知り得なかった身体と神器

「アスタルテさんっ、まもなく着きますよっ!」

レニーの話を聞き、顔を出すとそこは多くの人々で賑わっていた。




「おぉっ!」

この世界に来て初めて見る町に、アスタルテの目は輝いていた。




それを見たレニーが疑問に思ったらしく問いかける。

「あれっ?アスタルテさんカンの町は初めてなんですかっ?」

(しまった…!あの言い方だとカンの町に出入りしたことあるような言い方だった…!!)

アスタルテはさっきレニーになぜ森にいたのかと聞かれた時に咄嗟に出た台詞を思い出す。




「え、えーっと…実はずっと旅に出ててね、鍛錬っていうのは、たまたま通りかかったあの森に魔物が沢山いたからなんだ!それでカンの町がどこか分からなかったから最初に地理を教えてほしいって言った感じというか…!」




やばい…どう見ても苦しすぎる!!

レニーは少し考えるような素振りを見せると、納得したように手を叩いた。




「なるほどっ、確かにあの森は大きいですしダンジョンもありますしねっ!」

(なんとか誤魔化せた…か…?っていうかダンジョンなんてあるのか…つくづくゲームみたいだな…)




アスタルテは改めてキヤナの話をしっかり聞いておけばよかったと後悔したが、今更どうにもならない。

「ところで、この町には冒険者ギルドとかってあったりするのかな…?」

なにはともあれ仕事をしてお金を稼がないと宿屋にだって泊まれないのだ。

すると、レニーは少し困った様な顔をした。




「うーん…一応あるにはあるんですがっ、この町にあるのはギルドの中継所だけなんですよね…」




聞く所によると、ギルドの本拠地はここから少し離れた“グレイス王国”という所にあるらしく、ここのギルドでは主にクエストの素材鑑定や依頼内容の確認・報告などを行えるらしい。

どうやら依頼内容によっては遠方だったりするので、せっかく入手した素材が戻ってくるまでに劣化してしまわないよう、各所に中継地点が存在するんだとか…




「一応仮登録はできるみたいなんですけどっ、本登録はやはり本拠地へ行かないといけませんね…」

「そうなのかー…」




(ううむ…そうなると仮登録だけしてグレイス王国に向かう感じにするかな…)




今後について考えていたアスタルテだったが、馬車が止まるのを感じ我に返る。




「着きましたっ!ここが私のお店ですっ!」

見ると、そこは結構立派なお店だった。

二階建ての一軒家といったような感じで、一階にお店があり、二階にレニーが住んでいるらしい。




「すみませんっ、ちょっと荷物だけ運び入れちゃうので少し待っていてくださいっ!」

そう言うとレニーはせっせと荷物を運んでいた。




手伝おうとしたが、荷台の荷物はいつの間にか全て運び込まれ、レニーは荷物の中身を確認していた。

(さっきの着替える時の手つきといい、やけに早いな…)

そう思って何気なく状態確認ステータスチェックを使ってみる。





○●○●○●○●○●○●○●○●





✩名前 - レニー -



✩冒険者ランク - 登録無し -



✩Lv - 2 -



✩種族 - 獣人族 -  




✩ステータス


HP(体力) - 10/10 -


MP(魔力) - 8/8 -


STR(物理攻撃力) - 3 -


INT(魔法攻撃力) - 2 -


DEF(物理防御力) - 2 -


RES(魔法防御力) - 2 -


AGI(素早さ) - 8 -




✩スキル一覧

・所持スキル無し




○●○●○●○●○●○●○●○●





(一般市民だとこれくらいのステータスなのか…)

これじゃあちょっと切られたくらいで死んじゃいそうだ…

そう思ったアスタルテだったが、ふと種族の項目に目が止まる。





(獣人族だったのか…よく見ると素早さが突出して高いな…)

チラッとレニーの方を見てみるが、フードとマントを羽織っているせいで耳も尻尾も見えない。




「どうかしましたっ?」

すると、見られていることに気がついたのかレニーが振り返る。




「あ、いや、運び込むのとかすごく早いな~って思って」

「こう見えて私獣人なんでっ!素早さにはちょっと自信あるんですよっ」




そう言うと、レニーは力こぶを見せる。

何故素早さの話で力こぶを見せるのかは謎だったが、そこはスルーした。




「アスタルテさんはっ、魔族…いえ、魔人ですかっ?」

レニーがアスタルテを見て問いかける。




「うん、“魔人”だよ…って、え…?」

正確には魔神だが、神なんていうと騒がれかねないし、魔人ということにしておこう。

そう思って答えたアスタルテだったが、疑問が頭に浮かんだ。





─────なぜレニーは、





状態確認ステータスチェックのスキルを持っていなかったはずだし、アイテムを使ったようにも見えなかった。

牙は確かに生えているがそんなに長いわけでもなく、八重歯とそう変わりない。





もしかして獣人の嗅覚や勘などが感じ取っているのだろうか─────





「なんで魔人だって分かったの…?」

そう思ったアスタルテはレニーに聞いてみる。

すると、レニーは疑問を浮かべたような顔になり告げた。





「えっ、だってアスタルテさんのそれって、アクセサリーじゃないですよねっ?」

そう言ってなにやらアスタルテの腰あたりを指さした。

「え…?」

下を向いて腰を見るがそこにあるのは少し冷え始めたおへそだけだった。




「いえそうではなくてっ、後ろですよ後ろっ」

「…後ろ?」

そう言って背中の方を見ると、アスタルテはギョッとした。




丁度脇腹のくびれている所の後ろあたりだろうか、そこからコウモリの羽みたいなのが生えていたのだ。




しかし、よくアニメとかで悪魔の背中に生えているようなご立派なものではなく、30~40センチ位のミニサイズだった。




(なななななんだこれっ!?いつの間にこんなの生えてたんだ!?もしかして最初からあったのか…!?)

考えてみれば、アスタルテはまだ湖越しに自分の顔しか見たことが無く、まだ全身をしっかりと見ていなかったのである。




しかし、これなんですか?とも言える訳もなく…




「あー、これね!うん、確かに考えてみれば一目瞭然だよね!忘れてたよ!」

ドギマギしつつ答える。もう冷や汗がダラダラである。




すると、レニーがジトっとした目で見てくる。

心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うほどドキドキしている…

「アスタルテさんって…」

「は、はゃい!」

思わず声が上擦ってしまった。




すると、レニーは小さく笑った。

「フフッ、なんだか少し変わってらっしゃいますよねっ」

そういうと、店の奥の方へ歩いて行った。





(危なかったー…)




アスタルテは安堵し、その場にへたりと座り込む。

(別に何かやましいことをしたわけではないのになんでこうなるんだ…)

と愚痴りつつ、羽を手前に引き寄せ触ってみる。




コウモリの羽みたいだったのでツルツルかと思ったが、どうやらそうではないらしく結構いい触り心地だった。

案外悪くないかもと思いながらさすさすしていると、レニーが奥からなにやら大きな箱を抱えて帰ってきた。

その箱をドスンと置くと、中身を空ける。




中身が気になって覗いてみると、そこには手の甲の部分に青い宝石のような物がはめられた銀色のガントレットと、同じく青い宝石がはまっている金色のブーツが入っていた。




「なにこれ…めちゃくちゃかっこいい…」

それは紛れもないアスタルテの本心だった。

ギラギラとした様ないやらしい派手さは無く、形状の一つ一つにまるで無駄のない洗練されたデザイン、そしてそのデザインに負けず輝く青い宝石に、近くにいるだけで感じる強いオーラ。




思わずアスタルテは見入ってしまっていた。




「気に入ってもらえたようで良かったですっ」

レニーは満面を見せる。




「え…?」

レニーの言葉が理解できないアスタルテはフリーズする。





「アスタルテさんっ、命を救って頂いた事本当に感謝していますっ。だからっ、せめてものお礼にこれを受け取って下さいっ!」




(…え?受け取るって、なにを?これを?え、これを…!?)




「いやいやいやいや、こんな凄そうなの受け取れないよ!?」

「そこなんとかお願いしますっ!」

そう言うとレニーは頭を下げる。





(いや、そこをなんとかって言われたって…)

少し困りつつも、もう一度箱を見る。

うん、確かに欲しいか欲しくないかで言うと欲しいけど…




「でも、流石に悪いよ。そんな大したことなんてしてないし、人が襲われていたら助けるのは当たり前だよ」

そう、本当に大したことはしてないのである。

例えるならば、ご飯中に醤油取ってと言われて渡したくらい簡単な事なのだ。





「いいえっ、決してそんなことはないですっ!」

そう言うと、レニーはアスタルテの手をガシっと掴む。




「考えてみてくださいっ、もしあそこで私が死んでいたらこのお店もこの装備も全部取られ、どこの誰ともわからない人に売られていたことでしょう…ですからっ、アスタルテさんは私の命だけでなくっ、財産までも守ってくれたんですっ!」




見ると、レニーの顔にはぽろぽろと涙が流れていた。




そうまでさせられると、流石に断る事もできない…

「わ、分かった!ありがたく受け取らせてもらうよ…」




「はいっ!」

レニーはにっこりと笑うと、アスタルテの手を引き箱まで駆け寄る。




「では早速装備してみて下さいっ!」

「う、うん…」




深呼吸をして覚悟を決め、ガントレットを手にはめてみる。





次の瞬間─────





ガントレットは光輝き、瞬く間にアスタルテの腕の大きさに形を変えた。

異世界の技術ってすごいなと感心していると、レニーが驚くような声を上げた。




「アスタルテさんっ、凄いです!絶対アスタルテさんなら装備できるって思ってましたっ!」

(え、何のことだ…?装備って別に誰でもできるよね…?)

アスタルテが疑問に思っていると、レニーが説明を始めた。





どうやら、装備にも冒険者のように階級があり、その最上級に位置する装備、通称“神器”と呼ばれる物たちは装備自身が使用者の事を認めないと装備できないらしい。

そしてその装備は、それ以降その主にしか装備ができなくなるのだという。

さらに、神器にはそれぞれ特殊な魔石(青い宝石だと思っていたけど魔石だったらしい)がはめられており、そこに魔力を流し込むことで更なる力が発揮されるらしい。




また、一部の者にしか使えない鑑定スキルというものがあるらしいのだが、主を持つ装備にそのスキルを使った場合はその主の名前も表示されるらしい…





そんなとんでもない装備を貰っていいものなのかと再び思ったアスタルテだったが、もう認められてしまった以上どうしようもなかった…




ちなみにその後ブーツを履いたが、同じように認められた。




驚く程身体に馴染む装備たちの感触を確かめているアスタルテに、レニーが声をかける。





「そういえばっ、アスタルテさんは今日の宿は決めているんですかっ?」

(そうだった忘れてた!!お金持ってないんだった!)




「えーっと、まだ特には決めてない…」

(決めるも何もお金がない以上、選択するという土俵にすら立てないけどね…)




それを聞いたレニーは喜んだような顔をして聞いてきた。

「それならっ、うちに泊まりませんかっ!?」




「─────へ?」






─────この時アスタルテは知らなかった。






レニーが計画していた思惑、そして心に秘めていた感情を─────





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