冒険者ギルド中継所




─────チュンチュン…




「もう朝か…」

心地よい日差しを受けアスタルテは目を覚ます。




見慣れない天井に、昨日のことを思い出す。

(そういえばレニーの所に泊まらせてもらったんだっけ…)

ボーッとしつつも、昨日のことを思い出す。




(昨日なにしたっけ…ご飯食べてお風呂入って……ぁああ!!)





昨夜のひと時を思い出しアスタルテの脳は一気に覚醒した。

それと同時に倦怠感が身体を襲う。

………主に下半身の。




隣を見ると、レニーはすやすや寝ていた。

「あっ、耳がある…」

普段はフードで見えないし、お風呂ではまともに直視出来なかったので、こうしてまじまじと見るのは初めてだった。

(狼、だろうか…?)

そこには、狼のようなふさふさの耳があった。




(発情期だったんだろうか…)

昨夜のことを思い出し、思わずため息が出る。

前世でも未体験だったのに、まさかの転生して2日目で奪われてしまうとは…

なんだか一歩大人になった気がして少し誇らしかったが、できればもっといいムードというか好きな人とというか…

いや、レニーはものすごく可愛いんだけど、あるじゃん?

ムードとかさ。





お互いに苦難を乗り越え、それぞれの感情に気付いてドキマギしちゃったりしてさ、なにかの拍子に手が触れ合っちゃって赤面するような甘酸っぱい感じというかさ?

それでお互い恥ずかしくて無口になりつつも、初めて身体を重ねる的な?

俺の理想ってそうなわけよ。




それが出会った初日にベッドインってどういうことだよ。

もはや過程も何もないよ。

むしろ家庭が出来上がっちゃうよ!?





(はぁ…喉が渇いた…水でも飲もう…)

アスタルテは落ちていたパジャマに袖を通して台所へ向かう。

台所に着くと、まずティーポッドが目に入ってきた。




(これだけは何故か口に合わなかったんだよな…)

何気なく茶葉の袋を嗅いでみる。

すると、昨日の様な匂いはなく、普通にいい香りだった。

(あれ?お湯に通すと変わるのか…?)




アスタルテが疑問に思っていると、近くに小瓶が置いてあるのに気づいた。

調味料かな?

(なになに…?サキュバスの体液…愛しいあの人もこれでイチコロ…?)

完全に媚薬だった。

試しに蓋を開けて匂いを嗅いでみる。




「うわっ、甘ったるい!」

完全に昨日紅茶で飲んだあの風味だった。




実はこの媚薬は、アスタルテは魔法防御が高かったので効かなかったのだが、本来なら一滴飲み物に垂らすだけで立てなくなるほどの威力だった。




「なぜこんなものを…」

考えれば考えるほど謎が深まっていくばかりだったのでとりあえず保留しておこう…




昨日のティーカップに水を注ぎ、飲み干す。

「ふぅ…」

落ち着いたところで今後の予定を考える。

(とりあえずギルドへ行って仮登録をし、そこから本拠地であるグレイスの街へ行き本登録をする。

そうしたら依頼をこなしつつ、お金が溜まったら一軒家でも借りてゆったり過ごすのとか良いかもしれない。)





「おはようございます~」

レニーが起きてきた。

「お、おはよう…」

昨夜のことを思い出し、少し気まずいと思いつつ返事をする。




「あ、アスタルテさんっ!」

いきなりレニーが声をあげびっくりして見ると、頭を下げていた。

「ききき、昨日は本当にすみませんでしたっ!!私っ、自分でもなんであんな事をしたのか…」




「べ、別に大丈夫だから!全然、気にしてないよ…!」

正直気にしまくりだったが。






その後も謝りまくるレニーをなんとか落ち着かせ、朝ごはんをご馳走になりギルドに向かうことにした。





……ちなみに食後に紅茶が出てきたが、味は普通だった。








▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲











「ここがギルドか…!」




朝食の後、レニーの道具屋を出たアスタルテはレニーに渡された地図を片手にギルドの中継所に来ていた。

中継所といえどもかなり大きく立派だった。




(さて、冒険の第一歩の始まりだ…!)

一度深呼吸をして高鳴る鼓動を抑えつつ、アスタルテは扉を開ける…!





「おおぉっ!!」

扉を開けると、大小様々なテーブルが左右に展開しており、大剣を背負った人から酒を煽る人、他には掲示板のようなものを眺めている人に本を読んでいる人などとそこは人で溢れ返っていた。




まるでここだけ違う世界のようだった。

例えるならばオンラインゲームの一番ログイン人数が多い時間帯のメインロビーといった所だろう。





アスタルテは周囲の様子に目を輝かせながら受付と書かれた所に向かう。

すると、人の気配に気付いたのか、受付の女性が顔を上げる。

「いらっしゃいませ…あら?」

その女性はアスタルテを見ると、不思議そうな顔を浮かべる。




(初めて見る顔だからかな?)

そう思いつつ女性に尋ねる。

「あの、冒険者の仮登録が出来るって聞いて来たんですけど…」

すると、それを聞いた女性は困ったような顔になった。




「あらあら…ここは貴方のような子供が来るような所ではありませんよ?」

困った顔をした女性が答える。




(子供!?いや、確かに見た目は幼女だけど…!)

「あの!こう見えて俺、魔人で…200歳なんです!」

「あらら、困ったわね迷子かしら…おうちの場所、分かる?お母さんは?」




受付の女性は全く信じてくれていないようで、まともに取り扱ってくれなかった。




「いや、だから本当に200歳なんです!ほら、この羽を見てください!魔人なんです!」

「はいはい、可愛いアクセサリーね、どうしましょう…衛兵さんを呼んだ方がいいのかしら…」

アスタルテは懸命にアピールするも、全く相手にされない。




(まさかこんな事になるなんて…どうすれば信じてもらえるんだろう…)

アスタルテは困った。

こんなところで魔法スキルを見せるわけにもいかないし、何を言ってもまともに聞いてくれないだろう。





「その話、あながち嘘では無いかもしれないぞ?」

凛とした声が後ろからして振り返ると、そこにはスラリとした長身に腰まで伸びるストレートな青紫色の髪、そしてレイピアのような細い剣を腰に付けた女性が立っていた。




「こ、これはレーネさんいらっしゃいませ!その、あながち嘘ではないというのは…?」

レーネという女性の話を聞き、受付の女性は聞き返す。

「その子の事だ。僅かだが力のオーラを感じてな、レベル確認に通してやったらどうだ?衛兵を呼ぶよりは早いだろう?」

レーネがこっちをチラリと見てそう言う。

「レーネさんがそう仰るなら…ではこちらの魔石の上に手を乗せてください」




受付の女性がそう言って板のような石を取り出した。

そこへアスタルテが手を乗せると、僅かに光が灯る。




「では、この魔石に向かって魔力を送ってください」




アスタルテは魔力の送り方など教わっていなかったしやったこともなかったのだが、まるで思い出すかのようにやり方が頭に浮かび上がり、身体が反応した。




すると、魔石の上に文字が浮かび上がる。








○●○●○●○●○●○●○●○●





✩名前 - アスタルテ -




✩年齢 - 200歳 -




✩Lv - 13 -





○●○●○●○●○●○●○●○●






それを見た受付の女性は驚き、レーネはニヤリと笑う。




「ここ、これは申し訳ございませんでした!」

受付の女性が急いで頭を下げる。




「い、いえ、分かって頂ければそれで大丈夫なので…」

レベルが1上がっていたのはブルーウルフと戦ったからだろう。

そう思いつつもアスタルテは安堵していた。

(種族とかステータスが表示されなくて良かった…それを見られたら騒がれそうだし…)




「それでは早速仮登録の方をさせていただきますので、登録料50zゼニスをお願いします」




それを聞いてアスタルテは焦った。

(やばい、お金取るのか!?どうしよう…お金無いから登録しに来たのにこれじゃあ登録できないぞ…)




アスタルテがあたふたしていると、それを見ていたレーネが袋を取出し、500円玉ほどの大きさの銅のコインを受付の女性に渡した。



「お金、ないんだろう?これはツケで構わないさ」



(え、何この人超かっこいいんだけど…)

アスタルテは一瞬見惚れつつも、お礼を言う。





「お待たせしました、ではアスタルテさんはCランクとなりますのでこちらをお付けください」

受付の女性はそう言うと、銅のアームレットをアスタルテに渡す。




(Cランクは銅なのか)

そう思いながらチラリとレーネの方を見ると、レーネのはダイヤだった。

いくつもの光が反射し輝く様は非常に美しい。





(この人は何ランクなんだろう?)

疑問に感じていると、ふと後ろから声がかかった。





「おーい、レーネ。いつまで何やってんだよ?」

「レーネ…遅い…私、腹ペコ…」





アスタルテが後ろを振り返ると、そこにはダイヤのアームレットを付け、身長ほどの長さの大剣を背負った角の生えた女性と、同じくダイヤのアームレットを付けた魔法使いのような格好をした小柄な少女が立っていた─────




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