ネトゲの思い出

田原木

第1話 ネトゲの世界ですぐに友達ができると思った?

「初心者さんですか? この辺りは強いモンスターが多いので、気を付けてくださいね」

 という台詞はフィクションである。いや、ありうるかもしれないが、私は遭遇しなかったし、遭遇したというネトゲプレイヤー友達もいない。

 私自身、10年プレイヤーだったが、言った覚えもない。


「手伝ってあげますよ! 強くなったら一緒に狩りに行きましょうね!」

 と声をかけるタイプの人は、大抵弱い。

 弱い人同士が集まってギルドを形成する。


 が、稀に、手伝ってくれる、ものすごく強い人がいたりもする。

 善意100%ではないから安心してほしい。弱いギルドの中から、強くなる可能性のある人を物色して引き抜こうとしているか、

「すごい!」

 という称賛とちやほやを求めているのだから。

 ありがたく強さに庇護されて、高難易度ダンジョンを楽しもう。



 10年以上も前のこと、私は3Dのフィールドで2D(ドット絵)のキャラクターを動かすネットゲームの世界に降り立った。現時点で17周年という、古いネットゲームである。


 どうしよう。

 私は、私の動かすキャラは、チュートリアルを終えてたった独り、そのネットゲームの首都に降り立って震えていた。

 頭にかぶるのは初期装備である卵の殻。手には多分すごく弱いのであろうナイフ。衣装は最初期ジョブのもの。見るからに初心者丸出しであった。


 首都には沢山の人がいた。

 この、マップを歩いているキャラクター全てに中の人がいるのだと思うと、恐ろしかった。

 どうしたらいいのか分からないのだ。チャットで文字を打てばいいのか? いや、突然話しかけたらおかしいだろうか?

 考えてみてほしい。中身が全ているのだ。見知らぬ人に街中で突然声をかけられたら驚くだろうし、突然声をかける方も勇気がいある。それと同じだ。


 初心者の私は暫くの間、立ち尽くしていた。

 そして、意を決して数歩歩いた。リアルの私の左手をキーボードに。右手をマウスに。マウスを恐る恐るクリックすると、その場所にキャラクターは動いた。

 じりじりと歩いた。


 更に人の多い場所へ出た。

 大通りの両脇に人がずらりと並んで座っており、頭上に、

『空きびん エル オリ』

 などと文字が並んでいる。

 ――何の事か全く分からない。

 そして、やはり怖い。沈黙が怖い。

 パソコン画面の上から下までを大通りがぶち抜き、その両脇にキャラクターがずらり。おそらく50人程はいるはずだ。なのに、チャットウィンドウには何一つ言葉が並ばない。

 ただただ、人がいるはずなのに静まり返った道を、初心者の私は歩いた。


 そして、街の中でも、この後街の外に出ても、フィールドで戦っても、誰からも話しかけられることはなかった。



 私の記憶の中のネットゲームは、酷く閉鎖的な空間だった。

 オープンチャットでは、極力話をしない。知り合い以外には話しかけない。

 暗黙の了解だか、ローカルルールだか、何か分からないがルールが沢山あって、それらを守れなければネット上の掲示板で晒された。


 私はネトゲ題材の小説は好きだが、面白いと思う心の奥底で、

『違う。こんなネトゲの世界はありえない。私はもっとリアルな描写のネトゲ小説が読みたいのだ』

 という思いが湧き上がってしかたがない。


 リアル描写のネトゲ小説など、殺伐としていて、妬みが渦巻き、内輪仲良しごっこなど、読んでいて面白くないと分かり切っているのだが。

 それでも私は、リアルなネトゲ小説が読みたい。

 あるある! と言ってみたい。

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