第4話 午前の仕事
ダンジョン管理者の仕事は一つの国に似ている。人族がモンスターと呼ぶ私達も人族と何も分からない。力が強いやつ、頭がいいやつ、一芸に秀でたやつ、普通に生きたいやつ、別段何にも取り柄がなさそうなやつ、いっぱいいる。こういうやつらをまとめて、一定のルールの元に生活環境の維持向上のため、税を集め、経済活動を促す。そのために必要な…生きるために必要な皆んなでまとめてやったほうが効率的で経済的なことを 行っていくことがダンジョン管理者の仕事だ。
ボギンスは、今日も今日とて報告を受け、見積りを確認し、指示を出し、計画を指導して決心を出す。
しかしながらダンジョンは広大である。端から端まで歩くと、一番長いところで休憩なしで4、5日はかかる。休みながらだと、20日以上の長旅が必要だ。
ダンジョンは、一人で管理することはできない。魔王城を中心に広がる「魔族の国」であれば、なおのこと一人で管理することなどできない。なぜなら、「魔族の国」にはダンジョンがゆうに100を超える数あるからだ。そのため、組織を作り一つ一つ小さな単位で管理や運用を行っていき、その組織を少しづつ大きくして、ダンジョンを管理し、国を管理運用しているのである。その、各ダンジョンを管理する制度を「BOSS制度」という。そして、このダンジョン管理の責任者として「BOSS」という役職を設けられているのである。
その一人が、「BOSS」こと「ボギンス」である。
ボギンスは朝から焦っていた。勇者の行動を朝一の8時に報告を受けたからだ。出勤した早々ヘビーな報告だった。
「もし、勇者がこのダンジョンに来るとして、
報告者が答える。
「およそ160日後です」
「そうか、じゃあ。避難の準備と、軍備の準備を念のため進めてくれ。通常の戦いじゃあない。相手は、勇者だ。用意した最悪の想定で進めてくれ、できれば早めに各長へ今後の予定をタイムラインとして示めしたいのだが…」
報告者の名前は「アスラム」という軍事の参謀である。
「わかりました。それでは、明日の定例会議に業務予定を日時及び時間で示せるように準備します」
「間に合うのか?まあ、会議前には一度、案でいいから見せてくれ」
「はい。すでに、準備を始めていますので、夕方4時までには案を持参できます。では、失礼します」
部下がしっかりと礼をしてからBOSS部屋を出て、ドアを素早くかつ最後はゆっくりと音を立てないように閉める。そして、いつも通り、閉めた瞬間に「アスラム」の走り出す音が聞こえてくる。
「(無駄のない、報告と準備の早さ、優秀だ)」
部下の仕事は早い。2時間後には予定表の案とアスラムが長である軍事部門の今後の業務予定表を投げ込んできたのだ。その1時間後、アスラムは担当者と二人で報告をしに来た。ボギンスは、二つの予定表の流れを口頭で確認し、各部門への連絡状況や必要な処置事項を確認する。
「(やはり、優秀だ。確認への回答に淀みがなく的確であり、抜けがない)」
ボギンスは、アスラムを指導した後、第2BOSS(BOSSがいない際の代行者及びBOSSの補佐役)を呼び出し、魔王への報告内容と要求、それから関係機関や他のダンジョンへの要望等をまとめるように指示を出した。その後、第2BOSSの準備を確認し、第2BOSSと全般補佐長(BOSSの補佐や勤務態度を指導監督し、魔王城へ報告するものの長)という魔王城から直接に派遣されている「テイル」を呼び出し、魔王への要求及び報告内容を説明した。
これで、ボギンスの午前中の仕事はほぼ終わりだ。後は、資料の確認と計画等の指導や各要人達との懇談、町民の要望の確認、必要な決済業務等があるだけだ。どれもこれも自分がいなくても代わりがいくらでもできる業務だが、BOSSがやらなければならない。なぜなら、ダンジョンBOSSの最も重要な仕事は、
「ダンジョンにおける全ての責任を負う」
ことだからである。
何かを行えば、結果が伴う。業務を区分し、できるところは委任し、権限を与え業務を効率化しても最後の最後にはダンジョンBOSSが全ての責任を負う。行動の結果は、誰かが責任を取らなければいけないのだ、善くも悪くも…
ボギンスの1日は、長く重い。
テトは、トテトテ歩く、男の後ろを…
勇者が歩いたあとは道となり、何も残らない。その勇者が作る道をテトはトテトテ歩く。
男が振り返ることを願いながら…
テトは、勇者以外には見えない。そして触れられない。
テトには、勇者以外が見えない。そして触れられない。
勇者は、神から多くの「必要な能力」を身につけさせられている。
勇者が望めば、全てが手に入る。しかし、勇者は神からの使命の中でしか行動ができない。
勇者が歩いた後は、道となり何も残らない。
勇者は、三つ目のダンジョンへ進む。
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