第7話 勇者の加護と人族の現実

 2か月前、魔族と人族との国境線、勇者の力を一目見ようと多くの人族が集まっていた。勇者は、「国境線に守りの加護をはり、『敵を多く殺す』」と宣言したのだ。勇者の言葉は神の言葉に等しい。国境線では、勇者が守りの加護を張るところを今は今かと人族達が固唾を飲んで見守っていた。


 人族は、勇者が魔族から私たちを守ってくれると信じている。過去の勇者も人族の味方だった。そして、やさしく、尊敬を集めていたのだ。


 人族にも、魔族の魔王のように王様がいる。しかし、魔族と違い、多数の国とその数だけの王がいた。

 人族の王たちは、勇者に干渉しない。なぜなら、神の前では全てのものが霞んで等価値になるように、人族の王も神の代行者である勇者の前ではただの人族の一人になってしまうからだ。


 勇者の前では、全ての権威が霞み、民衆は全て勇者についてしまう。勇者の言動一つで民衆が敵にもなれば味方にもなるのだ。


 そのため、全ての王は勇者には一切干渉しない決まりを常態化させ、国民に頼られれば勇者を補佐し、勇者の行いの邪魔にならないようにと勇者用の法律も作る国もあった。

 今回の勇者の加護についても王たちは、自国で待機し勇者には近づかなかった。


 それは、一瞬のことであった。国境線から約100kmに渡り全てが真っ白に包まれ、勇者のみが浮き上がるように白地をポツンと漆黒に染めていた。


 人々は、そのすさまじい光景に換気し、仲間と喜び合おうと周りを見渡す…しかし…

 真っ白すぎたのか、抱き合うものはただの一人もいなかった。そう、ただの一人も…



 これは、その歓喜の中にいた一人の男の話である。


 男は、歓喜していた。


 しかし、すぐに現実が突きつけられる。真っ白の空間にただただ自分が一人であると気づかされる。

 まずは、男は一緒に見に来た家族を探した。手を握っていた娘は、なんとかそこにいた。男は娘と一緒に、家族の名前を仲間の名前を叫んだ。


 しかし、全く返答はない。


 男は、だんだん怖くなってきた。家族がいるかもしれないから、ここから離れることもできない。良く良く周りを観察しても真っ白な世界が広がるだけである。

 男は、娘を抱き締めようと泣きそうな娘と目を合わせ、一瞬だけ手を離した。


 その瞬間、娘の姿がまっっ白に見えなくなった。男は、娘の名前を叫びながら焦って探し回った。


 『サリー!!!!!サリー!!!!!…』


 しかし、そこにいたはずの娘に男の手が触れることはなかった。

 男は、たった一人になった。

 何時間たっても真っ白の世界に終わりは見えない。男は、色々試した。


 しかし、結果は『なんにもわからない』だった。


 そして、1日がすぎ、2日目に入る頃には、涙は枯れ果て、喉が乾き、腹が減った。

 さらに日にちがたち、5日目男は、何かを口に入れた。6日目、男は自分に言い聞かせるように呟いた。


『なんか、今日は体が軽いぞ。みんな元気かな』


 7日目…


『お、今日は初めて夜になったな。みんなと早く会いたいな』


 8日目…


『お腹が減らなくなったぞ…ごめん…』


 9日目…


『ごめんよ…サリー』


 10日目、男はついに何も感じなくなり…


『さ……』


 …男は、なにもできなくなった。



 勇者は、たった一人の少女を選んだ。神に与えられた命令の中で唯一勇者に与えられた選択肢だった。それは、勇者が偶然見つけたのか、初めから決めていたのか分からない


 だが…勇者が作った白い世界で勇者の語り部として、『勇者に』『少女は』選ばれた。

 語り部は、勇者以外に干渉されない。勇者以外に干渉できない。そして、少女は勇者が唯一、絶対に殺すことができないただ一人となった。


 少女の名はテト、真っ白な世界を歩く トテトテ歩く

 勇者しか見えないこの真っ白な世界を

 

 勇者の名はリック、勇者はいつも一人だ。勇者に仲間はいらない。勇者に必要なものは守りたいひとだけ…



 現在、ボギンスは情報を集め続けていた。正確かつ適時適切な情報が、戦いにおいて…いや、万事において最も重要だからだ!

 


 勇者が魔王国に攻め入り、つまり勇者の加護が張られて100日目の現在…

 国境線の真っ白な勇者の加護が、突然に消えた…


 そして、真っ白な世界が晴れた中で、人族と魔族たちは、現実を突きつけられる…


 「餓死者…50万4027名…生存者1名…勇者が殺した…」

 勇者は唄う

 今日も唄う

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