第69話 ~春香SIDE~ もぅ、こーへいのえっち

~春香SIDE~


 その日の夜。


 今日も今日とて宿題をしっかりと終えた勤勉なわたしは、パジャマに着替えて自室のベッドに座って壁に背中を預けながら、同じく宿題を終えたこーへいと電話でお話をしていた。


 そろそろ1学期の中間テストが近いし、必ず宿題を終わらせてから電話をするって、2人で約束しているんだよね~。


 わたしたちは、とっても真面目な高校生カップルだから。

 カップルだから。

 カップル……むふふ。


「あ、そろそろいい時間だから切るね。うん、うん。朝はいつも通りの時間かな。じゃあまた明日ね。バイバイこーへい、大好き♪ か、可愛いって、もぅ、こーへいのバカ……好き。ちゅっ♪」


 わたしは明日の朝、ピースケの散歩を一緒にする約束をすると、こーへいとの夜の長電話を終えた。

 時刻は既に23時を回っている。


「今日は放課後に一緒にいられなかったから、その分、長い時間お話しちゃったなぁ」


 だいぶ充電が減ってしまったスマホを、ベッドサイドテーブルの充電器につなぐと、


「んーー!」

 わたしは小さく伸びをしてから、ごろんとベッドに寝転んだ。


 自分の部屋の見慣れた天井を見上げていると、右手が自然と唇に触れる。


「えへへ、こーへいと帰り道キッスしちゃったし」


 今日は朝からずっと――学校にいる間もずっとこーへいのことを考えていたせいで、帰る頃には我慢できなくなっちゃって、つい帰り道にキスをおねだりしちゃったのだ。


「こーへいも珍しく積極的だったし。あれって絶対にカレシになったからだよね……カレシ、むふっ……」

 唇に触れながら、こーへいと触れ合った時の感触を何度も思い出す。

 優しくて、柔らかくて、熱くて、切なくて――とっても気持ちが良かった。


「こーへいがカレシで、わたしがカノジョ……むふふっ……」


 カレシ、カノジョと小さくつぶやいただけで、顔がニマニマとだらしない笑みを浮かべてしまうのがわかる。

 鏡なんて見なくてもわかっちゃう。今のわたしは、あまり人には見せられない顔をしていた。


 だって大好きなこーへいのカノジョになったんだよ?

 嬉しくて、にやにやしちゃっても仕方ないでしょ?


 明日からは、もっともっとカップルらしいことをしちゃうんだから。

 カップルらしいこと、例えばそうだなぁ――、


「こーへいにお弁当を作ってあげるでしょ? こーへいと一緒に学校に行って、学校帰りに寄り道したりもするでしょ? こーへいとピースケのお散歩を一緒にして、夜にこーへいと長電話をしたりして。あとはこーへいと2人きりで遊びに行ったりもして――って、あれ……? なんだか今までと全然変わっていないような?」


 これって全部、付き合う前からしていたことだよね?

 つまりカップルだけの特別な行為じゃないってことだよね?


 ……あれ?


 じゃあカップルって、いったい何をするんだろう?


「な、ナニをするのかな!?(一部表現を自主規制!!)」


 なんちゃって♪ きゃっ♪


「もぅ、こーへいのえっち! 純真な女子高生になんてこと言わせるのかな!? でも好き!」


 イケナイ想像をして勝手に盛り上がっちゃったわたしは、こーへいに責任を転嫁しつつ、恥ずかしさを誤魔化すようにベッドの上でじたばたと悶え転げる。


「いやーん、もぅ、バカーん♪」

 これだけこーへいのことをあれこれ言ってるんだから、今頃こーへいは、謎のくしゃみをしているかもしれない。


 明日聞いてみようっと。


「でもしばらくお父さんが家にいるから、今までみたいにこーへいを家には呼べないんだよねぇ。タイミングが悪いなぁ」


 こう、付き合った勢いでもっと先の関係にまで――例えばおしべがめしべしちゃうような関係にまで――、一気に進めちゃったかもしれないのに……とは思うものの。


 お父さんはずっと仕事を頑張ってくれていたので、文句を言うのは筋違いだった。


 わたしがこーへいと何不自由なく楽しく過ごせるのも、お父さんがお仕事を頑張ってくれているからなわけだし。

 むしろ心から感謝しないといけない。


 お父さん、いつもありがとう!

 でもでも、時々は家を空けてくれていいからね!


「ま、先は長いもんね。なんてったって、わたしたちはまだ高校1年生なんだから」


 しかも高校生になりたてのピカピカの1年生だ。

 人生は長い――なんて考えることすらないくらいに、まだまだ先は長い。

 焦る必要なんて全然ちっとも、これっぽっちもないはずなのだ。


 わたしは電気を消すと目をつむった。


 宿題はもう全部終わっているし、明日の学校の準備も済ませてある。

 パジャマにも着替えてるし、歯磨きも済ませた。


「ちょっと早いけど、今日はもうこのまま寝ちゃおっと。こーへい、お休み♪ 大好き♪」


 誰に聞かせるでもなく惚気のろけてから、わたしはこーへいと話して幸せな気分のままに眠りにつく。


 今日はきっと、とっても素敵な夢が見られるはずだ。


「夢の中でもこーへいに会えるといいな……」


~春香SIDE~END

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