恋愛禁止のトップアイドルな幼馴染と、偽恋人になった件
香珠樹
第一章 偽恋人編
第1話 始まりの告白
「――だから私と……その……付き合ってくださいっ!」
高校一年生から二年生になる間に、俺はイメチェンをさせられた。
今までは冴えないザ・陰キャな俺だったのだが、ある女に半強制的に散髪され、ワックスで髪の毛を固められて陰キャからイケメンな陽キャへと進化した、らしい。
その女曰く、「顔立ちはいいのに纏う雰囲気が陰キャなせいでモテない」だそうだ。別に俺、モテたいだなんて言ったことないんだけどな。余計なお世話だよ。
まあ俺のイメチェンの理由は置いておいて、学年が変わった初日の今日。俺は今、告白されている。……イメチェンして本当にモテてしまったのが少し複雑なんだが。
人生初の、しかも結構可愛い子からの告白。テンションが上がっていく――といったことは俺にはない。最初から冷め切ったままだ。恐らく上がることも下がることもないだろう。
その原因は彼女にはない。
俺が彼女のことを嫌いなわけでもないし、嘘告白させられているように嫌そうな顔をしながら俺に告白しようとしてきたわけでもない。
俺は、恋というものが分からない。
好きになる。これは自分の中でその相手に向けている感情を「好き」と名付けているということ。
では、どのような感情を抱けばその相手が「好き」となるのだろうか。いくつか例を挙げて考えてみる。
例えば一目惚れ。これは相手の外見、相手の仕草や発言で今まで関わってこなかった相手に一瞬で好意を抱くということ。
普通に考えて、あり得ない。
相手のことを知らないで、良く好きになれるものだ。他人の上辺だけしか見ないうちにそれを「好き」と断定するのは軽すぎるのではないだろうか。
他にも、「一緒にいて楽しいから好きになる」といったものがあるだろう。
いや、おかしいだろ。
一緒にいて楽しいイコール好きだと、世の中ホモであふれるんじゃないか?
優しさに心奪われる。
嘘をつけ。優しいだけじゃ惚れる要素になり得ない。世の中優しい人なんていっぱいいるぞ。独身の。
――とまあ俺の完全なる偏見で恋というものを語るのはその辺にして、この告白への返答を考えよう。今現在恋をしている方で俺の偏見によってお気を悪くしてしまっていたらすみませんね。非リアの僻みなので、お気になさらず。
はい、ということで返答について考えましょう。
結論から言って、俺は彼女と付き合う気はありません。確かに可愛いけどね。でも付き合わない。
俺は本当の恋に落ちるまで、誰とも付き合わないと決めている。
……ちょっとそこの人。「めんどくさいやつだなぁ」とか言わないでね。普通に傷付くから。
かっこよく「本当の」とか言ってますけど、単純に自分の中の感情が「恋」以外に結論付けられなくなった時。簡単に言うと「恋に落ちた」と自覚した時まで誰とも付き合わないってことですよ。
だから、中途半端な感情で俺は誰かと付き合うことはない。よって彼女とは付き合わないということだ。
だが、これをそのまま彼女に伝えるわけにはいかない。
真剣に告白したんだからちゃんと答えるべきなのだろうが、彼女とは今まで喋ったことはない。要するに外見だけで惚れられたのだろう。
現状として俺が彼女に何の感情も抱いていないということであり、それは彼女に対して「可能性」なる希望を見せてしまう。
それに対して、俺は彼女に何の感情も抱いていない。強いて言えば外見だけで惚れられたということで少々マイナスだ。そんな彼女に俺は惚れる気がしていない。
なのでここは少し強引でも完全に諦めてもらえるような断り方をすべきだ。
よって俺はこう答える。
「――ごめん。俺、彼女がいるんだ」
「……そっか。ありがとうね」
少し切なそうな顔をしながら頑張って笑顔を見せた彼女に、少し罪悪感を感じる。
恐らく最後の「ありがとうね」は「本当のことを言ってくれてありがとうね」という意味だろう。……うっわ、めっちゃ申し訳ない。俺、完全に最低な奴じゃんか。
まあ、これで彼女がいつか新しい恋をして、幸せになってくれることを願おう。
酷いことをしてしまったという罪悪感で胸を痛めつつも、なるべく平静を装いながら教室へと戻る。
教室の扉を開け、自分の席に座る―――前に俺は捕まった。
「よお雅宣。おたく、彼女さんいるんだって?」
馴れ馴れしく俺と肩を組んできた、がたいのいいこの男は
こいつとは俺が陰キャだった頃からの仲――ってことはなく、俺がこの見た目になってからの付き合い。要するに友達(?)になってまだ一日経っていない。それでこの馴れ馴れしさって……やっぱホンモノの陽キャは違ぇわ。
つーか、この男の説明でスルーしそうだったが、情報の拡散早くないですかね?まだ俺が彼女いる宣言(嘘)を出してから五分ちょいですよ?
「……情報広まんの早すぎじゃないか?」
「ああ、そっかお前まだこのクラスのグループライン入ってないのか」
「ぐるーぷらいん」
あれだろ、グループのラインだろ。俺知ってるよ。一つも入ったことないけど。
ってか、もうこのクラスのグループライン出来ちゃってんの。俺知らなかったんだけど?
「おうよ。それでクラスラインに速報として届いたから俺がお前に彼女がいるってことを知ってるってワケ」
「……そすか」
いや個人情報!
人のこと勝手に広めたらダメだろ! 特に恋愛沙汰とか一番アウト。何やってくれちゃってんのさっきの名前も知らない彼女は。何なの!? 前世は切り込み隊長でもやってたの!?
「あ、ってか雅宣はまだクラスライン入ってないんだよな。招待してやるから感謝しろ」
「めっちゃ上から目線だなおい。まあ?俺も仕方なく入ってやるよ」
「やっぱ入れんのやめよっかな」
「ごめんなさい入れてください涼太様」
「うむ、くるしゅうない」
やっぱりハブられてるっていうのはヤダよね。寂しいし。
そして俺がクラスラインへと入った瞬間、それはもう体力大量の「よろしく! 追加していい?」というメッセージが。え、俺人気者だったりすんの?
少しテンションが上がり、追加していいという旨のメッセージを送信して友達追加を承諾すれば、一気に何人もの友達が。わぁお。
今までは友達の欄に四人しか居なかったのに、いつの間にか友達が三十人近くになっていた。もはや怖いです。
「……それで、人気者の雅宣君の彼女さんはどんな人なんだい?」
「あ…………」
……え、どうしよ。まさかこんなに広まるだなんて考えてもいなかったわ。
ということで、“詰み”ですね。だって俺、彼女いないもん。ただの嘘つきだもん。
しかも彼女がいるっていうのが嘘って知られたら、断った彼女に申し訳ない。というより、俺が最低野郎だと広まる。
これは、頑張って嘘を突きとおす必要がある。
一瞬悩んだ挙句、「ちょっと待ってろ」と涼太に断りを入れて、俺はとある人物にメールを送った。
『俺と恋人になって』
これが、恋愛禁止のトップアイドルである幼馴染と、恋愛というものが分からない俺が、恋について知るきっかけだった。
☆あとがき
新しく連載始めさせてもらいました。
軽くスランプになっていて他の作品の更新とかはできていませんが、また書けるようになるまでしばらく連載続けます。
一応スランプ中なので、更新間隔はバラバラになりますが、書き溜めがあるので始めの方は毎日更新していくと思います。
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