第五十話 ぴぎー
「マーロック」
魔王は胡座をかいていた。
膝には小さな白いタコがいた。
タコは「ぴぎー」と鳴いた。心の中で『はい』と、応えたつもりだった。
「よくやったな」
「ぴぎー」
タコは、人間の身体さえあれば、跪いて涙を流していたと思う。
「おまえは……俺に叱られたかったんだろ?」
タコは、しゃべれないのが口惜しかった。けど、言葉は必要なさそうだと思った。
「軍団を率いてよ。六惨将の気に入らねえ奴を片っ端からぶっ飛ばすんだ。自分勝手な奴が多かったもんなぁ。俺を殺した人間たちも憎かったか?」
「ぴぎー」
「おまえのやろうとしたことは選定だろ。俺に刃向かうような奴は、人間であろうと魔物であろうと許さなかった。俺に従う者以外を、滅ぼすつもりだったんじゃねえのか?」
「ぴぎー」
「俺は適当主義だったからな。六惨将には、俺を殺そうとしていた奴もいたし。だから、おまえはおまえのやり方で、理想の世界を作ろうとした」
「ぴぎー」
「おまえは気づいてたんだろ。俺が生きてるんじゃねえかって。だから世界を支配して、最後に俺を復活させる。んで、おまえ好みの世界を、俺に献上するつもりだった」
「ぴぎー」
「そしたら、きっと俺はこう言ってた」
「ぴぎー」
「何、勝手なことしてんだよ、バーカってな。こんなふうに拳骨を食らわしていたかもしれねえ」
魔王は、タコの頭にデコピンを食らわせた。すると、タコはぴょこぴょこと身体を上下させた。
「くくっ。……そうやってバカやってよ。遊んで、喧嘩して、俺たちは楽しくやってきた。おまえは世界で一番のダチだ。ありがとな」
「ぴぎー」
「先にあの世へ行ってろ。いつになるかわからねえけど、こっちに飽きたら俺も行く。ああ、勝手にあの世を支配するんじゃねえぞ。俺の楽しみが減るから」
「ぴぎー」
「つっても、おまえのことだ。しれっと暴れまくってんだろうなあ」
魔王は、宇宙のような天井を見上げて呆れていた。
「あとは……シュルーナのことを気遣ってくれてありがとな」
「ぴぎー」
「あいつは強くなるぜ。それに、ダチを作るのが上手い。おまえにとっても姪っ子みたいなもんだ。成長するの、楽しみにしとけ」
「ぴぎー」
魔王は寂しそうな表情を浮かべ、タコを見つめた。
「さてと、そろそろ時間だ」
魔王は、ゆっくりと立ち上がった。タコは魔王の身体を這って、掌へと移動する。
「悪いな、一方的にしゃべっちまって。けど、おまえの気持ちはわかってる。三千年もダチをやってきたんだからな」
魔王は、もう片方の拳を突き出した。
すると掌のタコは触手を一本丸め、その拳へと軽くぶつけた。
「じゃあな、兄弟」
「ぴぎー」
タコは、掌を離れて浮游した。真っ黒い空間でタコは光に包まれた。光は渦となり、やがてそれは闇へと溶けていくのであった――。
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