絞められて転びかけて挨拶する

「・・・グッ!うぁ・・・」


 腹部を締め付けられる感覚に私は顔を歪ませます


「もう少しです。すみませんが我慢してください」


 フローラさんが紐を引っ張ってコルセットを締めてきます。


 ドレスに着替えるために必要な物だからと言われてフローラさんに締められています。


 コルセットは知っていますが、これから食事をするのにお腹を締めるのはどうなんでしょう?


 別にコルセットを否定しているわけではありませんし綺麗に見せたいというのもわかります。


 セラさんやナギさんも髪の手入れは念入りにしています


 隊長は・・・普段は髪がボサボサにはならない程度に手入れをして、休日は時と場合によって変えていると聞きました。


 たまにナギさんにワックスとかを使って髪型を弄られているそうです。


 私はセラさんに教えられながら髪の手入れをしています。


 髪の手入れは大事とセラさんが力説していたので、綺麗に見せたいという考えは理解できます。


 でもコルセットはなくてもいいような気がします。


 正直ここまで絞らなくても十分だと思うのですけど・・・


 このままだと私パン一枚も食べられなく無くなりそうなのでもう少し緩めて欲しいのですが、しかしそんなことを言えるわけもなく私は試着室でコルセットを締められています。


「あぁ・・・」


 コルセットがまた一段、締まってきました。


 これどこまで締めるのでしょうか?


 このままでは背骨だけになりそうです・・・


「おぁぁ・・・・」




 あの後どうにか着替えが終えてメイクや髪を整えてどうにか準備が終わりました。


 ・・・コルセットに締められているのでお腹が苦しいです。


 これ、この後の夕食入りますかね・・・


 あまり夕食は残したくないのですが、これでは少し厳しそうですね


「では・・・ご案内します」


 もうこれで終わってもいいのではないかと思ってしまいましたがそんなことは無く、息を切らせたフローラさんが別の部屋に誘導します。


 コルセットって締められる側も大変ですけど、締める側も結構な重労働みたいです。


「はい」


 私は歩き出そうとしましたが二歩目でドレスの裾を踏んづけてしました


「ッと?!」


 せっかく着替えたドレスとメイクを汚すのはまずいです!!


 あとあの地獄をもう二度と体験したくない!!


 私は前のめりになった体を強引に動かして咄嗟に壁に半分埋め込まれている柱を掴んで耐えました。


「大丈夫ですか?」


 声に気が付いて振り向いたフローラさんが支えてくれました


「すみません、スカートの物にあまり慣れていなくて・・・」


 いつもは隊長が


『仕事中はスカートをはくのは構わないが長いのは駄目だぞ、つまずいてしまうからな

あと戦闘中に下着を見られたくないならブルマとかはいておけ』


 と言っているので足元まで届いているスカートを着たことはありませんでした


 その内着た方がいいのでしょうか?


 今度服屋を見てみることにします


「そうでしたか、ではお手をどうぞ。サポートします」


 そう言ってフローラさんが手を差し出してくれました


「あ、ありがとうございます」


 私はフローラさんの手を掴むと


「では改めてご案内します」


フローラさんはそう言った後に歩きだしました。けれど先ほどよりもゆっくりとしたスピードで歩いてくれました


スカートに慣れていないと言ったのでスピードを合わせてくれたのでしょう


お陰でスカートにつまずくことなく部屋にたどり着くことが出来ました。


「では私はここまでです」


 扉の前に着くとフローラさんは扉の脇に行き一礼をしました


「そうですか、ここまで案内してくれてありがとうございました」


 私はフローラさんにお礼を言うとフローラさんは少しきょとんとした後にフッと笑って


「礼には及びません。今回の食事はアイビー様が貴族でない事も考慮して作法などは気にしなくて構いませんと御屋形様が言っておりました。ではどうぞごゆっくり」


 そう言って扉を開けてくれました


 入った部屋には何十人も座れそうな長机があり机の中央には蝋燭が等間隔に置かれています。


 そしてその机の端にフレアさんとフレアさんのお父さんが座っています。


「ほ、本日はお招きいただきありがとうございます」


 いくら作法などを気にしなくてもいいとはいえお礼ぐらいはきちんとしないといけませんから!


ただあまり丁寧語を使ったことがないので、これで合っているかは分かりません


「いや、こちらこそ急に誘って申し訳なかった。そちらがいつ出発するかわからない為こうなってしまった」


「いえ、私も明日には出発しようと思っていたので、お父さんの判断は間違っていなかったです」


 正確には転移ですけどね。


「そうか・・・」


 フレアさんのお父さんは少しバツが悪そうに目を伏せました。


「あの・・・何かまずかったですか?」


「アイビーさんは悪くないです。ただ父は私の言っていることが正しかったので少し後悔しているのです」


 フレアさんがそう言って教えてくれました


 家では父呼びなんですね


「改めまして、こんにちはアイビーさん今日は楽しんでください」


「こんにちはフレアさん。お誘いありがとうございます」


「家主を差し置いて先に挨拶するものではないぞ・・・。ようこそ来てくれたアイビー殿、急に決まったので大したことは出来ないが、楽しんでいってほしい」


 そう言ってフレアさんのお父さんは席を指しました。


 多分そこが私の席なんでしょう


 特にそこに座らない理由はないのでそこに座ります


 私は席に着いたのを見てフレアさんのお父さんがパンパンと手を叩きました


 すると私が入った扉とは別の場所から、ワゴンを押して数人のメイドさんが入ってきて私の前にワゴンから料理を出して前に並べてくれました。


「アイビー殿はコース料理等には不慣れだろうと思ったので、メインの料理以外は自分から取るということにした。もし席から離れた料理を取りたい場合は近くのメイドに行ってくれれば取ってくれる」


 私はチラリと後ろを見ると確かに後ろにメイドさんがいます。


 フレアさんの方にはフローラさんがいますね。


 そうこうしている内に目の前の料理の隣にワイングラスが置かれて、中身が注がれていきます。


 注ぎ終わった後にメイドさんは後ろに待機したので配膳が終わったようですね。


 さて食べようかと手を動かしかけましたがフレアさんのお父さんの方を見ると何かに祈っています。


 フレアさんも祈っているのでここは一緒に祈りましょう


 しばらく祈った後にフレアのお父さんが


「では食べるとしよう」


 と言ったので私はとりあえずメインの料理を食べることにしました。

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