魔族戦争 ゼル編
「こりゃ…マズイな…」
一面が炎で包まれる戦場にゼルは立っていた。
「ゼル、大丈夫か!」
ゼルの横に巨大なハンマーを持った少女が舞い降りる。
「ライゼン…ああ、まだ戦えるぜ」
ゼルがバスターソードを構え、敵を睨みつける。
「今追加のハーピィ隊を各国へ送った。援軍が来るまで耐えるぞ!」
「ああ…!」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
────二時間前。
ゼルは城壁に座って周りを見ていた。
「ったく、魔族の奴らは本当に来るのか?もう2週間も何もねえぞ…」
「こんなところで何をしてるんだ?」
ゼルの横に人影が現れる。
「ライゼンか…」
現れたのは、虹色に光るアームレットを身につけた少女だった。
茶色の混じった金の髪にライオンの耳と尻尾を持つ少女は、自分の2倍以上の大きさを誇るハンマーを背負っている。
彼女こそ魔人族が誇るSSランク冒険者のライゼンだった。
「なぁライゼン、魔族って本当に来るのか?」
「分からん、少なくとも近辺に気配は全く感じられん」
「さっさと帰りてぇなぁ…」
はぁ…っとゼルがため息をつく。
それを見たライゼンがニヤリと笑う。
「なんだ?思い人でも残してきたのか?」
「は、はぁ!?そんなんじゃねぇよ!」
ゼルは顔を赤くして立ち上がる。
「ほほぅ、お前に好きな人が出来るとはな。少し見てない間に随分丸くなったじゃないか」
「っ!だから、ちげぇって!」
「よいよい、弟子に先を越されるのは少し悔しいが……挙式は呼んでくれよ?」
「~~っ!!ラ、イ、ゼ、ンー!!!」
「かっかっか、とてもその顔は嫁さんには見せれぬなぁ」
ゼルとライゼンが話し合っていたその時────。
強烈な気配を感じ、2人はピタリと話すのを辞める。
「なんだ…?この気配は…」
「どういう事だ、今まで気配など一切感じなかったぞ…!?」
2人が外を警戒していたその時、空に亀裂が入り時空が歪む。
「まさか…あそこから来るってのか!?」
「私は戦闘準備を呼びかけて来る!ゼル、ここで待機していてくれ!」
ライゼンはゼルに言い残すと、一瞬でその場から走り去る。
数分後、ライゼンと共に2人のSランク冒険者がゼルの元へ現れる。
「皆の者はすぐに出撃可能だ。各国へ襲来の知らせを告げるハーピィ隊も出してきた」
「了解、さぁ来るなら来い!」
ゼルの呼びかけに応えたかのように空の亀裂が大きく広がると、そこから大量の魔族が出てきた。
その数は100、200とどんどん数を増やし、未だ止むことなく魔族が出てきている。
「総員、戦闘配置!魔族を一歩たりとも我らの国に入らせるな!!」
ライゼンの掛け声と共に、待機していた500人以上の兵士が城壁外へと進む。
「我らも行くぞ!」
「おう!」
ライゼンの掛け声と共に、ゼルと2人のSランク冒険者が飛び出す。
「っしゃあ!やってやるぜぇ!」
ゼルがバスターソードを抜刀し、敵の魔族を吹き飛ばす。
が、吹き飛ばされた魔族はすぐに体勢を立て直すと、ゼルに斬りかかってきた。
「な!?」
ゼルはその斬撃を咄嗟に大剣で受け止める。
しかし、他の魔族がその隙に魔法をゼルへと放つ。
「たあああ!」
その時、ライゼンが横に現れ、その魔法をハンマーでかき消した。
「こいつら…!」
「ああ…一人一人の強さがAランク、下手すればそれ以上だ」
ゼルが辺りを見渡すと、ほとんどの者が一撃すら与えることなく切り伏せられていた。
「まずいな…」
まさか魔族一人一人の力がここまであるとは思わなかった。
1体1じゃ負けることはないだろうが…
いかんせんこの数だ、このままだと物量で押される…
「うわあああ!」
「っ!あぶねえ!」
体勢を崩され、止めを刺されようとしていた兵士を慌てて助ける。
しかし、やはり魔族はゼルの一撃だけでは簡単に倒れてはくれなかった。
「チッ…!ライゼンー!!」
「ああ、分かってる…! 総員、退避ー!作戦を魔族の殲滅から城壁の防衛へと変更する!Aランク以上の者は前へ出て時間を稼ぎ、頃合を見て引け!!」
ライゼンの掛け声で、兵士達は退却を始める。
しかし、それを見た魔族達が退却する兵士に向かって魔法を放った。
「させっかよぉ!」
そうはさせまいとゼルが飛び出し、魔法をかき消す。
「私が奴らをかき乱す、その間にお前らは退却をサポートしろ!」
ライゼンはゼルら三人のSランク冒険者にそう告げると、敵地のど真ん中に飛んでいった。
「おいおい…この数を三人だけってウチらを過大評価しすぎだぜ全く…まぁやるけどよ!!」
三人は左右にそれぞれ展開し、襲いかかる魔族を食い止める。
「もうなりふり構ってらんねぇな…
ゼルは全身に赤いオーラを纏わせ、迫り来る魔族をなぎ払う。
他の2人も強化魔法を使い、魔族を1人、また1人と倒していく。
敵の中心でライゼンが暴れているおかげもあって、なんとか魔族の猛攻を食い止め、兵士たちを城内へ退避させることができた。
「おい、こんな雑魚相手に何苦戦してるんだ?」
その時、空の裂け目から声と共に真っ赤な炎に包まれた一人の魔族が顔を出す。
「なんだ、あいつ…」
あいつだけ身に纏ってる雰囲気が違いすぎる…
他の2人もそれを察したのか、1人のSランク冒険者がその魔族に向かって斬りかかる。
「そいつはまずい、やめろ!!」
「獣風情が、俺に近づけるとでも?」
ゼルが呼びかけた頃にはもう遅く、斬りかかったSランク冒険者は一瞬で炎に包まれて
「て…てめぇぇぇ!!」
「耳障りだ、黙れ」
炎の魔族が手をかざすと、一瞬で巨大な炎の玉が出来上がり、ゼル達に向かって放たれる。
「おらああああ!」
ライゼンが一瞬でゼル達の前に現れると、炎の玉を叩き割る。
割れた炎の玉は地面に着地したかと思えば、一瞬で地面をえぐると共に消滅した。
「ほう、少しはやるようだな」
「何者だ、お前は」
ライゼンの問いかけに、炎の魔族は口の端を釣り上げて笑う。
「俺こそが魔族四天王の1人、炎のエンだ!」
「四天王だと…!?」
エンの言葉に、ゼルが驚く。
こんな化物みたいな強さの奴があと三人もいるのかよ…
「ここからは俺がやる。巻き込まれたくなければ戻れ」
エンの言葉を聞いて、魔族達が一斉に空の裂け目へと戻っていく。
「どういうつもりだ…?なんでわざわざ兵を引く…」
「まずい、奴を止めるぞ!」
ライゼンがエンの企みに気付いた頃にはもう遅かった。
エンの身体から数百という炎の弾丸が弾き出され、辺り一帯は一瞬で焼け野原と化す。
「くそが…」
ゼルは大剣を盾にする事でなんとか攻撃を防いだものの、無傷では済まなかった。
それはライゼンも同様だった。
しかし、もう1人のSランク冒険者は十分に防ぐことができず、かなりの大怪我を負ってしまっていた。
「ゼル、私が奴をなんとかする。だからそいつを手当て出来る所まで連れてけ!」
「で、でも!」
「でもじゃない!それに、私はSSランクでありお前の師匠だぞ?あんな奴なんてことはない、分かったら早く行け!」
ライゼンの言葉に納得いかなかったゼルだが、歯を食いしばって言葉を飲み込む。
「さて…と」
ゼルを見送ったライゼンが一言呟き、エンを睨む。
「─────お前、覚悟しろよ」
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