どんな願いでも叶えれてくれる鉱石を集めます

@mikamikamika

第1話 誕生

 桃源郷と呼ばれる地があった。聖地とも言い伝えられるその地では、千年に1度だけ、女性の体内からではなく、桃から人間が生まれる。いや、正確には人間ではないのかもしれない。桃から生まれるだなんて、もうその時点で、もはや人間とはいえない。桃源郷にて、千年に1度だけ生まれる妖怪だ。


 桃から生まれたその妖怪は、例外なく特殊な才能を持っている。既存の科学力ではとても成しへない超常現象を実現させる道具を開発する才能だ。後の人々は、この妖怪が開発した道具を『魔道具』と呼んだ。


 かつて桃源郷は、かつてはとても賑わっていた。聖なる場所に憧れ、移り住む者も大勢いて、土地全体が崇め奉られていた。しかし、秘境の地であるがゆえに、外部との交流はほとんどない。インフラも整っているとはいえない。


 桃源郷で生まれ育った子供たちは成人するにつれて、外の世界に出て行くようになった。時代の流れと共に、田舎で暮らすより、便利な都会で暮らしたいという風潮が強まってきたのだ。そして、若者の人口が減少し、少子化となる。少子化になると高齢化にもなる。高齢化が進むと、やがて限界集落となった。


 さらに年月が経った。500年程だろう。ついには一世帯のおじいさんとおばあさんしか住んでいない寂れた土地となった。千年に1度だけ桃から妖怪が生まれる、土地特融の現象が起きたのは、まさにそんな時だった。


 世の中には変わった者がいる。普通の者なら、便利でインフラが整った場所で生活したいと思うだろうが、時に辺境の地での暮らしを望む者たちもいる。そうした者たちがその妖怪の父親と母親になった。


 老いたその夫婦は大きな桃から人間が生まれた事について、大変驚いたそうだ。桃から生まれた化物だと思い、2人してションベンをちびらせたという。しかし、外見は普通の赤ん坊。性別は男の子。現地での言い伝えについて、崩れかけた図書館などで調べたところ、そういう奇跡もあるのだな、と夫婦は桃から生まれたその男の子を受け入れて育てる事にした。とても変わった輩である。


 現在、その2人はもういない。というのも妖怪がオギャーと桃から生まれた時には、既にそれぞれ齢75歳と71の高齢であった。天命にて生をまっとうし、妖怪に住んでいた家を譲与した後に老死した。


 そんなこんなで妖怪は人として育てられ、現在は桃源郷のその地で一人、ノホホンと暮らしていた。食べ物は全て、畑や川で獲る事が出来た。


 病気については、風邪をひく事はあったが、大きな病などにかかったりする事はなかった。


 彼の年齢は13歳……くらいだ。父の習慣を真似て、月日を数えているが、うるう年やら何やら、そもそも、数え忘れがあったかもしれない。性格はとても大雑把。もしかしたら、若干は年齢が違うのかもしれない。さすがに性別までは違わないだろうが……。


 とにもかくにも、そんな彼の大冒険が始まるのは、まもなくの事であった。妖怪名は『桃太郎』。彼の冒険は後世、語り継がれることになる。

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