ゆりとひよりのまったり百合日和

青崎 悠詩

第1話 わたしの一日 -ゆり-

 住宅街から少し離れた田舎町。わたしたちはその場所にふたりの家を建てた。静かな環境で過ごしたいというひよりと田舎に憧れを抱いていたわたしにはぴったりな場所だった。

 午前5時。私はスマホのアラームの音で目を覚ました。隣で寝ていたひよりはわたしより先に起きていた。休み明けの月曜日。私はロング丈のスカートと白シャツと薄手のカーディガンに着替えリビングに向かう。

「ゆり、おはよう。今日の朝ごはんはフレンチトーストだよ。お弁当は軽めにしといた。昨日から少しだけ調子悪いようだったから。」

ひよりはわたしの体調を気遣って食事のメニューを考えてくれる。特に大学を卒業してからは毎日のように食事を作ってくれていた。

「ありがとう…。本当、よく見てるよね。」

わたしはキッチンのカウンターに座り、微笑みかけた。ひよりはそんな私を見て少しだけ顔を赤くした。


 午前6時。全ての準備を終えた。後は…。

「行ってらっしゃい。気を付けて。」

ひよりはわたしの頬に優しくキスをした。仕事に行く前の日課。もう2年は続けているのにいまだに慣れない。わたしは顔が熱くなるの感じながらドアを開けた。

「いってきます。」


 午前6時30分。わたしは電車を乗り継いで学校に着いた。

 私は高校で数学教師として働いている。去年、初めて特進クラス1年の担任になった。誰も中退・留年することなく無事2年に進級をしてくれた。自分の力は2割くらい。生徒たちが私を信頼して努力してくれたからこそこの結果が出たのだと思う。教師というものは随分と生徒たちに救われている。

 今年は普通クラスの2年の担任を任されている。特進クラスとは全く違う。勉強意欲が低い子たちが多くて思うように成績が伸びなかったり、クラス内でのトラブルがあったりと子どもたちを不安にさせてしまうことが続いていた。


 朝礼、授業、昼休憩、授業、放課後。今日も順調に時間は過ぎていった。子供たちは面倒くさそうに授業を聞いて昼休憩や放課後にストレスを発散するように騒いでいた。

 「千藤ちふじ先生、中野君のことでお話があります。」

放課後、バスケ部顧問の先生から忠告を受けた。

「次の中間テストで赤点を取った場合、試合に出すことはできません。俺からも伝えましたが嫌われているみたいで聞く耳を持ってくれませんでした。千藤先生から改めて伝えておいてください。」

バスケ部顧問ははっきりとした口調で言った。わたしは「わかりました」とだけ返してそれ以上は何も言わなかった。


 一日の仕事を終えて帰りの電車に揺られていた。わたしは頭の中で中野君のことを考えていた。

 「ただいま。」

家のドアを開けるとリビングの方からひよりが出てくる。

「おかえり。今日もお疲れさま。」

その声でいつも肩の荷が下りる。わたしはひよりにそっと抱きついた。ひよりは少し照れながらもわたしの頭を撫でてくれた。

 

 「ゆり、お風呂…。メイクも落とさないと明日、大変なことになるよ。」

酔っぱらったわたしはリビングのソファーに横たわっていた。

「ひより~、たまには一緒に入ってよ~。」

冗談のつもりだった。

「言ったな?襲われても知らねーぞ。」

ひよりは不敵な笑みを浮かべてわたしの手を引いてお風呂場に向かった。わたしはドキドキしながら着いて行った。

 が、しかし…。ひよりは何もしてこなかった。わたしの中にはモヤモヤとした気持ちだけが残った。

 お風呂を出るとひよりはすぐに寝室に行ってしまった。わたしも追いかけるようにして寝室へ向かう。

 ひよりはベッドで横になっている。ひよりも疲れていたことにその時、気が付いた。わたしは耳元で「おやすみ」と囁き横になった。

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