魔王を倒したら殺人罪で死刑になった

四秋

第一章

第1話 英雄からの転落

「これで終わりだ!」


 渾身の力を込め、俺は長剣を魔王に向けて振り下ろした。両手に伝わる鈍い衝撃に確かな手応えを感じる。会心の一撃。魔王は血を辺りに撒き散らし、にぶい音を立て崩れていった。


「ようやく終わった……」


 思わず安堵の溜息が漏れていた。


 冒険を初めて四年。何度も死にそうになりながらも打倒魔王を掲げ、やっとここまで辿り着いた。自分一人では途中で死んでいただろう。今日魔王を倒せたのも、僧侶と魔法使いと共に戦うことができたからだ。


 最後の仕事を終えた俺は後ろを向き、二人に感謝の声をかける。


「ありがとう、ようやく魔王を倒すことが出来た……。二人には感謝してもしきれないな……。善は急げだ、街に帰ってみんなに報告しようじゃないか! 俺たちはこの世界の英雄になったんだ!」


 英雄と呼ばれるのも悪くないと思い、つい顔がニヤけてしまう。二人もさぞ鼻が高いだろう、街に帰れば英雄として讃えられるのだ。


 念願の魔王討伐に一人酔いしれていると、突然僧侶が驚いたように声を上げた。


「勇者さん、殺人ですよこれ! 何喜んでるんですか!? 犯罪者ですよあなた!」


「え?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「聞き間違いか? 殺人? 魔王は人ではないだろ」


「いえ、魔王にも適用されますよ。人型ですからね。政治学で学んだはずでは?」


 いや、学んでいない。全く身に覚えがない。


「勇者さん中卒だからじゃないですか? 私はちゃんと学びましたよぉ大学で」


 おい魔法使い、大卒だからって中卒馬鹿にするなよ。たとえ基本戦闘しか学ばない中等戦闘教育学校卒でも魔王を倒せたんだ、むしろすごいだろ……!


「いや、そもそもお前らも倒すのに協力していたじゃないか! 同罪だろ!!」


 感情が昂ぶり、思わず怒鳴ってしまった。だが僧侶は顔色を少しも変えず淡々と言葉を続ける。


「いえ、私達は倒しに来たのであって、殺しにきたのではありません。相手が戦闘不能になればそれで良かったんですよ。それをあなたがどこかの聖域だか、訳の分からない場所で抜いてきたエクスカリバーなんて物騒なもので攻撃するから……」


 俺はひどく混乱していた。なぜだ、なぜ俺は魔王を倒したのにこんなに責められているんだ……。


「さすがに魔王から血が噴水のように飛び出した時はびっくりしちゃいましたよぉ。ノリノリでエクスカリバー振り回せばそりゃ魔王も死んじゃいますって。後半はむしろあなたが魔王なんじゃないかって思いましたよ……」


 おい魔法使い、お前も思いっきり攻撃していただろうが。最強魔法いっきまーす☆って言いながら魔王を攻撃していたのを忘れたのか。魔王の皮膚めっちゃ溶けてたからな。


「勇者さん大人しくしてくだい。殺人は犯罪です、罪は償いましょう」


「魔王倒して殺人になるなんてあるわけねえだろ! はめやがったなお前ら!」


「だめですよぉ、勇者様。罪には罰です。えいっ!」


「おい、魔法使い! 何をするんだ! や、やめろ! やめろおおおおおおおお」


 視界が歪んでいく……だめだ、体も動きやしねえ……。あの野郎……睡眠魔法使いやがったな……。意識が……途絶えて――


 ――薄れ行く意識の中で見た彼女たちの顔は歪んでいた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「被告に死刑を命ずる」


 こうして俺は英雄から死刑囚に成り下がった。

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