【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ファンタスティック小説家

第1話 運命のはじまり



 目が覚めると、そこは深海だった。


 冷たく。


 暗く。


 音もない。


 光がまったく届かない世界の果てで、俺は訪れる死を回避することはできない。


 頼りになるのは、わずかな光源たち。

 謎の海洋植物たちが放つひかりが、この暗黒世界で唯一の明かりになってくれている。


 それも心もとなく、覆いかぶさる巨大な黒の向こう側では、何かが動いてる気がする。


 どうして、こんな事になったのだったか。

 どこで間違えたのだろうか。


「ラナ……」

 

 死を前にして、俺の脳裏には過去が蘇っていた。


 これが……走馬灯というやつだろうか。







         ⌛︎⌛︎⌛︎

 






 ーー8年前


 俺には幼い頃の記憶がない。


 気がついたとか、俺は鳥の鳴き声がひびく、砂浜で波に打ち上げられていた、


 死人も同然の俺を拾ったのは、ひとりの少女だった。


 ラナ・アングレイ。

 【竜騎士】の父親をもつ、選ばれた者。


「きみ、だいじょうぶ!? どうしてこんなところに……おーい、おとうさん、たいへんだよ! おとこの子がたおれてるよ!」


 彼女は倒れる俺を見るなり、駆け寄り、また波にさらわれないように引きあげてくれた。


 それからだ。


 彼女の家で世話になるようになったのは。


 もっとも……この時は、彼女の髪は短く男の子だと思っていたのだが。






 

 浜辺で拾われてから、しばらくのあいだはアングレイ家にて、俺は多くを過ごした。


 浜辺に打ち上げられた以前の記憶がなく、身寄りのない俺を、アングレイ家はこころよく迎えて、大切に育ててくれた。


 俺の名前はエイト・M・メンデレー。

 どうにも、首にかけていた金属のネックレスに名前が刻まれていたらしく、アングレイ家はそれをもとに、俺の名前を決めてくれた。


 ラナとは一緒の服を着たり、一緒に遊んだり、一緒にやりの稽古をうけたり……今となっては考えられないが、一緒のベッドで寝たりしていた。


「むふふ、エイト、まだおきてる?」

「おきてるー」

「……」

「……」

「まだおきてるー?」

「おきてるー」


 そんなことを繰りかえしながら、いつのまにか寝ていた……かけがえの無い思い出だ。


 しばらくして、里親が見つかり、俺はアングレイ家を離れて、新しい家庭で、それ以降を過ごすことになった。


 ラナとの別れは寂しかったが、お互いに「必ずまた会おう」と俺たちは再会を誓いあって別々の道を歩みはじめた。


 ーーこれからしばらく、ラナには会えなかった。






 俺の生きる街の名はアクアテリアス。

 別名『灯台とうだい都市とし』とも呼ばれ、巨大な灯台型要塞のなかに、多重構造でもって建設された面白い街並みが特徴の海の街だ。


 この国、ソフレト共和神聖国のなかでも大事な役割をもつ『聖都』と呼ばれるものに指定されており、国をささえる神殿勢力の機関もろもろが、特別に大きく作られていて、国を統括する重要な組織がつどっている。


 とても活気のある街だ。


 ただ、あまりにも巨大すぎて、家を新しくしてから、しばらくの間、俺はラナに会いにいくことすら出来なかった。


 唯一の仲の良い友達であった彼女(当時は少年と思ってた)のことを、いつも考えていたが時間というのは本当に厄介だった。

 数週間、数ヶ月、半年と過ぎると、俺はもう、ラナが俺のことを覚えていないような気がして、自由に街を歩けるようになってからも、アングレイ家には遊びにいけなかった。

 


 ーーそうこうして、2年が過ぎたころ



 転機がおとずれた。

 誓いあって約束を果たすときは、意図せず向こうからやってきたのである。


 俺がラナに再会したのは10歳の頃だ。


 ソフレト共和神聖国では、子どもたちは10歳になる年に集められて、最寄りの神殿へおもむき、そこで偉大なる女神ソフレトから【クラス】と〔スキル〕を与えられる。


 【クラス】とは、女神のさだめた役目。

 〔スキル〕とは、女神からの贈り物。


 どちらも大事で、ソフレトの民の多くは【クラス】にそった人生をおくり、そして〔スキル〕を活用して生きていく。


 これらの大事な儀式は『拝領の儀』と呼ばれている。

 もれなく俺も『拝領の儀』に参加することとなり、俺はそこで彼女にあった。

 同い年のラナに再会したのは必然だった。


 初め、ラナを見つけた俺は彼女から目をそらして会わなかったことにしようとしていた。


 しかし、向こうはそれを許してはくれず、逃げようとする俺の背後から抱きついて来たのだ。


 開口一番に俺は怒られた。


「なんで会いに来てくれなかったの! そんなんだったら、もうエイトのことなんか知らないからね!」


 存外に力強い拳をうけて、俺は彼女が何度も俺に会いに家を訪ねようとしてくれた事を知った。

 

 正直言って、ラナと分かれてから『拝領の儀』で再会するまでの2年間の記憶はひどくあいまいだ。


 俺の両親はアングレイ家と厚意にしていると言っていたのに、


 それが、何を意味するのか……今の俺でさえも、わからない。


 思い出すべきでない。

 ただ、そんな曖昧な勘だけは、不思議と俺の中には根差していたのだ。


 

 ラナと再開した『拝領の儀』は粛々と進んでいき、女神が順番に子どもたちに特別プレゼントをしていった。


 子どもはたくさんいるので、ホール状の神殿内の壁際にならべられた子どもたちへ、女神が順番にまわってプレゼントをする形となる。


 ほとんど流れ作業な『拝領の儀』は、俺の番もあっという間に終わってしまった。


 女神様はほんの2、3言葉をならべるだけだった。


 時間にして数秒である。


 俺の人生は、たったそれだけで、大方の方向が決まってしまった。


 子どもだった俺は、自分がなにか特別な存在になれるのだと、少しだけ期待していたが、結果は何の面白味もないものだった。


 雑魚クラス【槍使い】

 平凡以下のゴミスキル〔そよ風〕


 俺はどこにでもいる、一介の槍持ち衛士になるのが女神が定めた運命であったのだ。


 剣すらふらせてもらえない。


(なんだよ……こんなんなら、神殿に来なければよかった……!)


 俺はまわりの子どもたちが、優れた【クラス】を引き当てたり、レアな〔スキル〕を得ているのを、神殿の端っこで、瞳に涙を溜めて眺めていた。


「おおー! 凄い、あの女の子は【竜騎士】になるんだって!」

「カッコいいなー! きっと【英雄】とかと肩を並べてすっごい伝説を作るんだろうなー!」


 神殿の子どもたちが騒がしく取り巻く中心に、ラナの姿があった。

 

 彼女は選ばれた人間だったのだ。

 俺のような底辺とは、大きく違っていた。



   

 『拝領の儀』が終わり。

 俺がそそくさと家に帰ろうとしていた時のことだった。


「エイト! まってよ、エイト、どうしてなにも言わずに帰っちゃうのよ?」


 ラナはその手に特級スキル〔魔槍まそう〕で召喚した、カッコ良すぎる黒の大槍を持って、不思議そうに首をかしげた。


「ラナはいいよな。クラスも、スキルも最高のものをもらってさ……俺なんて、これだぞ?」


 ラナへ手を向けて、涼しい風をおくってあげる。


「わあ〜気持ちいいよ、これ!」


 ラナはきゃぴきゃぴ嬉しそうに言った。


 俺は自分がなんで、照れ臭くなるのかわからなかった。

 

 ーー何度も言うが、この時は男だと思っていた。


「エイトの〔そよ風〕は人を幸せにできるスキルなんだよ。それすごいことだと思うなぁ」

「……ふん、知ってるよ、そういうのなんていうか。嫌味っていうんだ。ラナは嫌味を僕に言ってるんだ」


 俺は彼女の言葉がとても嬉しかった。


 けれど、10歳の俺はそんなことを素直に喜び、お礼を入れるほど簡単じゃなかったんだ。


 ラナはクスッと笑って「エイトって【槍使い】なんだよね?」と確認すると、ズイッと一歩寄って来た。


 彼女の髪からいい香りがして、俺は「男なのに、どうしてこんな可愛いんだろう……」と前提の間違えた深い疑問を抱いていた。


「はい、これあげるよ!」

「え? これって魔槍なんじゃ……」

「にゃはは〜、そうともさ、エイト少年! 君はこの未来のドラグナイト・プリンセスの相棒に選ばれたのだー!」


 ラナはぺったんこな胸を張って、にーっと笑った。


 その笑顔の眩しさは今でも覚えてる。


 ただ、俺はそんなことよりも「え? なんでプリンセスなの? プリンセスって女の子しかなれないんじゃないの?」と我ながら鈍感なコメントを残していた気がする。


「エイト……もしかして、わたしの事、男の子だとか、思ってる……?」

「え? ほかに何があるの? 髪だって短いし、お胸もないじゃないか」

「エイト」

「なに?」

「今からたたくね」


 彼女は笑顔でつげた。


 当然、叩くなんて生優しいものではなかった。


 ーー俺は出会ってから2年以上かけて、ようやく彼女が″彼女″であることを理解した。






         ⌛︎⌛︎⌛︎





 幼馴染として、そしてラナの相棒にふさわしくなるため、俺はアングレイ家で彼女の父親から直接、槍の指導をうけた。


 その修行期間は実に6年にもおよび、その間【槍使い】なのに、槍術の才能のかけらもない俺は、毎日のように、槍をふり続けた。


 毎日、ラナと同じ食卓を囲み、同じ屋根のしたで暮らすのは本当に楽しい時間だった。


 ラナの将来の夢は、怪我をしてやむなく冒険者を引退した父親を越える、最強のドラグナイトとして、最高等級の冒険者であるドラゴン級冒険者になることであった。


 俺はその夢を支えるため、一生懸命に努力を重ねた。


 そして、ついに俺とラナは16歳の夏、冒険者として華々しいデビューをかざった。

 

 鍛えられた技術のおかげで、順調にレベルもあがり、特に停滞期を迎えることなく、俺とラナはふたりで強くなっていった。


 しかし、ある時、他の町から流れてやってきた【竜騎士】ジブラルタという逞しい戦士と、カインという交渉術に優れた心優しいながらも気弱な青年が俺たちのパーティに加わった。


 それから、2ヶ月後……状況は変わりだした……。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー海に沈められる直前


「わかってねぇな、エイト君。お前が魔槍を持ってることに何の意味があんだ? あぁ?」


 俺は夜の暗い海がよく見渡せる高台で、ジブラルタに呼び出されていた。


 潮風を頬に受けてながら、俺はジブラルタを睨みつける。


「俺は、ラナの相棒なんだ。いくあてが無くて困ってたところをパーティに入れてやったのに、なんでそう、ジブは偉そうなんだ?」


 俺はサブリーダー。

 ジブラルタはあくまでメンバーの一員だ。


 俺はそれなりに強い態度で、パーティが最近ギスギスしだした原因ーージブラルタの俺への物言いについて言及した。


「偉そう? なに勘違いしてんだよ、エイト。雑魚のくせに生意気だな……」

「……え? 今、なんて……」


 俺は突然の怖気に、足元がすくんでしまった。


 声音に威圧がこめられていた。


 ふと、海のほうを眺めていたジブラルタはこちらへ向き直る。そしてスタスタと歩み寄ると、なんの躊躇もなく顔面を殴ってきた。


「ぐはっ!」

「【竜騎士】様に対して【槍使い】ごときが生意気だって言ってんだよ。それに、お前1ヶ月前から35レベルで止まったままじゃねぇか。それ、お前の″成長限界″ってことだろ? 雑魚は雑魚らしく、引っ込んどけや」

「っ、違っ、俺はまだまだ強くなれ……!」

「ウゼェえ!」


 ジブラルタの大振りな拳を、腰を落として全身で構えて受け止める。


 しかし、


「ぐぅ?!」


 体がわずかに浮くほどの衝撃。


 重たい。

 なんて重たい一撃なんだ。


 ジブラルタの攻撃力の高さに歯噛みする。


「ハハッ!」


 ジブラルタは楽しげに笑い、ひるむ俺の頬の骨を、続く大振りで叩き割った。


 視界が一瞬、暗闇につつまれ、気がつくと俺は地面に膝をついていた。


 頭が取れたかと思った。

 それほどまでに、膂力に差がある。


「ぁ、う」

「こんなもんかよ、サブリーダーさんよ。まあ、当然だよなぁ? お前のクソカスな【クラス】のレベルじゃあさ」


 ジブラルタはねちっこいと笑みを浮かべ、なんとか立ち上がる俺に、ポケットから薄いガラス板を取り出して放り投げてきた。


 それは冒険者ギルドで発行される最新のステータス計測機『ステータスチェッカー』であった。

 『ステータスチェッカー』には、ジブラルタの最新のステータス表記が載っていた。


 ジブラルタ・コルッツェオ

 性別:男性 クラス:【竜騎士】

 スキル:〔加速〕

 ステータス:正常

 レベル53

 体力 300

 持久 205

 頑丈 286

 筋力 290

 技術 238

 精神 129


 俺はそれを見て、思わず「53レベ……」とつぶやいてしまう。


 『ステータスチェッカー』に表記される数値は、レベルによる基礎能力値の恩恵だ。つまり、女神から与えられている″追加分の基礎力″を視覚的に見やすくしたものだ。


 人間単体だと、どんなに筋肉をつけても、熊を素手で殺すことすら難しいが、女神の祝福レベルによる″追加の基礎力″があれば、人間のもてる可能性は大きく広がる。


 現に誰もが知ってる【伝説の運び屋】マクスウェル・B・テイルワットは、ただ指を鳴らすだけで雨雲を消し、竜を堕とすという。


 もっとも、これらは人類最高峰の華やかな人生をおくった天才の話だ。


 俺のような凡人には関係がない。


「お前のステータスも見せてみろよ!」

「ッ、やめ、やめろ……!」


 俺は抵抗むなしく、ジブラルタの『ステータスチェッカー』で俺の口から溢れた″血″を採血されて、ステータスを図られてしまう。


 ピピッという音が聞こえると、薄いガラスに情報が更新された。


 エイト・M・メンデレー

 性別:男性 クラス:【槍使い】

 スキル:〔そよ風〕

 ステータス:正常

 レベル35

 体力 50

 持久 63

 頑丈 50

 筋力 69

 技術 91

 精神 70


「クソ雑魚じゃねぇかッ! ハハハハっ、ヤッバこれ! 俺が35レベルだった時でも、この倍は数値あったぜ?! アハハハハ!」


 ジブラルタの性悪な笑い声が、高台に響く。


「やっぱりお前は、ただのお荷物だよ。お前なんかがいたんじゃ、俺とラナのパーティ『竜騎士クラン』はドラゴン級にいけない」


 ジブラルタはそう言い、腰の剣をいともたやすく抜き放った。


「嘘だろ、おい、ジブ、お前、それがどういうことかわかってんのか……!」


 ジブラルタは軽く肩をすくめる。


「『竜騎士クラン』、いい名前だよな。なあ、エイト、俺とラナが結ばれること祝ってこんな素敵な名前にしてくれたんだろ? なら、最後まで俺に都合よくいてくれよ!」


 俺はジブラルタが本気で殺す気なのだと悟り、ラナに預けられている〔魔槍まそう〕の召喚権をつかい、手のなかにオレンジ色の粒子を収束させて、黒の大槍を呼びだした。


「それそれ、それが欲しいんだわ。お前みたいな雑魚には、ふさわしくない槍だよな!」

「ッ?!」


 ジブラルタの剣撃を槍で受けとめる。


 瞬間、俺の体がフワッと浮きあがった。


 彼は宙空を舞う俺の腹へ、すかさず蹴りを打ち、体を吹っ飛ばしてきた。


「あ……っ」


 そうして、俺は気がつく。

 自分が海に落ちていく事に。


「おっと! 待てよ、その槍は置いていけよなあ? 死人には必要ないだろ〜?」


 ジブラルタが槍を掴み、剣で俺の肩をぐさりと、容赦なく、凶悪に突き刺して、海へ落とそうとしてくる。


 痛かった。

 とてつもない痛みだった。


 だが、俺は消して槍を手放さない。


 これはラナとの、繋がりの証明なんだ。

 ラナとの思い出が、絆がある限り、俺は諦めるわけにはいかないのだ。

 

「うぐ!」

「オラオラ、はやく離せよ雑魚。面倒くせぇな……ああ、そうだ、思いついた………おい、カス野郎、最後に良いこと教えてやるよッ!」


 ジブラルタは改まった様子で剣を動かす手をとめる。


「お前の幼馴染は、もう俺のもんだってこと、あいつはとっくに俺の女になってる」

「っ、そんな嘘に騙されるかよ、ふざけるのも大概にしやがーー」

「俺をパーティに紹介したのは誰だ?」

「…………なんの話だよ」

「いいから。答えろよ」

「……ラナだろ。でも、それは同じ【竜騎士】だからってひとりなお前に同情した優しさが理由だろーが!」

「嘘に決まってんだろ、馬鹿がよ! 俺たちはとっくに付き合ってたんだ! 俺さ、アクアテリアスに来てたら、すぐに可愛いドラグナイトがいるって聞いてよ、詰め寄ったんだよ。最初は幼馴染のお前のことを気にかけてたが、一度ヤッたらあとは簡単だった。向こうから股開いてきて、いくらでも何回戦でも壊れるまでヤらせてくれんだ。なのに翌日になったら、キリッと凛々しい竜騎士の姫に戻ってやがんよ」


 嘘だ、こんなの嘘に決まってる。

 ラナは、ラナは……そんな女じゃない。


 俺はえぐられた肩の痛みに熱くなる頭で、必死に自分を冷静に保とうとした。


 しかし、ジブラルタの卑劣ひれつな物言いは止まらない。


「へへ、知らないのか? 女なんて一回ヤッちまえば心が移っちまうんだぜ? これだから恋愛童貞は困るっての。実はもう赤ん坊だって、孕ませてやってたりしてな」

「ッ、ふざけんな、てめぇ……ッ!」


 俺は怒りでどうにかなりそうだった。


 そしてつい、冷静を欠いてしまった。


 その反動は魔槍の力の解放として、表現されることとなった。


「くっ、止まれ!」


 体力が勝手に魔力に変換されていく。

 これは日に一度だけ使える魔槍のチカラ。


「やっと出したな、エイト君!」


 魔槍から放射される魔力の波動が、ジブラルタに身をひかせた。


 同時に俺の体は、鉛のように重たくなり、俺はすべてを出し切ってしまう。


「しまっ、、た……!」


 ラナならば、バンバン連射できる魔力放射さえ偽物の主人である俺には一度が限界だ。


 俺は荒れた岩肌に背中や、肩や、腕をズタズタにされながら、ゴロゴロと転がり、冷たい冬の海に投げだされた。


「あっ、クソカスが、槍だけは離さねぇのかよ……チッ、まあいいさ、槍の重みでどこまでも沈んでいけよ。みっともない野郎だぜ。どうあがいたって、ラナは俺様のもんなんだからなッ!」


 遥かうえから、大声で罵倒するジブラルタを見上げながら……されど魔槍だけは決して離さないように抱きしめて、俺は沈んでいった。


 そんなの嘘だ……。

 絶対に、絶対に、嘘、なんだ……。


 俺は何度も心のなかでそう言い聞かせるように繰り返していたが、思考は悪いほうへ、悪いほうへと向かっていった。

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