第99話「「ピースケが、飛んだァ――っ!?」」

 スラロームとは、等間隔に立った棒を右・左・右・左……と交互に通り抜けていくアレだ。

 サッカーのトレーニングとか、スキーの競技種目なんかであるやつだな。


「まずはピースケに、スラロームのルールを教えないとね」


 春香はそう言うと、ピースケをおいでおいでしながら、棒の間をゆっくり交互に通って行った。

 それを数回繰り返す。


「うーん、さすがにこれは難しいかな?」

「他の遊具と違って、交互に通過しないといけないっていう特別なルールがあるもんね」


「ピースケに理解できるかな?」

「どうだろうね……?」


「ま、こればっかりは、やってみないとわからないか」

「だよね」


「別にできなくても誰か困るわけでもないし、できたらピースケが偉いってことで」


「そうそう、大事なのはチャレンジすること! 挑戦なくして成功なし!」

「さすが春香、いいこと言うな」


「そういうわけだからピースケ、今のを一人でやってみてねー」


 キャウン!

 ブンブンブンブン!


 俺に任せろと言わんばかりに、自信満々で尻尾を振るピースケ。


 頼もしいのか、単に何もわかっていないのか。

 答えはピースケのみぞ知る。


 しかしピースケは、春香と数回練習しただけにもかかわらず、


 シュバッ!

 シュバシュバッ!

 シュバシュバシュババッ!


 身体を器用に左右に傾けながら、スラロームをすいすいとすり抜けると、


 ダダダダダダッ!


 さらにその先にある、空中に設置された輪っかくぐりのフープ――フープバーという遊具らしい――に向かって猛然とダッシュする!


「ピースケ~?」

「おーいピースケ、どこ行くんだ?」


 ――からの、スーパービッグジャンプ!!


「「ピースケが、飛んだァ――っ!?」」


 思わずハモってしまった俺と春香の目の前で、ピースケは前足と後ろ足を前後に伸ばしながら、フープバーの輪っかを華麗に通り抜けた!


「うおおおっ!? すげぇ!」

「ピースケ、やるぅ!」


「なぁ春香、今のマジで凄くなかったか?」

「ちゃんと左右交互に抜けて行ったもんね」


「しかも最後にジャンプして、隣にあるフープバーも通り抜けたぞ?」

「連続技って感じだったよね」


「まさかピースケにこんな才能があったなんてな」

「うんうん、さすがピースケ。わたしが見込んだだけのことはあるよ」


 俺と春香はピースケの能力と、なにより頭の良さにもろ手を挙げて賛辞を送った。


 そしてまぐれの可能性もあったので、もう一回やらせてみたんだけど、


 シュバババババババッ!


 やはりピースケは、なんなくスラロームを攻略してみせた。


「偉いねーピースケ。これはもうワンコちゅ~るをあげないとだねー」


 ピースケの活躍が嬉しかったのだろう、リュックからワンコ用ちゅ~るを取り出す春香の声は弾んでいる。


 春香はワンコ用ちゅ~るの封を切ると、屈んでピースケの口元に差し出した。

 美味しいおやつをもらったピースケは、目を輝かせながらそれをペロリとたいらげた。

 そしてその一瞬をパシャリとスマホで切り取る俺。

 

「お、いい写真が撮れたぞ」

「見せて見せて。わっ、いいじゃんいいじゃん!」

「だろ? 送っとくな」

「ありがと♪」


 その後も俺たちは、ワンコ用遊具を順繰りに遊び歩いていき――。


 最後にアルファベットのHの形をしたプラスチック棒でできた遊具、いわゆるジャンプバーへとやって来た。


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