トラブル遭遇

 浮遊感が収まって目を開くと、裏路地にいました。


 私は忘れ物が無いか再確認をした後に今回の目的を思い出します。


 今回の目的はこの前カルセさんに改めてお礼をした時に教えてもらったお店に食べに行くことです。

そのために転移課の人に頼んで近くの裏路地に転移させてもらいました。


 時間はお昼時を少し過ぎたあたり、少し人が少なくなるでしょう時間帯を狙って転移しました。


 とりあえずお店に行きましょう。


 私は大通りに出て目的のお店のある通りに入っていきました。





「・・・フウ」


 私はお腹いっぱいになったお腹をさすりながら店を出ました。


 本当の名店は看板を出さなくても美味しいですし客が来るんですね。


 お店から出ながら私は先ほどの店の料理を思い出します。


 内装はそれほどきれいじゃありませんでしたし、何よりもこんな裏通りに看板も出さないであるので本当にお店なのか不安でしたけど、中に入れば分かりました。


 入ってすぐに鼻に来る美味しそうな匂い、そして中にいる人の数はすくなかったのもありますが、誰もしゃべっていなく、ただ食べる音だけが聞こえてきます。


 出された料理はどれも美味しく、それでいて料理のおばちゃんも愛想がよかったです。


 食べ終わった後の余韻を楽しんで席を立ちました。値段も納得のいく金額で私の心の中では10点中10点を超えて100点のお店でした。


 また行こうかと思いながら裏通りから出ようと足を向けた時に、反対方向から悲鳴が聞こえてきました。


 ・・・どうしましょう


 何か事件か厄介ごとかもしれない


 助けに行きたい気持ちもあるけど、厄介ごとに中途半端にかかわるのは良くないって隊長に言われましたから・・・


 ・・・聞かなかったことにしましょう。幸いにして行きたい方向とは逆方向ですしね。そう思ってクルっと向きを変えて歩き出そうとした時に悲鳴の方から走ってくる音が聞こえてきました


 隠れようとしましたが裏路地でもここは建物の隙間の無い一直線な道、一応十字路はありますがその方向は悲鳴の聞こえた方向、隠れられそうなゴミ箱もありません。


 もう一回店に入る?でもあんなに素晴らしいお店にトラブルを持ち込みたくありません


 そうこうしていると走ってくる音が近づいてきました。


 足音からして複数人いるようです。


 音の大きさからしてすぐそこまで来ていますね。今から走って逃げても声をかけられたら、無視しにくいですね。


覚悟を決めましょう。一緒に逃げましょうとか言われるかもしれませんからね。


 少しすると曲がり角から女性が出てきて


「あの!お願いします!助けてください!!」


 そう言って10代前半くらいの女の子が私の後ろに回りこみました。


 それよりも、え?そうなるんですか?私外見は女性ですよ?ここは一緒に逃げようとかじゃないんですか?


「嬢ちゃん、鬼ごっこはもう終わりか?」


 そう言って曲がり角から5人ほどの男の人が出てきました。


 両脇の髪をそっていたりして見た目は悪そうですが、何と言うか見た目のわりに余り悪そうに感じないのですが、一応女性を後ろに隠したままにしておきます。


「えっと・・・何でこの女の子を狙っているのですか?」


 一見すると女性が被害者に見えますが、もしかしたら女の子の方が盗みを働いていて男の人の方がいい人なのかもしれませんから、取り合えず聞いてみます。


 男の人たちは顔を見合わせた後にへへっと、にやけながらこちらを向いて答えました。


 「いやなに、俺達はそこのお嬢さんに道を教えようと思ってな」


 「そうなんですか?」


私は後ろに隠れている女の子に聞きました。


 「確かに道を教えてもらおうと思いました。けれど裏路地に入ったとたんに、態度を変えて私を襲おうと!!」


 ・・・なんで裏路地に入ろうとした時点で疑問に思わなかったのでしょうか、この女性は?


 まぁ、取り合えずこの女性が被害者なのは分かりましたし助けたいのですが、全員を倒すのは駄目ですね。隊長から手ほどきを受けているので近距離戦闘にもある程度自信がありますし転移者と同じくらいの身体能力はあるので、一方的に攻撃することはできますが問題行動は避けたいですね。


 ならば、答えは一つですね。


 幸い男の人たちは後ろに回り込んでいません


 逃げるなら今です


「すみません!」


 私は振り向いて女の子を両手で抱えて大通りに向かって走り出しました。

「え?きゃあ!」


「んな!!ま、待て!!」


 男の人が声が聞こえますが待てと言われても待つわけには行きません。


 後ろから走ってくる音が聞こえますが、私のスピードに追い付けずに、距離が離れているので大丈夫そうですね。


 むしろ問題は・・・


「あの!あの!!」


 女の子が状況を把握できていないようで、こちらに声をかけている。


 大きい声ではないですがここは静かな裏通り、たとえ脇道の無い直線だったとしても声をあげられると少し困る。


「すみません、静かにしてください。あなたの声で居場所がばれますよ」


 少しきつい口調で言うと、女性は困惑してはいますけど頷いて静かになりました。


「ありがとうございます」


 そのまま走り続けると、大通りに出ました。


 先ほどの裏通りを見るとこちらに走ってくる男たちが見えた。


 まだ諦めていないようなので人の流れに沿って走ります。


 人に当たらないように気をつけながら進んでいるのであまり速度は出ていませんが、それでも中々の速度で移動できているので撒けたでしょうか?


そう思って後ろを見たらまだ追いかけてきている。しかもいつの間にか結構距離が詰められている


「うそ!」


このままだと確実に追い付かれてしまいます。


・・・しょうがないですね。


「すみません、私がいいと言うまで目を閉じてもらえますか?」


 私はお姫様抱っこしている女の子に声を掛けました。


「え?」


「ちょっと過激な事をするので、目を閉じた方が嫌なものを見なくていいと思うのですが?」


 私がそう言うと女の子は青い顔をしながら頷いて目を閉じました。


 私は女の子が目を開けないことを確認した後に、一番近くにある裏路地に入り込みました。


 その路地に人がいないのを確認した後に少し奥に進んで次の角を曲がってすぐに壁を何回か蹴って跳び屋根の上に乗り寝転がり女の子を上に載せて身を隠しました。


 少しした後に数人の足音が通り過ぎて行きました。


「・・・あの、まだですか?」


 女の子が不安そうな声で聞こえたので、顔を覗くとまだ目を閉じていました。


「すみません、もうしばらくお願いします」


 私はポンポンと頭を撫でながら言うと女の子はコクコクと頷きました。


 「ありがとうございます」


 私は礼を言って耳を澄ませました


 しばらく屋根の上で待ってみましたが、何も物音がしないので屋根から少し顔を覗かせて裏路地を見ましたが誰もいません。


・・・あれ?最初に隠れるときにこの方法で隠れればよかったのでは?


 そう思いましたがあの時に思いつかなかった自分が悪いだけなのでそれ以上は考えないことにします。


 私は女の子を抱えなおして裏路地に降りました。


「もう大丈夫ですよ」


 私がそう言うと少女は目を開けてあたりを見回した後にこちらを見ました


「ここは?」


「ここは、あそこから少し離れた通路です」


「そうですか、まずは助けていただいて、ありがとうございます」


 そう言うと女の子は姿勢を正して丁寧にお辞儀をしました。


 改めて見るとそれなりに高そうな服を着ていますね。


「いえ、こちらも突然の事で訳も分からないのですけど、とりあえず自己紹介から私はアイビーと言います」


「私は、フレア=フェケテ・・・です」

 今何か言おうとしましたね。しぐさといい恰好といい、もしかして少しお金持ちのご令嬢か貴族の方なのでしょうか?


 この国は貴族制度が採用されているので、貴族が存在します。


 少なくとも私の知っている限りでは貴族は護衛をつけて行動している者だと知っています。


 ではお金持ちのご令嬢ですかね?


 でもどちらにしても護衛もついていないのは気になりますね。


 取り合えず、少しずつ聞いてみることにしましょう


「そうですか。ではフレアさん、今日は親御さんと一緒ではないのですか?」


「えっと・・・それは少しはぐれてしまって探していたの、それであの人たちに聞こうと思って」


「なるほど、そうですか」


 嘘だと思います。少し前の会話で道を聞いていたら裏路地に連れ込まれたと言っていたので怪しいですね。


 前者の方が真実だと思いますけど、今そのことを聞いても意味ないですね


 とりあえず会話を続けましょう


「では、親御さんを探したいところですが先ほどの男の人達に遭遇すると不味いと思うので、家で待った方がいいと思います」


その言葉を聞いた時にフレアさんはビクっと肩を震わせました。


「えっと・・・それは辞めて欲しいです」


「何故ですか?もしかして親に何か不味い事でも?」


「いえ・・・そういうわけではないのです・・・けれど」


 フレアさんは少しモジモジしながら言葉を濁します。


「何か問題があるのですか?」


「・・・・ええそうです。ごめんなさい私は嘘をついていました」


 フレアさんは頭を下げて謝った後に私の目を見ながら言いました。


「私は家に帰る前に食べに行ってみたいお店があるの!裏路地に看板を出さずに店を構える知る人ぞ知るお店!私はそこに行ってみたいのです!」


「え?」


・・・もしかしてあのお店でしょうか?

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