第78話「えっちなのはわたしだったの……? こーへいじゃなくて、わたしがえっちだったの……?」

「うそ……?」

「残念ながらほんとだ」


 俺は自分の言葉を肯定するように大きく頷いてみせた。


「ってことはだよ? つまり、えっちなのはわたしだったの……? こーへいじゃなくて、わたしがえっちだったの……?」

「まぁ、その、うん。結果的にそうなっちゃうかな?」


「ううっ、まさか自分がえっちっち春香だったなんて……穴があったら入りたいよぉ……」


 もはや春香は耳や首元まで真っ赤だった。

 熱くなり過ぎて湯気が出てきそうなくらいだ。

 俺は春香を慰めることにした――俺は春香の彼氏だからな!


「ま、若気の至りってやつだろ? 俺も初めてでビックリしたけど、気持ちよかったし、嬉しかったしな。春香のおかげで、すごくドキドキした。ありがとな、春香」


「こーへい……」


「だからえっちだったのは俺と春香、2人ともだったってことでいいんじゃないか?」

 優しく言ってから、俺は軽く唇を合わせるだけのキスをしてあげる。


「ん――」

 数秒ほどで離すと、それで少しは落ち着いたのか春香の顔の赤みは幾分ましになっていた。


「落ち着いたか?」

「うん、だいぶ」


「そりゃ良かった。でも学校ではもうやめておこうな。先生に見つかったら大変だからさ」

「それはそうだよね。先生に目を付けられてもいいことないし」

「これからは節度を持って、春香の部屋とか、絶対に2人きりの時だけにしような」


 あと、えっちなキスもなるべくしないでおこうと思いました。

 あれは1度始めると止められない。

 これは魔性のえっちキスだよ――なんてことを考えていると、


「はーい。……ふふっ」

 突然、思い出したように春香が笑った。


「急に笑いだしてどうした?」

「今のわたしたちって、相当浮かれてるんだろうなーって思ったら、自分のことなのにおかしくなっちゃって」


「まあ、うん、相当浮かれてるよな。自覚はあるよ」

「クラスのみんなも思ってたりするのかな?」


「お弁当も作ってもらってるし、いつも一緒にいるし、ぶっちゃけバカップルだって思ってるだろうなぁ」


 もはやそこは否定できなかった。

 もし俺が見ている側だったとしたら、絶対にそう思うはずだ。


「だよねぇ」


「でも付き合い始めたばっかりだから、少しは多めに見てくれるんじゃないか? しばらくしたら、浮わついた気持ちも落ち着くだろうしさ」


 逆に今が一番理性がきかなくて、気持ちを抑えられない時期だと思う。

 だからさっきも、学校の図書室だっていうのにえっちなキスをしちゃったのだ。


「ううっ、すぐに冷めちゃう宣言されちゃったし」

「いやいや、今のはそういう意味じゃないからな?」


 いつの間にか、すっかりいつもどおりに話せていた。

 えっちなキスをするのもいいけれど、やっぱり俺と春香は出会ってからずっと続いているような、明るく楽しい関係じゃないとな。


「ねぇ、こーへい。最後にもう一回キスしていい?」

 春香がおねだりするように可愛らしくつぶやく。


「いいけど、舌を入れないキスだぞ」

 あれは1度始まると、気付いたら10分とか経っちゃうからな。


「はーい♪」

 春香がにっこり笑顔で答えると、目をつむって顔を寄せてくる。


 ちゅっ、と唇が触れてから――いたずらするかのように、春香の舌がペロッっと俺の唇を優しく舐めた。


「お、おい春香。そういうのはなしだって言ったろ?」


「今のは入れてないもーん。舐めただけだもーん」

「なんだよそれ、トンチかよ? 春香は一休さんだったのか?」

「あははは――」


 ちなみに会話は全て小声である。

 俺たちはもう高校生。

 むやみやたらと図書室で騒いだりはしないのだ。


「じゃあ、そろそろ勉強を再開するか」

「いっぱい『ご休憩』しちゃったもんね♪」


「そんないやらしいことはしてなからな」

「えー、あれー? 『ご休憩』のどこがいやらしいの?」


「ぬぐっ……!」

 しまった、つい余計なことを言ってしまった。


「ねぇねぇどこがー? どこがいやらしいのか、教えて欲しいなー?」

「くっ、こいつ。わかってて言ってるな?」


「え~? なんのこと~? わからないから教えて欲しいな~?」

「ああもういいだろ、ほら、勉強するぞ勉強」


「あ、こーへいが露骨に話を変えたしー」

「さぁ勉強勉強、さっさと勉強!」


 俺たちはちょっと長過ぎた休憩(いやらしい意味じゃないからな?)を終えると、テスト勉強を再開した。


 こうして中間テストに向けた勉強会は、誰に見とがめられることもなく、つつがなく(?)終了した。

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