戦争への準備




「え、派遣!?」

「はい。先日それぞれの種族が集まっての会議が行われ、話し合いの結果それぞれの主要国に一人のSSランク級冒険者、3名以上のSランク冒険者を配備することになりました」




首都からの使いと名乗る者が突然訪問してきたかと思えば、いきなりそう言うのだった。




それにしても、どうしてこんなに急に…

質問を言いかけたところで、アスタルテはハッとする。




「もしかして…」

「アスタルテ様のお察しの通りです、最近見られる魔族による侵略行為はどんどん過激さを増しています。いつ各種族の首都に侵攻してきてもおかしくありません。最悪、同時に攻め入られる可能性すらございます」





使者の言葉に、皆考えるような仕草をする。

それもそうだ、いきなり来て派遣だなんて…




「ちなみに、派遣先はどこなんだい?」

レーネが使者に質問をする。




「はい、レーネ様が我らが首都へ、ゼル様は魔人族首都、コトハ様がエルフ族首都、アスタルテ様はこちらのグレイス王国となります」

「なるほど…種族ごとに分けている感じなんだね」

「え、ちょっと待ってください!皆バラバラなんですか!?」




使者の答えに、思わずアスタルテは驚く。




「はい。種族混合よりも同じ種族同士の方が連携、戦闘がしやすいため、その方向で決定となりました」

「そんな…」




がっくりとするアスタルテの肩にレーネが手を置く。




「仕方ないさ、この緊迫した状況なんだ」

「そうさ!これが一生の別れになるわけじゃあねぇんだしよ」

「……私達の…家はここ…皆…帰ってくる…」

「レーネさん…ゼルさん…コトハさん…」




三人の言葉に、思わず涙腺が緩むアスタルテだったが、一つ疑問が浮かんだ。




「なぜ私はグレイスなんですか?種族的にはゼルさんと同じ魔人のはずなんですが…」

まあ正確には魔神なんだけど、魔人という設定にしてる以上、ゼルさんと同じ派遣先だと思うんだが…





アスタルテの質問に、使者が答える。

「先日のカンの町での功績により、グレイス国王様が是非と、アスタルテ様を指名致しております」




(あ、グレイスの国王様って名前そのままグレイスなんだ…)




流石に使者の前で国王様の名前初めて知りましたと言うわけにもいかず、アスタルテはそのまま納得する。




「え、ええっと…それでは、私と他2人のSランク冒険者さんが来るという事でしょうか?」

「いえ、この国の配備についてはアスタルテ様、そしてSランク冒険者と同等以上の力を持つ元魔王様のノレス様とその部下であるカヤ様になります」

「元は余計じゃろうて」

「え!?なんかこの国だけ他とちがくないですか!?」

「その提案をしたのが我じゃからな」




紅茶を口に運んでいたノレスが淡々と言う。




「え、ノレスも会議行ってたの…?」

「そうじゃ。そもそも我ら魔族と他種族は別にいがみ合ってたわけでもなんでもないからのう。むしろ関係は良好じゃった」

「はい。各種族の首脳方や国王様達もノレス様を信用していらっしゃいます」

「そうだったんだ…」




意外だったアスタルテは呆然とする。




大体のアニメの作品とかゲームだと魔族と人族は月と太陽、光と影のようなものだったから、そういうものかと思ってた…





すると、ノレスが少し乱暴に立ち上がる。

「それをクエンのヤツ…勝手に魔王を名乗っとる上に他種族を敵対するなど何を考えておるのかあのど阿呆が!」




ノレスの怒声に場が静まり返る。




「の、ノレス落ち着いて…チリアが怯えてるよ…?」




キッチンにいたチリアは腰が抜けてしまったのかその場にぺたんと座り込みガクガクと震えていた…

足元に広がる水溜りは…

きっと驚いて淹れていた紅茶を落としてしまったんだろう。

そうに違いない。

うん。





「我とした事がらしくないのう、すまぬ」

ノレスは謝り、椅子に再度座った。




「まぁ、そういうわけで、我が提案したんじゃ。我とカヤには守るべき同種族の国が無いからのう」

「そうなんだ…えっと、それじゃあ私達三人だけで国一つ守るの…?」

「いえ、勿論他のAランク以下の冒険者や国の警備隊はいます。あくまで主戦力ということです。そして先程申しました通り、SSランク冒険者が1名、大魔法使いのマギルカ様がいらっしゃいます」




それを聞いて、ごくりと生唾を飲み込む。




そうだ、そういえば派遣の事が衝撃的すぎて意識してなかったけど、SSランク冒険者が来るんだ…

SSランク…転生してくれた女神キヤナさんによると、世界に数人しかいない最高峰のランク…




どれほどの強さなのかと、緊張してきたアスタルテにノレスが小さく囁く。




「アスタルテ、緊張するのは構わぬが、想像を膨らませすぎんで良いぞ」

「…?」





この時はノレスの言っている事が分からなかったアスタルテだったが、後に出会う時その意味を知るのだった─────

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