第12話 「暑いよぉ……ううっ、汗かいちゃうし……」

「今日、朝から暑すぎだろ……なんだよこれ……マジ死ねる……」


「まだ4月中旬なのに最高気温27℃だもんね……もうこれ夏じゃん? なのにわたしたちってば、まだ冬服だし……」


 下校中の俺と春香は、季節を先取りしすぎたあまりの暑さの前に、道半ばでへばへばのへばへばに、へばりきっていた。


 2人ともとっくに上着のブレザーを脱いで、シャツとブラウスになっているものの。

 4月の27℃とはそんな小手先の程度ではいかんともしがたい、猛烈な暑さだった。


「夏場と違って身体が暑さに慣れてないから、よけいに暑く感じるって聞いたことがあるな……」


「へー、そーなんだ……。っていうか、これが地球温暖化の影響ってやつ……? 暑いよぉ……ううっ、汗かいちゃうし……」


「俺も汗が止まらない……暑い……」


 俺たちの口からは、もはや「暑い」以外の言葉は出てきそうになかった。

 そんな早すぎる初夏の陽気にさらされた、春の帰り道。


「悪い、そこのスーパー寄っていいかな……もう無理、限界。アイス買いたい」


「あ、それならついでにフードコートで涼んでかない?」

「いいな、さんせーだ……」


 こうしてスーパーに入った俺たちを、すぐにひんやり涼しい空気が出えてくれる。


「おおっ、エアコンが効いてる! 神か!」

「涼しいねー。生き返るねー!」


 外の熱気から解放された俺たちはほっと一息、気力を取り戻した。

 そして向かう先はもちろんアイス売り場だ。


 冷凍庫まで行くと早速、色とりどりのアイスが俺たちを迎えてくれた。


「こーへいこーへい、ガリガリ君のチョコミント味! わたしのおすすめだよ!」


 ついてすぐに春香が真っ先に指さしたのは、よりにもよってチョコミント味だった。

 賛否真っ二つに分かれる「あの」チョコミントである。


 そして俺は、ガチガチの否定派だった。


「悪い、俺チョコミントだけは絶対ダメ派なんで。絶対の絶対な」

「ええっ、チョコミント超美味しいじゃん」


 春香はそう言うけれど、


「残念ながら、俺には歯磨き粉を食べてるようにしか思えないんだ。好きな人には悪いけど、正直言ってあれは食べ物じゃないと思ってる」


「えー、もったいないなぁ。すごくおいしいのに……」


 春香には悪いけど、こればっかりはもう絶対に分かり合えない自信がある。


 好き嫌いはほとんどないんだけど、チョコミントだけは何をどうしても無理な俺だった。


 …………

 ……


「わっ、こーへい見て見て! パ〇コの新作! つぶつぶキウイ味!」

「へぇ、果実感が高めだって。美味しそうだな」


 パピ〇は2本のチューベットがくっついたような形をしている定番のアイスだ。


「わたしキウイのアイスって初めて見たかも?」


「そう言われてみれば、俺も見たことないな。じゃあとりあえず候補で」


 …………

 ……


 しばらくアイスの棚を物色して、これにしようかなっていうのを決めてから、


「春香はもう決まった?」

 俺がなにげなく尋ねると、


「えっとぉ、実はその、今月はちょっと金欠ぎみなんだよね。だからアイスはパスかな……次のお小遣い日まであと1週間、悲しい倹約生活だから」


 春香がちょっと恥ずかしそうに言った。


「そうだったのか……了解。じゃあ俺はこれにするから」


 そう言うと、俺は最初に候補にあげた、パ〇コのつぶつぶキウイ味を手に取った。


「あ、結局それにするんだ」


「出たばっかの期間限定の新商品だしな。せっかくだからこれにしようかなって。次来たらないかもしれないし」


「買うか買わないか迷ったら、買え! 買わずに後悔するより、買って後悔しろ! ってやつだね。わかる!」


「そこまでのもんでもないんだけど……じゃ、会計してくるから」


「うん、先にフードコート行って、席とって待ってるね」

「よろ、すぐ行く」


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