這いつくばる人形~精神が粗陋~

甘蜘蛛

プロローグ

  確かにボクは自宅で友人の誕生日を祝うために部屋の飾り付けをしていた。そしてひもくくったダンボールの束を捨てようとして家を出た。


 それは間違いない。でもなんでボクの目に草原が映るんだ?

 とにかく目の前の光景について何も考えてはいけない。これはたまに見る幻覚なんだ。徹夜てつやで寄生虫について調べたり、絵を描いたりしたのがいけなかったのだろう。さわいだらまた隣に住んでいる海藤かいどうさんにビンタされてしまう。


 落ち着きを取り戻そうと(地面に見える)廊下ろうかに座る。………なぜか草の感触がした。


 やった!ボクの脳はついに現実から逃避とうひしやがったのだ!くそたっれ!!


 そんなことを考えていると、右前方から時代劇に出てくる村人みたいな恰好かっこうをしたおじさんが歩いてきた。

 おじさんはボクに気づくと、ひどく怖気おじけづいてしまったようだ。だんだんと顔が青ざめていく。まるで怪物でも見たような反応をする。

 とりあえずボクはおじさんに声をかけてみる。


「こんにちわ!」

「%745#@4$!」


 声を出すのは気持ちがいいな、とか思ってる場合じゃなかった。冷静れいせいになれ、ボク。幻覚に話しかけてどうするんだ!

 とりあえず痛みでトリップしてしまえば現実に戻れるはず。そう考えたボクは地面に思いっきり頭突ずつきをする。


「ツゥ~…………」


 痛みで視界がゆがむ。たぶん血もでた。


「これで現実に―――――――」


 ボクの目にはまだ草原とおじさんが残っている。


「558☆H+!」


 おじさんは絶叫を上げながらボクになぐりかかってきた。あまんじて受けよう。


「ウグッ……」


 おじさんに殴られ、地面にたおれる。


「痛ッテ~~~~~」


 ボクが起き上がる頃には、おじさんはすでに姿を消していた。

 あれはたぶん海藤さんなのだろう。ボクのイカした脳みそがおじさんへと変換へんかんしたのだろう。

 でもひどいなぁ、殴ることないじゃないか!


「とりあえず寝るか………」


 ボクは手元にあったダンボールを枕替まくらがわりにして横になる。とても気持ちの良い風がいている気がする。


 

 

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