第61話 ハンターズ 対 エイト


 リーシェンとともに神殿都市を進む。


「で、エイトくんが斬りこむって言ってたけど、どういうこと?」

「いいから。お前はガアドを助けてくれればいい」

「うーん、できれば共闘したいな、とか言ってみたり」

「見たけりゃ勝手にしろ。ただ、ガアドを助けたあとだ」


 リーシェンは肩をすくめて「はいはい」とだるそうに言うと、作戦通り一足早く白亜の神殿、その中央のドームへと駆けていった。

 

 足音が聞こえない。

 あれも武術のなのか。


「まあ、いいか」


 目の前に見えるは巨大な神殿。

 相対するように俺は仁王立ちする。


 いざ氷室グループに喧嘩を売るために〔電界碩学でんかいせきがく〕を発動した。


 能力で働きかけるのは、そこらじゅうにある滝──正確には海水というべきか。


 俺は頭のうえの思念体に力をかりる。


(ぐぎぃ!)


 グランドマザーの演算能力をつかい、俺は水分子の電子を引き剥がして分解して、水素と酸素の混合気体を生成、それを圧縮する。


 知るかぎり世界で一番危険な空気玉に、詰め込めるだけ混合気体を圧縮して、それを〔収納しゅうのう〕でポケットに開いていれた。


「グランドマザー、耳を押さえといたほうがいいかも」


(ぐぎぃ)


 思念体を胸ポケットに大事にしまう。


 空気球をいれたポケットの出口は、神殿ドームのすぐちかくだ。


 心のなかで1分をかぞえ終える。


 リーシェンはこれで十分と言ったが……。

 今は奴を信じるしかあるまい。


 念のため、俺は合図をおくる。


「共和神聖国バンザーイ!」


 危険思想をもってそうな大声でさけんだ。

 俺は空気球を引火させるため、ポケットをちょい開きして、溶岩を空気球にあてる。


 その瞬間、空気球が真っ赤に光った。


 次に感じたのは衝撃波だ。

 五体を砕かんとするほどの勢いだった。


 すべてがおさまった時、神殿がこっぱみじんに吹き飛ばされているのがわかった。


 燃えさかる炎の海も海底洞窟のあちこちへひろがって、白亜のドームには大穴が開いている。

 

(ぐぎぃ)


 黒づくめの人影たちが、7人ほど神殿の穴から飛び出してくる。


 ハンターズに違いない。


 奴らは俺を包囲するように建物うえに陣取り、汚れたコートのうらみをぶつけるように、にらみつけてきた。


「終焉者だ。氷室阿賀斗を殺しにきたぞ」


 俺は肩をすくめておどけて見せる。


 ハンターズ達から視線の殺意があきらかに高まった。


「世界には2種類の人間がいる」

「ん、あんたは」


 地上へ降りてきた黒コートに視線をむける。


 布地をひるがえし、黒くメタリックな腕を機械的に鳴らして近づいてくる彼。

 俺には見覚えがあった。


「繁栄する人間と衰退する人間だ」


 俺の背後に別の黒コートが降りたつ。


 こちらは機関銃を両手にもっている。

 ガアドが持ってたのより、だいぶ大きい。


「終焉者、少佐の目をかいくぐる生き汚なさだけは称賛しよう。だが、残念なことにアルカディアはお前の生存を許していない」

「許されなくては、生存もできないのか?」

「当然だ。世界はひとつ。人類はふたつ。我々が奪い、お前達が奪われる。これはそういう戦いだ」

「逆のシナリオを考えたことはないか。お前たちは別世界へ追いかえされ、侵略は失敗する」


 俺は薄く微笑む。

 機械腕の男はめもとに影をおとす。


 もういいだろう。

 話すことは何もない。


 俺は足元の瓦礫を蹴り飛ばし、それを宣戦布告とした。


 機械腕の男は、片腕で瓦礫をたたき砕いて難なくガードする。


「社長や少佐がでるまでもない。ハンターズ五位、この『ギガンテス』が今度こそお前をほふろう」


 機械腕の男──ギガンテスは、そう言って体に強力なオーラをまとった。

 オレンジ色の輝きが、メタリックな腕に刻まれた紋様からスパークして放射される。


 彼は腕を思いきり地面に叩きつけた。


 その瞬間、足元がぐらついた。


「お前、地面を…」

「ゥアアアアア!」


 ギガンテスはそのまま机でもひっくり返すように、数十メートルにもおよぶ岩盤を持ちあげ、宙へ打ちあげた。


 途端に高速で連打される撃鉄の音とともに、鉛の雨が、どこからともなく飛んでくる。


 浮いた岩盤を蹴って、射線からのがれた。


 地上に戻るには、まだ100mほど落下しなければ。


「逃すか」

「っ」


 岩陰に隠れて射線からにげたら、小銃をもった男が、俺の背後にいきなり現れた。


 接近されるまで気がつかなかった。

 まるで、カインの時と同じ感じだ。


 こいつテレポートの使い手か。


「ついてこれるか、終焉者」

「試してみるか?」


 俺はテレポーターの首を掴もうとする。


 だが、彼は余裕の表情でテレポートしなおして回避した。

 見失った次の瞬間には、俺の後頭部を小銃で撃ってくる。


 痛い。


「てーな、この野郎ッ」

「痛い、だと……?」

 

 テレポーターは目を見開きあぜんとしている。そして、一言「硬い」とだけつぶやくと俺の反撃の蹴りをテレポートでかわした。


 彼が次に現れたのは地上だ。

 直線上に射線が通っている。


 やつは小銃をかまえて、落下する俺へ痛い弾を連射してきた。


 俺はポケットから液体金属をオートモードで展開して、銃弾すべてを自動防御でふせぎきる。


「『ガトリンガー』、お前の銃で抜け」


 テレポーターはまたテレポートして視界から消える。


 と、思った瞬間。


 瓦礫を打ち砕いて、鉛の雨が俺の体にあたった。自動防御の液体金属ではガードしきれない破壊力だ。


 めっちゃ痛い。


「抜けないか」


 ガトリンガーと呼ばれた黒コートが、釘づけにされてる俺へ接近してきた。

 ひとっ飛びで俺の目の前まで来て、液体金属の防御壁に、機関銃を突きさしてくる。


 ゼロ距離射撃。


 俺はハッと息を飲み、銃の先端をつかんで握りつぶす。

 

 発射口をふさがれ、銃弾は暴発した。

 火薬仕込みの弾丸らしく、目の前で爆発して、俺は勢いよく建物につっこんでしまう。


「兄貴が負けたと聞いたが。この程度か」


 ガトリンガーが近寄ってくる。

 壊れた機関銃を捨て、仲間からあたらしい機関銃を受けとって、ふたたび二丁機関銃状態にもどっていた。


「小峰バステインだ。終焉者に引導をわたす者の名だ。覚えておけ」


 俺は頭のうえの瓦礫を指で弾いてどかし、ガトリンガー──小峰バステインを見あげる。


 あのガンスリンガーの弟。

 兄とは違ってたくさん撃つんだな。


「そういや、お前の兄貴は四天王とか言ってなかったか」

「……っ」

「くらべてお前は私兵部隊のひとり。そんな大層な銃ぶらさげてる割にオモチャみたいにちっこい銃使ってる兄より評価低いんだな」


 絶対気にしてるだろうと見越して挑発すると、案の定、小峰バステインは機関銃の銃口をむけてきた。


「いま黙らせてやろう、終焉者」

「おまえには無理だ」

「ほざけ!」


 両手でトリガーをひき大口径の質量弾が、高速連射される。


 俺は1メートルの距離から放たれた弾丸の嵐へ、電子フィールドで対抗する。

 電子フィールドに触れた弾は、すべてコントロール可能だ。


 俺は数百発の鉛弾を宙空でうけとめて、くるりと進行方向を逆にした。


「なっ──」


 小峰バステインは目を見開く。

 だが、近すぎて遅すぎる。


 彼は無数の弾丸に身体をくだかれて、内容物をまっかなインクとして神殿前の広場を染めあげた。


「マクレインのほうが強かったな」


 俺ははきすて、崩れた建物をでる。

 

 すると、間髪いれずにテレポーターが、俺の首に腕をまわして首を締めあげるようにホールドしてきた。


 黒コートのひとりがポケットからコインを取り出して、それを指で弾いた。


 神速。そう呼ぶにふさわしい目で負えない一撃だ。


 瞬時に、異能のこめられたと特別なコインだと理解する。


 俺はひじを拘束してくるテレポーターに打ちこんだ。


 重たい金属がぶつかり合う音が響き、衝撃波が発生する。


「ぐ、ぁ…ッ、バカな、高密度装甲が…!」


 テレポーターの鎧にヒビが入っていた。

 

 やった。

 思ったより、こいつ柔らかいじゃん。


 俺は動揺するテレポーターの首を鷲掴みにして、指で撃ちだされたコインの肉壁とした。


 テレポーターはコインの一撃に悲鳴をあげて、すぐに再テレポートしてどこかへ逃げてしまった。

 

 だが、時間は稼げた。

 俺はまだぴくぴく動いている上半身だけのバステインへ視線をむける。


 そして、機関銃を磁力操作で手元のひきよせた。

 

「こんなオモチャ、誰でもつかえるぞ」

「っ、ふせろ!」


 視界内のハンターズの誰かが叫んだ。


 俺はとびあかり、ひらけた射線を確保して、コインを撃ってきた黒影へむけて、宙空から銃を乱射する。


「ん、これ軌道曲げられそうだ」


 スキル〔電界碩学でんかいせきがく〕で撃った弾丸をまげて、直線軌道から曲射を可能にする。


 逃げるハンターズへ、俺の意思をまとった追尾弾が毎秒数十発と放たれる。


「武器を破壊しろ」


 俺がオモチャで1人のハンターズを蜂の巣に変えた無力化したとき、剣をもった黒影がせまってきた。


 地面に戻ってきた俺へ、そいつは素早い踏みこみから、銀色の直剣をふりぬいた。


「独立状態」


 俺はもっとも使い慣れたオブジェクト『液体金属』で銀色の刃をガードする。


 火花が散り、剣士の黄色い目と目があう。


 ガードを完全にオートモードで動く金属にまかせて、俺は剣士のハンターズの顎の横にポケットの入り口を開いた。


 そのポケットは俺の手元と繋がっている。


 俺はその入り口へむけて、思いきり拳をふりぬいた。


 ゴギャっと骨の砕ける音がして、剣士のハンターズが膝から崩れ落ちる。


「これで3人」


 以前までは、高難易度の二空間ポケット操作は素早い戦闘では使えなかった。

 が、ステータスが飛躍的に上昇したおかげで、こんな器用な芸もできるようになった。


「ふざけるなよ、終焉者」

「来たな、ギガンテス」


 俺はまだ持っていた機関銃を、ダッシュで踏みこんでくるギガンテスへむける。


「貴様だけは許せん」

「っ」


 目の前にテレポーターが現れた。

 さっきボコしたのに5秒で持ち直して来るとは気力が高いことだ。


 テレポーターは俺の持つ機関銃を、ゼロ距離から小銃で撃ち破壊してしまう。


 流れるように銃先が俺へむく。


 放たれる弾丸。


 俺は飛んでくるソレを目で追いかけ、その射線上に〔収納しゅうのう〕をつかった。


 結果、弾丸はポケット空間に移動した。

 さて、出口はどこにしようか。


「ッ、貴様──」


 テレポーターが目を見開く。

 俺のポケットの出口は、テレポーターの耐久力のうしなわれた腹部への位置だ。


 最高位の超能力者であるハンターズメンバーですら、ものの数発で無力化する弾丸だ。


 よわった高密度装甲では防げない。


「うぐ、は、ぁ…?!」


 テレポーターの身体は弩級の威力によって、上半身と下半身に分断されて飛んでいってしまった。


「これで4人」


 すぐに、ギガンテスが険しい表情で機関の腕をふりおろしてくる。


 俺はその腕を真正面から受けとめた。


 ギガンテスがニヤリとほくそ笑む。


「世界には2種類の人間がいる」

「ぐっ…」


 重たい。

 こいつの腕力はやはり凄まじい。


「潰す人間と、潰される人間だ!」

「──」


 ギガンテスは迫真の表情でに全身を連動させて、全霊のチカラで押しこんでくる。


 しかし、


「っ、な……」


 彼の表情はすぐに困惑にかわった。


 なぜなら、以前とは同じに結果にならなかったからだ。


 俺は″片腕″だけで拮抗するギガンテスの機械腕をゆっくりと腕力で押しかえす。


 そのまま、握力にまかせて彼の鋼の拳を、金属の悲鳴を響かせながらつぶした。


 ギガンテスが瞳孔をゆらして「バカな…」とこぼす。


「たしかに、お前のいう通り、どうやらこの場には潰す人間と、潰される人間がいるようだ」

「なっ、ありえな、い……ッ! 1時間すら経っていないのにっ、この短時間でなにがあったというんだ」

「さあ、なんだろうな」


 ギガンテスから機械腕をひっこぬき、前蹴りで彼を200m後方の神殿までふっとばす。


 壊れた機関銃と機械腕を、そこら辺にほうり捨てる。


「さあ、こいよ」

「……撤退だ」


 砕けた岩盤が雨のようにふってくるなか、残った黒コート2人が迅速な足取りで神殿へ引きかえしていく。


 俺は追いかけようと走りだすが、その瞬間に撤退する黒コートのひとりが巨大な火炎の龍を放って、俺もろともあたりを爆破した。


「熱っ」


 火炎系の超能力者か。


 俺は身体についた炎から、思念体をまもりつつ、ポケット空間に貯水していた海水を頭からかぶって鎮火させる。


 すこし時間を稼がれてしまったか。

 気がついたときハンターズは撤退していた。


 とは言え、十分に時間は稼いだだろう。


「あとはリーシェン、上手くやれよ」


 俺は威厳をうしなわれた崩壊するドームを遠くに眺めながら、そうつぶやいた。


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