36.善良ならざるもの

 此処一ヶ月、何だか異様に忙しい。お陰でエッセイや小説を書く時間があまり取れない。昨日書いたのは今日見返したら、前回更新分と三割ほど被っていた。時間どころか記憶が危ない。

 今書いているSFをカクヨムコンに出そうと思っていたのだが、今年から該当ジャンルがないらしい。SF書きとしては困ったことである(都合によって「SF」の部分は変わる)。仕方ないので現代物を書こうと心に決めたが、今ひとつ話の決定打が無い。設定を捏ね回す日々である。


 仕事で仕様や設定を捏ね回していると、いつの間にやら変なことになることが多い。その場その場で対応してしまうので、結果として「奇跡的に成立しているけど一つ崩れたら終わり」みたいなものが出来上がる。金と時間があればもう少しマシになるのだが、その二つは常にない。資本主義の世の中において資本がない会社は「安い」「早い」を売りにするしかないのである。


 先日、某病院の点検作業に行っていた人が話しかけてきた。内容は「現地のサーバが意味不明」だった。


「いろんなタスクが動いててさ、よくわからないんだよ」

「そんなに動いてたんですか」

「止めていいのかどうかすらわからなくて。でもあれ全部、淡島さんの作ったやつだよね?」


 ……記憶にない。

 「どうしても標準の機能では動かないから、こっそりサーバ上でどうにかしちゃえ★」的なことをするのは毎度のことだし、いちいち内容を覚えていられない。第一そこの病院に行ったのは数年前だ。昨日の夕飯のことすら覚えていない人間に無茶を言わないで欲しい。


「お陰であの病院のサーバや設定、訳わからなくなってるんだから」

「あれは、貴方が「どうにか稼働までに動かして」とオーダーしたので、その通りにしただけですよ」

「そうだけど」

「意味不明になる片棒を担いだことは認めますけど、諸悪の根源ではないです」


 他にも五人ぐらい同じようなことをした人間がいるのを知っているので、自信満々にそう答えた。御伽話やゲームの世界なら唯一絶対の諸悪の根源が存在するが、現実世界ではそういう存在は滅多にいない。誰しもが少しずつ善良なる道から外れていった結果、なんかよくわからない、ウゾウゾとした悪が生まれてしまうのである。多分。


「でもどこかで綺麗にしたほうがいいと思うんだよね」

「賭けてもいいですけど、あれらを統合して綺麗にしようとした結果、更に複雑なものが出来るだけですよ」


 混沌という暴力には、それを上回る暴力で抗うしかない。あるいはいっそのこと全てを焼け野原にしてしまうかである。全て消して仕舞えば複雑も何も無い。具体的にいえば契約終了である。「こんな契約があるから悪いんだ」の精神で何もかも焼き払う。イッツアクリーンワールド。


「まぁ今動いてるならいいんじゃないですか?」

「そうだね。いざとなったら淡島さんに直してもらうよ」


 どちらの手段も使えない我々は、悪を野放しにする選択を取る。魔物だって魔王だって、人間界に何かしない限りは勇者に討伐されることもない。お互いに平和な世界を維持できる。

 金と時間があれば解決するだろうが、どちらもないので仕方がない。さっきも言ったが、その二つは常に無いのである。

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