから解放されました。
「プハ!・・・いえ、大丈夫です。それよりもどうして隊長がここに?」
「アイビーが時間になっても来ないから転移課に来てないか聞いたところ来てないと言ったのでな」
そう言いながら隊長は目元を拭っています。
「もしかしてトラブルに巻き込まれたと思ってアイビーが行った世界に全員で転移して探していたんだ」
「その一環で町の人に聞き込みしていたら、怪しすぎる人たちに襲われたので何で襲ったか聞きだすとアイビーさんについて話したので、そのまま連れて行った所に案内してもらって来たということです」
そう言うナギさんの服装はいつもの仕事着ではなくて少し派手さのある綺麗な服でした。
「そうですか・・・って今何時ですか?」
「日付が変わる少し前だ」
まさかの連絡せずに約束をすっぽかしてしまったようです。捕まっていたとはいえそれは不味いです!
「すみません。せっかく隊長が準備してくれた歓迎会を台無しにして」
私はそう言って思いっきり頭を下げます。
「顔を上げてくれ、アイビーに落ち度はない。それよりも戻ろう、ユッカ達が上で待っている」
そう言って隊長は上に行こうとしました
「あの私達はどうしたら?」
一連の出来事で置いてけぼりになっていたオリアさんが我にかえり不安そうな顔をしながら聞いてきました。
隊長は誰だろうこの子?と言った顔をした後にオリアさんの服を見て少し考えたあとに私を見ました。
「アイビーが助けたのか?」
「はい、成り行きですが出口まで案内してもらおうと思いまして」
「・・・そうか」
隊長は何か言いたそうな顔をしました
「・・・隊長?」
「いや何でもない。君、名前は?」
「オリアと言います」
「そうか・・・ではオリア、私達は君たちまで面倒は見れない」
「・・・!!」
「多分だが助けてもらったついでに面倒を見てもらおうとか考えていないか?」
隊長の言葉にオリアさんは顔をそらします
「助けてしまって申し訳ないがこれからは各自で生きて欲しい・・・いくぞ」
そう言って隊長は私の手を引いて部屋を出て行きました。
ナギさんも私の後ろを歩いています。
「・・・隊長?」
「・・・・アイビー」
隊長はこちらに振り向かずに話し続けます。
「助けたい気持ちはわかる。しかし最後まで面倒をみることができないのであれば助けても無意味だ」
隊長は
「彼女たちは多分この後は保護されるだろう。しかしその後どうなると思う?良ければ家族に会えたりして幸せになれるだろう、だが自分の事ですらまともに出来ていない様な年の子もいる。結局そう言う子はこのような所に戻ることになる。孤児院もあるがそれでもこの部屋以外にも捕まっている人がいた。その人数も含めると全員が孤児院に入るのは無理だろう」
「・・・・」
「・・・だが助けたい気持ちもわかる。しかし私達は助けたい相手を全て助けることは絶対にできない。それを理解して欲しい」
隊長の言いたいことは理解できます。現に私はオリアさんを助けることが出来ませんでした
「・・・でも私は助けることを諦めることは出来ません」
「そうか」
隊長はその後に何も言わずにユッカさん達と合流しました。
鍵はセラさんがマスターキーを見つけていたのであっさりと足枷が外れました。
「本当に今回はご迷惑をおかけしました」
ユッカさん達にも合流できたので私は改めて謝罪しました
「別にいいっスよ。アイビーちゃんが全部悪いわけではないっスから」
「ええ、それよりも早く戻りましょう」
「はい・・・」
隊長達が転移する為に人気のない所に行き始めたので私も後ろ髪を引かれる思いはありますが、その場を後にしました。
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