目眩

目眩。

視神経の末端をぐいと引っ張られるように。

閉じた瞼が眼球を締め付ける。


目眩。

垂らしたミルクを万遍なく馴染ませるように。

脳がぐるぐると掻き乱されていく。


目眩。

背後から誰かにじっと睨まれているように。

肩に溜まったドロドロの血液が首筋を強く圧迫する。


目眩。

アスファルトに反射する真夏の陽光のように。

喉の奥にせり上がる胃液がジリジリと皮膚を焼いている。


目眩。

埃に塗れたアルバムを捲るように。

擦り切れた記憶が何度も頭に浮かんで消える。


目眩。

路傍に咲いた花のように。

たった一点の鮮やかな色を必死に追い求める。


目眩。

砂上に揺らぐ蜃気楼のように。

希望に満ちた幻影に手を伸ばす。


目眩。

どこかで泣いた赤子のように。

ひどく耳障りな遠雷の音。


そんな目眩に溺れ、


そんな目眩に酔いしれ、


そんな目眩と踊る。


眠れぬ夜を嘲笑うように。


迎えた朝の日差しのように。


目眩。目眩。目眩。

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