第67話 親父との再開
「ここは……どこだ?」
見渡す限り赤い岩石に覆われていた。草も生えていない、生物もいない。俺はそこにただ一人立っていた。
失った左腕がある。左足もある。俺は生きているのか? でも一体ここは……。
俺が一人考えていると遠くに人がいるのが見えた。そいつは俺に向かって歩いてきている。段々と近づいてきてそいつに俺は見覚えがあった。だがなぜお前がここにいる。
「スティマング! なんでてめえがここにいやがる!」
俺の親父、スティマングが目の前に立っていた。
「そうか、お前もこっちへ来たか。俺が死んでから随分とはやか――
「死ねや、おらあ!」
低級魔法が親父の顔面を吹き飛ばした。中身が飛び出し周りは血の雨が降っている。だが一瞬のうちに体が再生していた。
「無茶をするなあ。俺の説明を聞いてからで――
「くたばれスティマング!」
最大級の生命力を込めた低級魔法が男に辺り、男は爆散していった。もはや塵一つ残っていない。
「話を聞けよ」
だが親父は一瞬にして元の姿に戻っていた。どうやら俺の攻撃は効かないらしい。ついいに不死身にでもなったのか。
「なんでてめえが生きてるんだよ」
俺の質問にやれやれと両手を開き、首を横に振りながら呆れた表情をしていた。またブチ殺そうかなこいつ。
「俺はもう死んでる。ここは地獄だ。何人も人を殺したからな。そしてお前も死んだんだ」
「俺が……死んだ……?」
確かに俺は敵に心臓を刺された。でもエルフの魔法があればワンチャン死なないと思っていた。
「エルフでも……俺を生き返らせることはできないのか……」
「エルフ? 色々あったようだな。話をしよう」
そういって親父は腰を落とした。多少殺したい気持ちもあったが、どうせ復活するので俺も地面に腰を落とした。
「俺を殺した後、なんでお前も死んだんだ? 普通に捕まって処刑されたのか?」
「いや、禁断の術を使って魔法使いを生き返らせたらすべての人間から俺の記憶がなくなったらしくて指名手配すらされなかった」
「何だその便利な術。俺もそれで生き返ればよかったな」
「残念だったな。お前の肉体は俺が焼いておいた。もう生き返られないからな。俺は誰かが禁術を使えば生き返るだろう」
「いや、そもそも蘇生術は一回限りしか使えない。他人に使おうとも自分に使おうともな。だからお前はもう生き返らん」
「まじで?」
「まじだ」
正直死んでもエルフがいるんだ、禁断の術を誰かが使って生き返らせてくれるだろうと思っていた。正直なめてた。
「更に残念なことを言うが呪術による再生もできん」
「まじで? なにゆえ?」
「生まれた時から強力な加護を受けているからな。呪術が効かないんだよ、お前には」
「生まれた時から?」
「ああ、母の影響だな。天才だった母親の願いが魔術によって叶ったものだ。だからお前のとこの呪術師はお前に攻撃をしなかっただろう?」
確かに考えてみればあいつは俺と戦おうとしなかった。最初の攻撃された時は意識が朦朧としていたのでわからなかったが、効いてはいなかったのか……。
「つまり俺が生き返る術はないと」
「ああ、ないだろうな」
未練がないといえば嘘になる。僧侶を助けたかった。アスティを置いて先に逝きたくなかった。魔法使いにも会いたかった。だがそれももう無理らしい。
「こんなことならエルフの村に行かなきゃよかったな。僧侶も助けられなかったし、散々だな」
「お前、エルフの村に行ったのか?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「……フィーナというエルフの子はどうした?」
「フィーナ? ああ、俺のパーティの僧侶か。敵にクリスタルを生み出す生贄として奪われたよ。助けようとしたが殺された」
「よりにもよってあの子が……なんてことだ……」
親父は頭を抱えていた。なぜ赤の他人の僧侶をそんなに心配しているのだろう? 実の息子を一回殺したんだぞお前。良心あったのか?
「俺のパーティだったフィルマの娘がお前のとこの僧侶だ」
そういえば僧侶妹が言っていた気がする。完全に忘れていた。
親父を見ると遠い目をしていた。過去のことでも思い出しているのだろうか。そして親父は静かに口を開いた。
「懐かしいよ。フィルマがパーティに入ってきた時のことは今でも鮮明に思い出せる。俺のパーティの剣士に一目惚れだったらしい。開口一番に『結婚してください』って俺らの前で言ったからな」
「ものすごいチャレンジャーだな」
「それで無理やり俺のパーティに着いてくるようになったんだ」
「ストーカーかな?」
「確かにエルフ族だけあって回復はすごかった。だが俺には一度も回復は飛んでこなかった」
「嫌われてたんじゃね?」
「俺がパーティに入るのを拒否し続けていたら敵と戦闘中にフィルマから攻撃がとんでくるようになった」
「もはや敵じゃね?」
「終いには剣士も絆されてしまい、付き合うという話になった。だが俺は断固拒否した。パーティが崩壊してしまうからな」
「色恋沙汰は面倒だしな」
「そしたら今度は剣士からも攻撃が飛んでくるようになった」
「本当に仲間かそいつら?」
「しょうがないから俺は付き合うのを許可したよ。あいつらも喜んでたな」
「親父も優しいとこあるじゃねえか」
「だがそれでも回復は飛んでこなかった」
「嫌われすぎだろ」
「剣士は回復されすぎて、逆にダメージを負って死にかけてた」
「ヤンデレかな?」
「それで戦闘中はわざと敵の攻撃を食らうようになっていたな。回復と相殺するために」
「本末転倒じゃね?」
「でもまあ、なんだかんだで楽しかったよ。あいつは入ってからパーティの雰囲気は変わったからな。よく笑うやつだった」
「娘のフィーナとは真逆だな」
「まあそれで結婚し、子供を生んだわけだな。子供を孕んでいるのに戦闘に参加しようとして全員で止めたよ」
「奔放すぎる」
「それでな、二人も生んで順風満帆だったんだが、魔族がクリミナルに攻めてきてな。お前も覚えているだろう? それで二人共死んでしまった。フィーナが敵にやられそうなのをかばって剣士は死んだ。そして発狂したフィーナも敵に突撃して死んだよ」
「それで親父は国に復習を誓ったわけだな」
「ああ、こんな国ぶっ壊そうと思ったよ。まあそれもお前のせいでおじゃんになったけどな!!」
「まあ親父より魔王のほうが大事だったからしょうがない」
「薄情すぎない?」
「魔王が手に入れないと分かって俺を殺そうとしたお前がいうセリフじゃなくね?」
「まあ過去のことだ、水に流そう」
「まあなあ。もう俺もお前も死んでるし、今更過去のことを振り返っても仕方がない。それよりも気になったんだが、俺の母親はいないのか?」
「あいつは聖人だったからな。天国にいるだろうよ」
「なるほどなあ。お前よりも俺は母親に会いたかったんだがな」
「まあ親父に会えただけでも嬉しいだろ?」
「俺を殺そうとしたお前に会ったところで嬉しいとは思わないな。それよりもここは地獄なんだろ? なんか仕打ちとかあるんじゃねえのか?」
「俺もお前も人を殺し過ぎたからな。一万年くらい拷問される日々だぞ」
「まあ仕方ないな。当然の報いだろう。一万年我慢すれば転生とかできるんだろ?」
「さあなあ。1万年後にしか分からないな」
「俺の旅もこれでお終いか。あっけない人生だったな」
「さてそろそろ時間だな。釜茹が待っている。まあ次期に慣れるよ」
「慣れたくはないな。もう少し生きていたかったな。まあ今更考えてもしょうがない」
そうして俺は親父と二人で地獄の中を歩き出した。
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