第9話 戦争の終わり
コーメルは宣言通りトラバルトを審問にかけた。
その審問とは貴族による貴族のためのものであり、公平性など一切なく、彼らの言が全てまかり通ると言う無茶苦茶なものだった。
だがトラバルトはこうなる事を知っていた。
知った上でヨルムンガンドを逃したのだ。
(後悔はない、例え死のうとも。
私は斬るべきを斬らず、国の敵をみすみす逃したのだ。)
決定がくだり、
トラバルトは将軍職を罷免され罪人として無期限牢に繋がれる事となった。
実は本来トラバルトに言い渡されるのは死罪であったが、国王を始めトラバルトの部下である兵士たちや、タニア王国の多くの国民達による助命嘆願書により流石の貴族たちも一歩譲る形となったのだ。
冷たい手枷をはめられて、暗く肌寒い牢がトラバルトの居所となったが、不思議とそれほど苦しくなかった。
斬りたくないものを斬るくらいならここにいるのも悪くない。
(所詮、私は将軍の器ではなかったと言う事だな。)
トラバルトはそう自分を卑下するが、彼の武人としての実力は本物であり、人望ある彼が前陣に立つと言うことはタニア王国軍にとってこの上ない強さの源だったのだ。
後任の将軍はトラバルトの副官だったアトスが指名され、よく戦ったが、元々王国の体制に嫌気が差していた兵も多く、トラバルトの罷免がとどめとなって著しく士気を欠いていた。
それからそう長い時間はかからずベレトニア大陸西南、タニア王国城下に敵が大挙、城は火の海に包まれる。
タニア王国の北部に位置する同盟国、テゾ共和国が、建国の英雄である、将軍・ラインハルトを先頭に救援軍を出したが、魔導・ヘルにより壊滅、ラインハルトも討死。
国の終焉を悟った貴族達は一目散にさらに西南ゲルニア大陸に城を構えるゼノン帝国まで落ち延び、王を始めとする王国兵士は国と心中すべく城下で敵を迎え撃ち凄絶な討死を遂げた。
こうしてタニア王国は滅亡。
テゾ共和国もラインハルトを始めとする多くの兵を失った事と東部、南部より同時に攻められ降伏。
残る3国も圧倒的不利を悟り和睦の使者を出し、魔族軍もこれを受け入れ戦争は終結した。
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