モラン王国の勇者

 モラン王国の兵士たちの訓練場


 そこで二人の人間が戦っている。


 片方は鎧にマントを着ているが、もう片方は学ランに剣という格好だ


「おらぁ!!フレイムソード!!」


 学ランの男が炎を纏った剣で攻撃している。

 鎧が剣でガードしているが押し切られ後ろに飛ばされる。


「グアッ!!」


 意識を手放しそうになるが、何とか持ちこたえ立ち上がろうとするが


「止めだ!!フロストマシンガン!!」


 学ランが放った沢山の氷の塊が鎧に当たり動けなくなってしまった。



「そこまで勝者、誠様」


 騎士団長が止め模擬戦の勝敗が決まる。


「うっし、楽勝楽勝」


「・・・くそ」


 また勝てなかった。


「蒼汰、お前本当に弱いな

お前を召喚した姫様がかわいそうだぜ」


「・・・」


 言い返せない、実際その通りだから


 この国では王様の後継者たちが女性の場合、勇者召喚の儀式を行い自らの力として使うという決まりのようなものがある。


 勇者を召喚して従ってもらうことで、自身の護衛などをしてもらっているようだ。


 どこにスパイ等がいるかわからないので、全くこちらの事情を知らない人を呼んで味方になってもらった方がマシと言う考え方のようだ。


 実際に呼ばれた勇者は特別な力を持つことが多いので護衛としては完璧だそうだ。


 ・・・その人が善悪を除いてはだけど。


「本当に俺たちと同じ勇者かよ?弱すぎね?」


 そうして王の娘である、三人の王女に呼ばれた俺たちだが、他の二人に比べて俺が弱いのだ。


 ちなみにさっきまで戦っていたのは、長女のクレイユ様に呼ばれた勇者の誠だ。


 俺は三女のリース様に呼ばれた。


「それぐらいにしてあげなよ」


 そういって次女のイヴ様に呼ばれた勇者の拓馬が出てきた


「元々神に選ばれた我々と違って蒼汰君は普通に呼ばれただけだから

私達が特別で蒼汰君が普通なんだよ」


 実際に彼らは召喚されるときに神様に出会ってチートをもらったらしく、とんでもない力を持ち

 俺は普通の勇者としての力しか持っていない。


 まぁそれでも普通の兵士よりは強いのだが、拓馬と誠が強すぎる。



「まぁそれにしても災難だよな

あの奴隷王女の所に召喚されるなんて」


「えぇ、女子供の奴隷を大量に買っている姫様の所になんて行きたくないからな」


 奴隷王女は誠たちがリース様につけた蔑称だ。


 本来なら許されるような行為ではないが、この二人を抑えようにも抑えられる人がいないため、そのままになっている。


 俺も自分が使えている主にそんな事言わないし、そんな蔑称で呼ぶはやめてほしいのだが、二人はやめてくれない。


 と言うか所謂元の世界で言うところの大統領と総理の娘ぐらいの人に、そんな事言えるあいつらがおかしいと思っている。


「まぁ精進するこったな、この世界はあっちの世界ほどやさしくないからな」

「では蒼汰さん頑張ってください」


 そう言って二人は行ってしまった。




「大丈夫ですか?ソータ殿」


 騎士団長が手を差し出して体を起こすのを助けてくれる。


「大丈夫です、ありがとうございます」


 俺は団長の手を掴み起き上がる。


「いやぁ、それにしてもソータ殿は強くなりましたな」


 団長が濡れたタオルを渡してくれた。


「そうですか?あの二人にいつもボコボコにされていますから、正直あまり実感がわかないのですが」


 濡れタオルで土埃と汗を拭きながら聞き返す。


 騎士団の訓練に混ざって剣や魔法の訓練に参加してはいるけれど、騎士団員には普通に勝ってしまって、誠達相手にはボコボコにされてしまって成長の実感があまりわいてこない。


 リース様にいただいた鎧もあまり使いこなせていない。


「いえいえ、こちらに来た時に比べたら十分に強くなりしたよ

来た頃よりも体運びや、攻撃を予測して対応する力は身に付いて来てますよ。

もっと自分に自信を持ってください」


「は、はぁ、実感はあまりわきませんが、団長がそう言うならきっと強くなっているのでしょうね

でも自分がここまで強くなれたのは団長のお陰です

本当にありがとうございます」

「はっはっは、礼には及びません

 未熟者を鍛えるのが私の務めでもあります

 それにあなたは自分の未熟さを自覚し自分から訓練に参加したのではないですか

 私に感謝するのは違いますよ」

「それはそうですが・・・」

「それよりも問題なのは彼らです。

 最近の彼らの行動は目に余るものが多くなっている。

 彼らの主人のクレイユ様とイヴ様も彼らを制御できなくなっている。

 本来ならば我々が止めなければならないのですが、あの強大な力の前ではどうにもできない」


 団長は拳を強く握り深呼吸をした後、顔をこちらに向けて話題を変えた。


「それよりもリース様のもとに戻られてはいかがですか?

 あなたはリース様の護衛であり勇者です、あまり長い間リース様の側を離れない方がいいでしょう」

「そうですね、では団長また今度指導をお願いします」


 俺は団長に頭を下げてからリース様の所に向かいました。




「お帰りなさいませ、ソータ様」

「ただいま戻りましたカナタさん」


 部屋に戻った俺をリース様の奴隷の一人であるカナタさんが出迎えてくれる。


「リース様は奥の部屋にいます

 ソータ様が来た場合はお通しするように言われていますので、そのままお通りください」


 そう言ってカナタさんは奥の部屋の扉へと案内しました。


「あ、ソータ様、訓練は終わったのですか?」


 窓際の椅子に腰かけて紅茶を持っているブロンド髪の女性、リース様がこちらを見て声をかけてくれる。


「はい、今日もあの二人に勝てませんでした」

「そうですか・・・とにかくお疲れでしょう、こちらに椅子があるので座ってください」


 そう言ってリース様は向かいの椅子に座るように勧めますが


「いえ大丈夫ですので、ご心配なく」

「そう・・ですか」


リース様はそう言って紅茶を一口飲んだ後に話題を振ってきました。


「あの二人はどうでしたか?」

「姫様からもらった鎧を装備しても勝てませんでした」

「そうですか・・・あれは疲労軽減などを含めた3つの魔法が付与されている鎧なのですが、それでも勝てませんでしたか」


今着ている鎧は俺の戦力増強のために作った特注の鎧で『疲労軽減』『外傷小回復』『衝撃吸収小』が付与されている。それでもあの二人には勝てなかった。


「すみません、俺がもっと力を持っていれば」

「いえ、ソータ様のことを責めているわけではありません

それに彼らはどうやら神の加護が付いているようですので強いのは当たり前です」

「ですが」

「それにソータ様が来た頃に誠様達と同じような力を持っていたら、今のあなたようにはならなかったと思いますよ」


 リース様にそう言われて確かにそうだと思った。


 この世界に来たばかりの頃は、彼らと変わらずにイキっていて努力をしようとも思わなかった。


 けれど誠達と戦って恥をかいて挫折をして、それでも立ち上がって団長に教えを請い努力して今の自分になっている。


 もし誠達と同じような力を持っていたら、きっと今の自分ではなく挫折も努力をせずに強さにあぐらをかくだけの人間になっていただろう。


 それだったら今の自分の方が何倍もいいなと思った。


「確かに・・そうかもしれませんね」

「それに、こうして努力して強くなって考えるようになったあなただからこそ、私達はお互いを信頼しあえていると」

「私は覚えていますよ、お互いあまり良く知らなかったころの出来事を」


 そのことは俺が団長に教えを請い訓練を始めたばかりの頃、誠達がリース様の話をしているのを聞いた。


 リース様はよく町に行き女子供の奴隷を買っているという話を、俺はすぐにリース様の所に行ってその話が本当なのかを聞いた。


 そしてその話は真実だった。


 俺はその時あまりこの世界のことを知らなかったし奴隷は悪いものだとしか思ってなかった。


 俺は彼女を問い詰めようとした。


 しかし彼女は

「あなたが怒っているのはわかります

しかしその前に私の話を聞いてください、聞いた上で私が悪だと思うなら反論なさい」


 そういって彼女は奴隷を買う理由について話し始めた。


 自分も奴隷はあまり良くない文化だと思っている事。


 しかしだからと言ってすぐに奴隷制度をなくすと、奴隷が空いた穴を埋める形で結局奴隷に変わる誰かが奴隷が抜けた穴に入ることになってしまうこと。


 奴隷制度をなくそうとしても最低でも数年以上かかってしまうこと。


 無くしたとしても別の所で奴隷が売られるだけで解決できないこと。


 自分が女子供を中心に奴隷を買っているのは、救うことできる奴隷の中でも力や立場の弱い奴隷を買い、さらに王族という加護を与えて虐げられないようにして、王宮で普通の召使として働かせることで衣食住を与えることができるていること等を話してくれた。


 俺は彼女の話を聞いて感動した。


 悪いことをすぐに解決せずに自分で考えて、解決しても意味がないことがわかったら自分ができる範囲で救おうと手を伸ばして行動する。


 俺は感情的になってしまった。


 この人は感情的ならずに自分でできることを考えてから行動することができる人なのだと

俺は頭を下げて彼女に謝った。


 しかし彼女は


「ソータ様が感情的になるのも無理はありません

ソータ様の国では奴隷と言う存在そのものがない国であることは聞いています

そのため奴隷と言うものが許せないだろうと

しかしソータ様は私の話を聞いて考えを改め、頭を下げてくれました

自分の考えが過ちであったと認め謝罪しました

それで充分です

そして私の話を最後まで聞いてくれてありがとうございます」


と言って俺を許してくれた。


 俺は彼女に心から尊敬した。


 すげぇ人だなと思った。


 彼女の立ち振る舞い、考え、そのすべてに俺は尊敬し、俺は彼女に改めて忠誠を誓った。


 翌日、俺は誠達に彼女の考えを話して考えを改めてもらおうとしたが、彼らは聞く耳を持たなかった。


 いくら周りが言っても奴隷=悪という考えが絶対なものだと信じて疑わなかった。


 それどころか彼女を奴隷王女と呼び蔑み始めたのだ。


「ソータ様が私のことで怒ってくれることに、私は少し嬉しかったです

あなたが私のことを信頼しているのだと思うことができたので。」

「リース様・・・」


 やっぱりすごい人だなと思っていると


「歓談中のところ失礼します」


 突然背後から聞きなれない声が聞こえた。


 俺は振り向くと同時に剣を抜き、リース様が後ろに来るように立って構えた。


「何者です!」


 俺が言うより先にリース様が言った。


「私は異世界転移・転生対策課 交渉部のネペンと言います」


 そう言ってその人は深くお辞儀をした。


 知らない人だ。


「その交渉部が何のようです」


 リース様が聞く


「私が用があるのはそちらの勇者の蒼汰さんです」


 え?俺?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る