死亡確定ゲストヒロインに転生しました~未来を変えたくて頑張っていたら主人公にガチ恋してしまった~

尾惹 甜馬

第0話 目覚め

「現在の状況は?」

「はっ。身体構築率、身体維持率、脈拍、体温、その他各項目オールグリーン。生命活動に支障はありません」

「組み込んだ【魔界獣】の能力や本能への命令系統の定着も確認済みです。基礎知識の学習も終了しています」

「スパコンによる演算では、外界に出した場合の生命維持確率は98.7%、想定内です。いつでもカプセルから出せます」

「……そう。なら良いわ」


 ……声が、聞こえる。

 女の人のが一つと、他に男のが複数。

 ……なんでだろう。全部聞いたことがないはずなのに、女の人の声を聴くと、安心する。まるで、お母さんみたいな……。


「……予定時刻よ。カプセル開放の準備を」

「了解しました。培養液の排出を開始します」


 ……また、声が聞こえる。

 さっきと同じ、女の人と男の声。

 でも、何も起きなかったさっきと違って、俺の全身を包んでいた温かさが減っていき、それと共に身体が下へ落ちていく。

 温かさが全てなくなると同時に、身体も下へ落ちきり、無機質な床の存在を感じた。


「培養液の排出を完了しました」

「昏迷剤の注入を停止し、注射管を外します」


 プシュー、という音がし、背中から何かしらの管が外れる。

 すると、先程まで濁っていた思考が不自然なくらいに明瞭としてきた。

 状況を確認するために瞼を開くと――そこに映ったのは、人の身の丈以上あるカプセルが幾つも屹立した、研究所のように思える場所だった。

 そして、俺の目の前、ガラス越しに、白衣を着た男女も見えた。

 ……これは……どういうことだ?

 上手く思考が出来なかった先程までは何も気にならなかっただろうが、思考の靄が晴れた今では、疑問しか湧いてこない。

 この場所やこいつらも気になるが、何よりも気になるのは、先程聞こえてきた会話だ。

 あの言い方では……まるでこいつらが俺を造ったような……。

 そして、気付く。俺の目の前のガラス――これ、他にもあるカプセルじゃないか?

 それは、俺の予想を裏付けるようで。

 

「培養液からの環境変化にも悪影響見られません」

「その他チェック項目オールグリーン。開放準備、完了しました」

「分かったわ。……では、開放」


 混乱する俺をよそに、白衣の男女――科学者?――はどんどん展開を進めていく。

 目の前のガラス……カプセルが開き、外気が流れ込んでくる。

 そのせいで身体が震え、思わず身体を抱き……そこで、自分が何も着ていないことに気付いた。

 今まで全裸でいたと思うとすごい恥ずかしいが……同時に疑問も抱く。

 俺の身体……こんなに柔らかかったっけ?それに、肌がすごい白いような……?


「生命活動に異常なし……よし!成功しましたよ、主任!」

「『RIN-H』計画、初の成功体が生まれました!」

「……ええ、そうね」


 男の科学者たちが、満面の笑みで喜びを表している。

 だが、女性一人だけは喜んでおらず、憂い顔だった。

 ……しかし、『RIN-H』計画?どこかで聞いたことあるような……?


「それじゃあ、出てきなさい」


 女性が俺に向かって言葉をかけてくる。

 だが、当然ながらそんな言葉には従えない。

 こいつらがどんな奴らかも分からないのに……って、あれ?

 そう思っていた思考に反し、身体が勝手に動いてカプセルから出ようとする。

 ど、どうしたんだ、俺の身体!?

 主導権を戻そうと足掻くが、身体は言うことを聞かない。

 そして足掻いている内に身体はカプセルから出る。その際、カプセルのガラスに俺の姿が映ったのが見え……その瞬間、思考が停止した。

 何故なら……そこで見えた俺の姿が、少女のモノだったから。

 いや、もっと正確に言おう。

 俺がそこまで驚いたのはその少女を知っていたからだ。

 その姿はどう考えても……俺が愛読していたライトノベル「測定不能の魔滅騎士アンカウント・シュヴァリエ」に登場するゲストヒロインだった。

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