第20話 姉と最初で最後のデート

未那の手作りのお弁当を食べてから、俺たちは水着に着替え、プールに入ろうとしていた。


「早く一緒に入ろ!」


「ああ、うん」


未那に促され、俺たちはプールの中に入る。外が暑かったからか、とても水が冷たくて心地良い。


「冷たくて気持ちいい!」


未那もとても気持ちよさそうに水の上に浮かんでいる。


そこで俺はぷかぷかと浮かぶ未那を見て、初めて水着姿をしっかりと確認する。


黒色の、いたって普通だがどこか清楚感を感じる水着。それがまた、未那の綺麗な白色の肌を際立たせる。


そしてくびれのあるスレンダーな身体。道行く男が振り向き、ナンパしたくなる気持ちも分かる。


ずっと未那の身体に釘付けになっていた俺は、未那から呼ばれているのに気がつかなかった。


「ゆうくん!も〜、あんまり見ないでよ…恥ずかしいじゃん…」


「あー、ごめん…」


そう言いながらお腹を隠す彼女。え、何今の、めっちゃ可愛いんですけど。


姉と分かってはいるが、流石に今のは破壊力抜群だ。

その証拠に、近くにいた男たちの鼻から大量の鼻血が吹き出している。


「ごめんね姉さん、じゃあ、一緒に泳ごうか」


何とか平常心を取り戻し、未那と泳ごうとした時だった。


「あ、待ってゆうくん!」


「ん?どうしたの?」


「ちょっといいこと思いついちゃった♪」


そう言って未那は急いでプールを出る。


えー…大丈夫かな…姉さんのいいことって…


プールの中で少し待っていると、突如背中に何かが当たった感覚がした。


「あ!すいません!」


謝りながら、一人の女性がこちらに来た。

振り向くと、そこにはビーチバレーのボールがあった。どうやらプールの中でバレーをしていたらしい。


「怪我とか大丈夫でしたか?」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。あ、これ」


そう言いながら俺はボールを女性に渡す。


「あ、ありがとうございます!あの…優しい方ですね」


「え?そう…ですか?」


「だって、ご自身の心配よりもボールを優先してたから…」


いや、背中に当たっても全然痛くなかったし…むしろ当たり前のことをした気がするんだけど…


「あの、もし良かったら一緒にしませんか?友達も一緒にいるんですけど」


あれ?なんか俺、しれっと誘われてない?


「するって、バレーをですか?」


「あ、そうです!お兄さんすごいかっこいいですし…」


姉さんの様な清楚な雰囲気とは思えないほどにガツガツと積極的に来る女性。え…女子にもこういう人いるの!?


「ゆうくん」


すると、俺の背後から背筋が凍りそうなほどに冷たい声で呼ぶ声が聞こえた。


「あ…失礼しましたー」


さっきまで積極的だった女性も、逃げるようにして元の場所へと戻る。


「いや、これは…」


「さっきの女性はだあれ?」


高圧的な態度で質問してくる姉さん。いや…怖すぎるよ…


俺はさっき起こったことを細かく説明した。



「なーんだ!そういうことだったんだ!」


やっと理解してくれた姉さんはとても笑顔で大きな浮き輪の中に入っていた。


ふう…分かってくれて良かったーって、何だろう、それ。


「姉さん、その大きな浮き輪なに?」


「ゆうくんと二人で入りたいから、急いで借りてきたんだ〜」


なるほど、いいことってこれの事か。これなら全然大丈夫だろう。


「そういう事ね、いいよ、一緒に入ろう」


そう言って俺は未那の入っている浮き輪の中に入る。


しかし、入ってすぐ、俺はこの浮き輪から出たいと思った。


思ったよりも密着度がすごい。腕に抱きつかれるのと比べ物にならないくらい、未那の身体が俺に触れていた。


「ちょっと狭いかもね、俺出た方がいいかな?」


俺はここから出ることを提案する。が、しかし。


「ううん、私はもっとゆうくんとこうしてたいな〜」


マジかよ…もう色々あって倒れそうなんですけど…


しばらく俺たちは、同じ浮き輪の中でゆっくりと水に流されていった。


途中、他のカップルの男の方が血の涙を流していたが、あれはどういう気持ちで俺たちを見ていたのだろうか…





プールを二人で満喫していたら、気づけばもう夕方になっていた。


服に着替え、施設を後にする。


「今日はありがとう、私の、こんなわがままに付き合ってもらっちゃって」


「ううん、全然大丈夫、むしろ楽しかったよ、姉さんと二人で色んな事できて」


色々な事があったが、なんだかんだでとても有意義な一日だった。


「ねぇ、最後に一つお願い聞いてもらってもいい?」


「ん?何?」


「私のこと、『未那』って呼んで」


確かに今日のデートでは、一回も’’未那’’と呼ぶ事ができなかった。


俺は初めて、姉さんの事を名前で呼んだ。


「分かった……『未那』」


「うん、ありがと…」


名前を呼ばれた時の未那の顔はとても嬉しそうで、でもどこか儚げな表情をしている様にも見えた。


もしかしたらもう、二人きりでデートをすることは無いかもしれない。


でも、俺はきっと今、この瞬間を忘れることは無いだろう。





お読みいただき、ありがとうございます。最近作者の都合で、中々応援コメントに返信出来てません(´×ω×`) すみません。

時間に余裕が出来たら返そうと思いますので是非応援やコメントの方、よろしくお願いいたしますm(__)m

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