第74話「あ! こーへいの視線がえっちだし」

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 勉強を始めてから、特にお互いに質問することもなく1時間ほどが経過した。

 少しダレてきて集中力が切れ始めた俺は教科書を閉じて、ふぅ、と大きく息をはいた。


「ごめん春香、疲れたからちょっと休憩する」


 図書室向けの小さな声で言うと、少しだらしないけど、俺は身体を投げ出すようにして椅子の背もたれにだらりともたれかかった。


「ふふっ、お疲れだね、こーへい」

 そんな俺の姿を横目でチラリと見ながら、春香が同じく小さな声でクスクスと楽しそうに笑う。


「かなり集中してやったからな。ここらで一旦、小休止だ」


「じゃあわたしもちょうどキリがいいとこまでやったから、休憩しようっと。うーん……」


 春香はそう言うと、シャーペンを置いて両手を上に上げた。

 軽く背筋を反らせながら、大きく伸びをする。


 意図せず春香の胸が強調されてしまい。

 制服のブラウスの下で自己主張してやまない膨らみに、俺は思わず視線が吸い寄せられてしまった。

 爽やかな薄緑色のブラジャーが、白いブラウス越しにうっすらと透けて見える。


「あ! こーへいの視線がえっちだし」

「ごめん、つい……」


 誘惑に負けて、春香の柔らかそうな膨らみをガン見してしまっていたので、今さら言い訳のしようもない。

 俺は素直に謝った。


「もぅ、こーへいはほんと、えっちなんだから」

 わずかに頬を染めて上目づかいで言いながら、春香が恥ずかしそうに胸をかき抱く。

 控えめに言って、図書室に舞い降りた天使だった。


 なんだこいつ可愛すぎだろ。

 そんなこと言いながら、俺を誘惑しようとしてるんだろ?


「春香が可愛すぎるのがいけないんだよ」

「あ、自分がえっちなのをわたしのせいにしたしー」


 言いながら、春香が俺のほっぺたを、うりうり! と突ついてくる。

 どうにもこの話は、俺に分が悪すぎるな。

 このままではドツボにハマるだけだと思った俺は、強引に話を変えることにした。


「でも図書館ってやっぱり勉強に向いてるよな。おかげでかなりはかどったよ。春香はどうだった?」


「わたしもだよ。図書室って静かで集中しやすいし、こーへいの前でだらしないところは見せられないから、いつも以上に頑張っちゃった。えへへ」


「一人でやるより、誰かと勉強した方が頑張れるよなぁ」


 俺も彼女の前だと思うと、やる気が段違いだった。

 男子というのはアホで、純粋で、ロマンチストで、かっこつけな生き物であるからして。

 彼女が見ているともなると、手は抜けなかった。


「でもでも、ちょっとだけ拍子抜けだったかも?」

「って言うと?」


「だってせっかく2人で勉強会をしてるんだから、もっと教え合いっことかしちゃうのかなーって思ってたのに、そういうの全然ないんだもん」


「あー、それな、俺もそれはちょっと思ったかな」

「でしょでしょ?」

「入学してすぐにやった数学の勉強会の時は、解き方を教えたりしたのにな」


 まだテスト勉強の初日だから、そんなに難しいところはやっていないってのもあるんだろうけど、たしかに拍子抜けだった。


「だからって、わざと不必要な質問をするのは、勉強の邪魔しちゃうから本末転倒だしねー」


「多分、俺も春香も普段からしっかり授業を受けて宿題もやってたから、大きな疑問点はなかったんだろうな。高校の勉強量にもだいぶ慣れてきたし」


 中3の時に必死に勉強して成績を上げて、なんとかギリギリの成績で入学した俺だったけれど、幸運なことに入学してからは割とスムーズに勉強についていけていた。


「わたし的にはせっかくカップルになったんだから、もっと教え合いっことかするラブい勉強会にしたかったんどけどなー」

「そうは言っても、ここ学校の図書室だからなぁ」


 いわゆる公共の場だ。

 いつもみたいに春香の家で2人きり、ってシチュエーションとは勝手が違っている。

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