マギルカ VS カヤ




「まぁ、おおまかな事情は分かりましたわ…」





─────翌日。





ここに至った経緯などをアスタルテはマギルカに説明した。

ノレスやレーネ達との出会いや、これまでの戦闘、カンの町での出来事など…




どれも信じがたいことばかりだが、マギルカは真剣に聞いてくれた。





「あれぇ、どちら様ですかぁその人ぉ」





語尾が伸びるような言葉が部屋に響く。




カヤだ。




「あ、カヤさん!こちら派遣で来たSSランクのマギルカさんです。マギルカさん、こちらが私とノレスと同じSランク枠のカヤさんです」




アスタルテが間に立ち、二人にそれぞれを紹介する。




「そうなんですのね…魔王ノレスの部下というお話は聞いておりますわ。よろしくお願いしますわ、カヤさん」

「ふぅん…」




カヤはマギルカと握手を交わすが、その表情はどうも不満げだった。




「どうかしたんですの?」

「いやぁ別になんでもないですけどぉ…」

「私達は命を預けて戦う仲間ですわ、気になる点がございましたら遠慮なく言ってくださいまし」

「うぅ~ん、それじゃぁいいますけどぉ…」




カヤは腕を組み、首を傾げる。




「ぶっちゃけぇ、マギルカさん?からノレス様やアスタルテ様のような強さを感じられないんですよねぇ…それでアスタルテ様より上のSSランクっていうのがどうもぉ…」




そのセリフにお茶の間が凍りついた。




あのノレスでさえ口に運ぶ予定だったカップが停止している。





「正直ぃ、貴方って本当にそんなに強いんですか───」

「それ以上口を開くなド阿呆が!」

「いったああぁぁあ!!」




カヤの頭にノレスの鉄拳が落ち、カヤがその場にしゃがんで悶絶する。





「すまぬ、マギルカ。こやつは脳の回路がおかしくてな、少し矯正してくる」

ノレスはそう言うと、カヤの髪をわし掴みにして引きずる。




「お待ちくださいまし!」




ハッと我に帰ったマギルカがノレスを呼び止める。




「いい機会ですわ、丁度カヤさんの実力を見たかったですもの。私とお手合せ願えないかしら?」



















▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




















「ねぇノレス…」

「なんじゃ?アスタルテ」

「カヤさんっていつもあんな感じなの?」




アスタルテは初めてカヤに会ったときのことを思い返していた。

状況が状況にも関わらず、いきなり決闘を申し込まれたのだ…




「あやつは良く言えば野性的、悪く言えば馬鹿じゃからな」




ノレスは小さくため息をつく。




「あやつも別に誰構わずああなる訳ではないんじゃがな…強き者に対してその力を見るまで納得ができんのじゃろう」

「戦闘狂、みたいな…?」

「良く言えば、な」





アスタルテとノレスは、対峙しているふたりの方を見る。

町外れの森で、マギルカとカヤは向かい合っていた。





「さて、どこからでもかかって来て下さいまし!」

「それじゃぁ、お構いなくぅ!」




先に動いたのはカヤだった。




「カオスウェーブ!」

大鎌を振るい、闇の刃をマギルカに飛ばす。




「ホーリーウォール!」

それに対し、マギルカは腰に下げてあった本を手に取り詠唱する。

すると、マギルカの周囲に光の壁が現れ、カヤのカオスウェーブを一瞬で打ち消した。




「光の魔法!?」

「じゃな。属性魔法の最上級じゃ」




最初は決闘に乗り気じゃなかったアスタルテだったが、見たこともない魔法に目を輝かせる。




「まぁ、これで終わるようじゃお話にならないですからねぇ!カオスシャドー!」




カヤは歪んだ笑顔を浮かべるとその場から姿を消す。




「姿を隠しても無駄ですわよ、ホーリーウォール!」




「え、また壁?」

「いや、あれは同じであってそうではないのう」

「?」

「見るが良い」




アスタルテがマギルカを見ると、360度に展開した壁が瞬く間に広がっていく。




「そこですわね、ホーリーソード!」

やがて壁が止まると、今度は光の剣を空中に出現させ、何もない所へと放った。

すると突然光の剣が弾かれ、そこからカヤが現れる。




「チィッ、やっかいですねぇ…」




それを見ていたアスタルテは再びノレスに質問する。

「なんでマギルカさんはカヤさんの位置がわかったの?」

「あの壁を広げたじゃろう?例え姿を隠したとてあの広範囲の壁にはどうしても触れてしまうからの。やつはどこで何が触れたか把握してカヤの位置を特定したんじゃろう」




(魚群探知機みたいな使い方をしたってことか…)




防御するための壁でそんな使い方をするなんて…

アスタルテは用途に囚われない魔法の使い方に感心する。





「なら…カオスブーストォ!」

カヤが詠唱すると、その両足が禍々しく輝く。




次の瞬間、地面が抉れたと思ったらカヤの姿は既にマギルカの目の前にあった。




「!?速い…!」

「移動速度上昇のバフ魔法じゃな」




カヤは一瞬でマギルカを間合いに入れると、大鎌を振りかぶる。

魔法使いにとって近接武器の間合いは危険だ。




「ちょっと痛いですわよ?ホーリーショック!」

しかし、マギルカは余裕の笑みを浮かべると素早く詠唱する。





────ッパァン!!




破裂音のようなものが鳴り響いたと思ったら、カヤの身体は既に吹き飛んでいた。




「あれは!?」

「光属性を含んだ衝撃波じゃな」

「すごい…魔法使いが近接を完封するなんて…」

「アスタルテよ、その考えは間違っとるぞ」

「え?」




アスタルテは疑問を顔に浮かべる。

魔法使いのイメージは後方、つまり近接武器の間合いに入ると不利の考えしかアスタルテには無かった。




「魔法を主とする多くの者は確かに近距離戦は不利じゃ。しかし、近距離の魔法を持ち、詠唱を極限まで短くする者にとっては近距離も遠距離も“間合い”なんじゃ」




近距離も遠距離も間合い…?




「お主も同じような使い方をしておるじゃろう?」

「私が?」

「うむ。お主、普段敵の間合いで炎を放っとるじゃろう」




アスタルテは言われて気付く。

確かに、先手を打つためすぐに飛び出してしまうアスタルテは、敵に近づいてから魔法を放っていた。




「お主は遠距離魔法を近距離で放っておるが、それは詠唱の短さがあるからじゃ。普通は敵の間合いに入ってちんたら詠唱なんてできんからの」




なるほど…それに加えてマギルカさんは近距離専用の魔法を持っているのか…

それなら確かに近くも遠くも得意な間合いになる。




(いやぁ…改めて思い返してみると、私って戦闘中何も考えてないな…)




アスタルテは力だけじゃなく、技術にも頼ろうと密かに決心するのだった。





「そろそろおしまいにしましょうか、ホーリーソード・全展開フルオープン!」




マギルカが詠唱すると、さっきは1本だった光の剣が10本、20本と空中に出現する。




「させませんよぉ!カオスブーストォ!」

そうはさせまいと、発動の前にカヤが一気に距離を詰める。





────しかし、





「ホーリーショック!」




マギルカの衝撃波に吹き飛ばされてしまった。




「え…?」

それを見たアスタルテが驚きの声を上げる。







普通、魔法の詠唱が中断されると、初めからやり直しになるはずだ。

しかし、ホーリーショックを間に挟んだにも関わらず、ホーリーソードはその場に残っている。




「まぁ、伊達にSSランクを名乗ってるだけはあるの」

「え、なんでそんなに冷静なの!?」




こうして、カヤの降参によりマギルカの勝利が確定したのだった────


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