一旗刀戦(いっきとうせん)

厚本侑樹

序章

 1853年。黒船来航。

 長く鎖国を続けてきた日本は、この日を境に多国との交流を求められる様になった。

 欧米の言われるがままに条約を調印し、横濱、長崎、神戸…と次々に港が開港した。

 幕府は欧米の進んだ知識や文化を取り入れ、近代化を目指した。諸藩でも攘夷の声は徐々に小さくなり、海外から学ぶべきだという声が大きくなっていった。

 そんな風に少しずつ、しかし確実に自国の文化が失われていくことを憂いた人物がいた。

 彼はこのまま欧米を学ぶだけではならぬと、日夜頭を悩ませた。


 そして、結論を出した。

 1867年。大政奉還。264年続いた徳川家の、そして700年余り続いた武家政権の終焉が告げられた。

 しかし、それは天皇による中央集権政治の始まりにはならなかった。

 慶喜公は大政奉還の中でこう説いた。



 外国ノ交際日ニさかんナルニヨリいよいよ、朝権いで申サズ候テハ、綱紀こうき立チ難ク候間そうろうあいだ、従来ノ旧習、政権ヲ奉帰きしたてまつり広ク天下ノ公議こうぎヲ尽クシ、皇国ヲ保護仕候つかまつりそうらヘバ、必ズ海外万国、並ビ立ツベク候。

 若シ今一度皇国ニ己ガ一旗いっき立テタクバ、いくさニテ刀ヲふるウベシ。


 ――諸外国との交流で自文化の誇りが失われている。かつての旧習にならい、各国に政治を任せることとする。他国と争いながらも、それぞれの国が日本を守れば、必ず万国に吞まれることなく、比肩出来るだろう。

 もし今一度日本で天下を取りたくば、刀をもって己が力を示せ。



 日本を治める将軍の最後の御触れは、後の世で「分政ぶんせいの令」「一旗刀戦いっきとうせんの法」と呼ばれ、今日に至るまでこの小さな島国を分裂させ、混じわらせ、対立させる礎となっている。


 これは、第二の戦国時代を駆け抜ける、武士もののふ達の物語。

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