一村雨の雨宿り
のりたま
タニアの将軍・トラバルト
第1話 トラバルトの憂鬱
ふぅ、と息が漏れる。
トラバルトの表情は冴えない。
幼少期から今まで剣の上達はそれはそれは楽しかった。
剣を振るうことが好きだった。
トラバルト自身、将来的にこの剣を人に振るう機会もあるだろうと漠然と思っていたが、いざ振るうとなると迷いが生じる、それは彼のいいところでもあり悪いところでもあるのだ。
このように性格的に甘いところはあるが実直で、国内随一の剣士であり、その容姿も僅かに癖のある金色の髪に宝石のような碧眼、通った鼻筋にスラリとした長身と、彼の人気に一役買い、あれよあれよと出世して彼は軍部最高位、将軍の地位につく。
そんな彼が将軍について間もなく、今現在続いている大きな戦争が起きた。
世界を二つに割った、人族と魔族による世の覇権を賭けた戦いだ。
この世には3つの大陸があり、西側南部にあるゲルニア大陸。
東側北部にあるヌー大陸。
そしてそれらに挟まれて中央に位置する最も巨大なベレトニア大陸だ。
本来人族も魔族も各大陸にまばらに国を形成し住んでいたが、双方の折り合いはいつの世も常に非常に悪く絶え間ない争いが続き、いくつも国が滅んだという。
そしていつしか西側を人族が、東側を魔族が、それぞれ集まって徒党を組み出したのだ。
西側人族が治める国は5つ。
東側魔族が治める国は3つ。
それぞれが同盟を組み、中央のベレトニア大陸にて衝突を繰り返しているのが現状だ。
そして若いトラバルトは5カ国同盟の最高戦力、5将軍の一人として南部戦線に赴いていた。
(国のためとは言え、こうも連日魔族を斬り続けるのは気が滅入る。)
このところトラバルトは己が心が黒いモヤのようなものに少しずつ侵されているのを感じていた。
この世における人と魔の戦いの起源は古く幾百年続いている。
だが例えば空想上の悪魔などが人に対して一方的な危害を加えるような存在であるように魔族もそうなのかというと決してそうではない。
始まりは人と人との争い事の発端と何ら変わりないものだった。
ある国が領土拡充の為他国を攻撃する際に、自分達と同じ姿をした相手より、そうでないものを選んだ、それだけに過ぎなかったのだ。
そんな事が何百年も続き、お互いがお互いの敵であることがもはや当たり前になっていた。
そんな過去からのしがらみのようなもので未だに戦い続ける事に彼は不毛さを感じていた。
そしてさらにトラバルトを悩ませるのは斬る魔族の姿形だ。
その形(なり)だが人とは違ういくつかの特徴がある。
まずその体躯は人族のそれより一回り大きく、腰には足と同じ程度の長さの尾があり、一部の個体は大きめの翼をもつ。
その爪は頑強かつ鋭利で、少し大きめの牙が僅かに口からのぞく。
そして肌の色は人のような色は殆どおらず、薄い青色だったり、赤茶色だったり、紫だったり、住んでた場所や環境で異なるようだ。。
だが異形というほどのことではなく、この世の中のどんな動物より人と似通ったものだ。
そんな相手をトラバルトは何百と斬ってきた。
トラバルトからしたら、敵とは言え人を斬っているのと大差ないものだった。
(すまない。)
トラバルトは心の中で自分が斬ってきた相手の顔を思い出していた。
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