第2話 うわっ…俺のステータス、低すぎ…?

 気づいた時(数分ぶり二回目)、俺は見知らぬ部屋にいた。


 ただし、今回はさっきと正反対の薄暗い地下室である。


「つーか、また誰もいないのかよ……」

 

 あたりを見回せど人影は無し。俺を召喚した魔法使い的な奴がいてもいいはずなのに。


 まあ愚痴っていても仕方ない。とりあえず誰か探しに行くか。


 と立ち上がったその時、扉の向こうから足音が聞こえて来た。それも、なにやら複数人いるようだ。やれやれ、ようやく迎えが来たのか。


 けれど、地下室の扉が開け放たれた瞬間……俺は危うくチビりかけた。


「ふぁっ?!!!」


 機械仕掛けのドラゴン。

 空洞のまま動いている甲冑。

 巨大な土くれのゴーレムに、

 古びた枯木のお化け。


 ――現れたのはどこからどう見てもモンスターな面々だったのだ。……おい、ちょっと展開早すぎないか?


「ちょ、ちょっとタンマ……!」


 という懇願虚しく、魔物たちはあっという間にこちらを取り囲む。よくよく見ればなぜか全員最初からボロボロだが、こっちはもっと悲惨な状況だ。剣もなければ盾もないし、着てるのなんかただのパジャマ。チート能力は目覚める気配もない。


 つまるところ……俺、詰んだ?


 まさか転移早々モンスターハウスにぶち込まれるとは。俺もつくづく運がない。こうなったら次は異世界転生編が始まってくれることを祈るしか……などと考えていたその時、魔物たちの後ろから声がした。


「――これこれ、お前たち。そうはしゃぐでない」

「――危険かも知れん、下がっていろ!」


 現れたのは奇妙な格好をした二人組の女性。

 片方は三角帽子に長い杖を携えたいわゆる魔女っ子スタイルの少女。

 そしてもう一方は腰からロングソードを提げた長髪の女。こちらはなぜかメイド服を着こなしている。

 

 そんな謎の二人組の一声により、四体の魔物は大人しく引き下がる。よくわからないが、とりあえず助かったようだ。


 ……が、ほっとしたのも束の間、それは大いなるぬか喜びであった。


「え、えっと、君たちは……」

「――口を開くな。動いたら殺す」

「ひぃっ……!」

 

 ぴたりと首筋に突き付けられた白刃。それが単なる脅しでないことは、こちらを見下ろすメイド女の目を見ればわかる。


「これ、セラ。あまり脅かすでないぞ。怖がっておるじゃろう」

「甘すぎるぞ、パロ! 主導権がどちらにあるかハッキリさせておかねば!」


 どうやらメイド女が『セラ』で、魔女っ子が『パロ』という名らしい。

 そんな二人が次に何をするかと思えば、こちらをじろじろ見ながら深刻そうな顔で密談を始めた。


「そんなことより……これはどっちだ? 成功か? それとも失敗か?」

「うぅむ……少々座標はズレたが、召喚自体は成功したはず……なのじゃが……」

「……眼が違うな」

「……眼が違うのぅ」

「ということは、失敗か?」

「失敗かも知れんのぅ……」


 と、しきりに俺の瞳をチラ見してくる二人。

 眼が違うって……別に俺の眼はいたって普通なはず。というか、他人の顔を見ながら「失敗か」とはどんだけ礼儀がなってないんだこいつらは。……と、口には出さず憤る俺。だって怖いんだもん。


「しかし、転移者でないものが召喚されるなど……有り得るのか?」

「はて、可能性は色々と考えられるが……ともかく、話は『鑑別』してみてからじゃの」


 そう言って、パロはぶかぶかのローブから水晶玉を取り出す。

 そして小さく呟いた。


「≪能力鑑別アナライズ・ステータス≫」



※※※



【ステータス】


名前:リク=クロノ

種族:人間

職業:無職

体力:G-

力:G

魔力:0/0

防御:G

知力:G-

精神:G

敏捷:G

物理耐性:G-

魔法耐性:G-


『装備品』

武器:なし

頭:なし

上半身:パジャマ

下半身:パジャマ

靴:なし

手袋:なし



※※※



 俺たちが見守る中、水晶玉に次々と文字列が浮かび上がる。当たり前のように日本語なのはお約束というやつだろうか。ただ唯一問題があるとすれば……なんつーか、しょぼくね? 綺麗にGが並んでいらっしゃるが……


 いや待て待て、悲観するのはまだ早い。もしかするとこの世界のステータスはGが最高なのかも……


「うわ、しょっぼいのぅ……」

「この数字……ダンゴムシか何かか!?」


 と、一周回って驚愕の表情を浮かべるお二人さん。やっぱり低いのかよ!

 後ろではさっきの魔物たちが「どんまい」みたいな感じで肩をぽんぽんしてくる。大きなお世話だ。


「ま、まあ、まだアビリティを見ないと判断はできんからのぅ」


 そう、まだ慌てる時間じゃない。低ステを補って余りあるチート能力がきっとあるはずなのだ。


「≪技能鑑別アナライズ・アビリティ≫」


 再びパロが呟いた瞬間、水晶玉一杯にずらりと並ぶ能力の数々。多すぎて目を細めないと字が読めないほどだ。


「おおっ!」

「こ、これは……!」

 

 流石の二人も驚嘆の声をあげる。……が、よくよく読んでみると……


※※※


【アビリティ】


【成長率下方補正】:-99%

【成長上限下方補正】:-99%

【ステータス下方補正】:-50%

【魔法適正】:0

【剣適正】:0

【槍適正】:0

【弓適正】:0

【斧適正】:0

【格闘適正】:0

【弱点】:『斬撃』

【弱点】:『打撃』

【弱点】:『刺撃』

【弱点】:『水』

【弱点】:『炎』

【弱点】:『氷』

【弱点】:『風』

【弱点】:『土』

【弱点】:『樹』

【弱点】:『光』

【弱点】:『闇』

【弱点】:『聖』

【弱点】:『状態異常』

【不運】

【???】

【めんどくさがり】

【モテない】

【伸びしろなし】

etc,etc……


※※※


 ……あれ? なんかマイナス能力だらけじゃね? というか後半ただの悪口では?


「これは……ひどいのぅ……」

「……はぁ……」


 驚きを通り越して呆れられる始末。溜息つきたいのはこっちだっての。


「うぅむ、一つ解析不能があるのが気になるが……これだけマイナスが多いとのぅ……」

「ふん、決まったな。こいつはハズレだ。恐らく火事場泥棒の冒険者もどきだろう」


 そう結論付けたセラは、それから冷徹に呟いた。


「――だとしたら、処分しなければな」


 うっ、や、やっぱりそうなります……?


「これこれ、物騒なことを言うでない。主の言いつけを忘れたか?」


 と、のんびり仲裁してくれるパロ。俺はこの子の方が好きです!

 だが不満そうに剣を収めたはずのセラは、なぜかぎゅっと拳を固めるのだった。


「ふん、仕方ないな……なら気絶で済ませてやろう。動くなよ?」

「へ……?」


 次の瞬間、振り下ろされる拳。と同時に、殴りつけられた石床に巨大なひびが走る。――咄嗟に身をかわしていなければ、今のげんこつを脳天に喰らっていただろう。どう考えても気絶じゃ済まねーぞそれ。


「動くな、と言ったはずだが?」

「動くに決まってんだろ!!」


 俺は大慌てでセラから距離を取る。

 会話の感じから何となく察していたが、今の馬鹿力で確信した。やはりこいつらも普通の人間じゃない。どうにか隙を見つけて逃げなければ。


 ……が、それができていれば最初から苦労はない。『敏捷:G』(笑)らしい俺が人外のスピードに敵うはずもなく、俺はあっけなく壁際に追い詰められるのだった。


「手間をかけさせるな、下等な人間が!」


 そうして繰り出される綺麗な当身。無論防げるはずもなく、それはもう見事にみぞおちに決められる。石床を粉砕するほどの怪力によって殴られたのだ、もはや一巻の終わり。激しい衝撃と共に、意識が飛ぶほどの激痛がほとばし………………らなかった。


「痛っ……って、あれ? 痛く、ない……?」


 最初、痛すぎて感覚が麻痺したのかと思った。だがそうじゃない。本当に、欠片も、まったく痛くないのだ。


 見れば、セラとパロも揃って狐につままれたような顔をしている。


「セラよ、おぬし、加減というものを覚えたのか?」

「そ、そんなはずは……!?」


 やはり手加減されていたわけではないらしい。だとしたら……

 俺は誰よりも早くこの理由に気が付いた。


「これが俺の能力――!?」


 間違いない、『あらゆるダメージをゼロにする』アビリティ、その名も【絶対防御ガーディアン・オブ・アイギス】……なのかは知らないが、とにかくそんな感じのやつだろこれ! これならどんな低ステもマイナス能力も関係ないってわけだ!


「や、やった……! 無敵だ、最強だ、チート能力だ……!」

「ふむ、にわかには信じられんのぅ……どれ、わしも……」


 と、歓喜する俺の隣で、パロがこつんと杖を振り下ろす。ははは、あの怪力メイドのパンチが効かなかったのだ、そんな攻撃が通るはず……


「――痛って!!」


 スコン――と綺麗な音がして、後頭部に鈍痛が走った。


「あだだだだだ……!!」

「む、むぅ、効いたようじゃのぅ……」

「い、一体なんなのだ、貴様は……?!」


 頭を押さえて転げまわる俺を、セラは珍獣でも見るような目で見下ろす。

 そんなことはこっちが聞きたい。さっきの腹パンは平気だったのに、なんで……?


 その時、先ほどからぶつぶつと独りごとを呟いていたパロが、はっと顔をあげた。


「……む! もしや、おぬしの力は……!」


 思い当たる何かがあったのか、パロは急に声をあげると……唐突に俺の手を握った。


「――頼む、わしらを助けて欲しいのじゃ!!」

「はあ!?」


 切羽詰まった顔でいきなり懇願してくるパロ。おいおい、急に態度が変わったじゃないか。隣のセラもわけがわからないといった顔でパロに詰め寄っている。


「おい、パロ! 何を言っている?! こいつは転移者じゃないのだろう?! だいたい、どちらにせよこのステータスでは使い物にならんぞ!」

「いや……違うが、違くないのじゃ! こやつの能力は――」

 

 けれどその続きは聞き取れなかった。――なぜなら、パロが言い切る前に上階からとんでもない爆発音が響いてきたのだから。


「な、なんだ……?!」

「この音……!」

「まさか、奴らが……!」


 思い当たる節があるのか、セラとパロは切迫した顔で駆けていく。魔物たちも二人の後に続いて出て行った。


 後に残されたのは俺一人。


「……え? 俺、放置?」

 

 折角の異世界転移だってのに、ちょっと扱いがひどすぎやしないか。


 いやいや、これは脱出の好機だ。と考え直すも、残念ながら出入口はあいつらが出て行った扉のみ。要するに、追いかけるかここで待つかの二択らしい。


「あーもー、なんだってんだよ……!」


 ただでさえわけがわからないってのに、これ以上知らない所で話が進んだらたまらない。俺は渋々あいつらを追いかけるのだった。

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