温もりをポケットに詰めて

青赤河童

プロローグ

プロローグ

 まだ日も昇っていない時間。

 

 薄暗い無人駅のホームに一人のおじいさんがやってきました。


 後ろに手を組み、えっちらおっちら歩いてきます。


 つるつるの頭部に白い立派な顎髭。


 まるで昔話に出てくる仙人のような出で立ちです。


 遠くのほうから光輝く黄色い点が二つ近づいてきました。


 おじいさんは電車が来ると決まって先頭車両に乗り込みます。


 景色がよく見えるから? そうではありません。


 では、運転手の姿が見たいから? いえいえ、それも違います。


 おじいさんは先頭から順繰りと車内を見て回りたいからです。


 なぜかって?


 おじいさんは乗客の皆さんにささやかな温もりを与えたいのです。


 そして自らも温もりを感じたいのです。


 そのために気になる乗客がいれば話しかけます。


 話しかけられた乗客はそれを拒んだりはしません。


 おじいさんの柔和な笑顔の虜になってしまうのです。


 電車に乗る理由は十人十色、千差万別です。


 通勤するのか、はたまた旅へ出るのか。


 都会へ行くのか、はたまた田舎へ行くのか。


 そんな皆さんにおじいさんは、別れ際四葉のクローバーを渡します。


 行く先で幸運が訪れるようにと――。


 さあ、今日も乗客を見つけました。


 おじいさんは揺れる車内をえっちらおっちら歩いて行きます。


 


 

 

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