003:納得のいかない出会いの終わり
俺はカーベラを不安にさせたかもしれない。最初にあったやつに願いを断られてはこの先どうすればいいか不安にもなるだろう。でもこれでいいはずだ。俺には世話をしなければいけない妹がいる。死んでいる場合ではない。
俺はあの忘れられないカーベラの顔を忘れようと、自分を納得させる。
一時のイレギュラーイベントが過ぎ、普通が訪れる。あんなにうんざりしていた普通なのに今は安心さえ感じる。
「もう忘れよう」
家の前に着いて、ドアノブに手をかけるとドアは開いていた。彩芽がもう帰っているのだろう。何もかもがいつも通りだ。
「ただい・・・」
「・・・ハァ、ハァ、ハァ あれ何⁈」
彼女は、カーベラはことごとく俺の静寂を、日常を破壊する。あともう少しでほんの少しで確実に俺の生活は『普通』にしっかり帰っていた。
「あれ何⁈ 太い腕が回って四つん這いになって、走って、速くて、光って・・・」
車のこと……か?
カーベラがこの先一人でこの世界
「あの・・・虫がいいのはわかるんだけど、今日だけ匿ってくれない?さっきの闘いでもう魔力切れで、今襲われたら殺されるか、連れ去られる自信がものすごくあるのよ。」
「いや、でも俺家族いるから……」
「適当に、彼女とでも言ってよー」
まぁ、妹しかいないので匿うこと自体はどうとでもないのだが、こんな奇抜な格好の人を彼女さんと妹に紹介して、それがあとで親に伝わるのがめんどくさい。
「流石にその格好の人を彼女っていうのも気が引けるというか。」
「服?そう服と言ったらね、びっくりしてるの。こっちの世界の人って不思議な服を着ていて、私の世界じゃ浮かれものになっちゃうよ」
それは今のお前が同じようなものだろうが。
「流石に小型化したり、透明化することはできないよな?」
「いやできるよ?まぁどっちも魔力の残量的にきついけど。今できるのは潜伏系の魔法で気配をなくすくらいのしょぼい魔法だよ」
十分だ。それで妹の目ぐらい欺ける。いや待て、何でそもそも家に入れる気になっている。
「どうしても匿わないとダメなのか?」
「この麗しい私がどうなってもいいというならほっとくがいいわ」
コイツちょっと俺が心開いたからって、元はこんなお調子もんかよ。
もしコイツと会うなら、普通にそして、もっとロマンチックに出会いたかった。
「今日だけだぞ」
カーベラは笑顔を向ける。やっぱりその顔は可愛い。はぁ・・・ここから続く言葉はもう何となく決まっている。やっぱりもう少しちゃんとした形で会いたかった。
*
俺と気配を消したカーベラは家に入る。珍しいものが多いのだろうか。カーベラは恐る恐る歩いている。どうやら気配を消す前から見ている人は頑張って観察すれば何とか見えるは見えるくらいの魔法らしい。まぁこれでも相手から姿を消すには十分な精度だろう。
「ただいまー」
「おかえり、お兄ちゃん」
「俺が家に帰ってくるまでいい子にしてたか? 今日はおばあちゃんがいないから久しぶりに俺が焼うどん作ってやるぞ。」
カーベラには俺の部屋を教えてある。多分変なものは置いてないよな・・・?やばい心配になってきた。とりあえず、部屋に行こう。
「学校の課題終わらせたら作るから、ちょっと待ってろ。」
妹は、それを聞くと嬉しそうに自分の部屋に戻る。とりあえずは切り抜けられそうだ。
「ひぃぃぃぃ!」
カーベラの悲鳴が聞こえた。一応、妹に聞こえない程度の声量に我慢してくれたみたいだが。
「何だ、どうした⁈」
「何これ? 怖いんですけどっ⁈」
カーベラが指していたのは、俺の部屋に行く途中に見えるリビングのテレビだった。
「テレビだよ。あー 彩芽のやつテレビつけっぱにしてたなぁ。ていうか、早く俺の部屋に行くぞ」
カーベラは物珍しそうに恐る恐る俺の部屋に入る。カーベラがテレビに気を取られていたのは幸か不幸か、俺が自分の部屋に変なものがないか確認できてよかった。
「なんか、成り行きで俺の部屋に寝ることになりそうだけど大丈夫?」
「別にいいわよ。一緒の布団に入るとかじゃなかったら」
まぁ当然、親や妹に発見される可能性があるので俺の部屋以外に寝泊りすることは不可能なのだが。それにしても以外と俺の部屋は小さい。どこに寝させるか考えなくてはならない。床はもしまだプライバシーというものを知らない妹が勝手に入ってきたりしたらすぐ見つかってしまう。ベッドで一緒に寝るわけにもいかない。そうすると・・・
「あのさ、寝る場所なんだけど押入れの中じゃだめ?」
俺が元々布団で寝ていたため、旅館とかにありそうな布団が入っている押し入れが俺の部屋にもある。ベッドで寝るようになった今は、下の段に少しごちゃごちゃしているものが入っているとはいえ上の段がほぼほぼ空いている。
それなりにしっかりしている作りになっているし、まぁカーベラが重いというわけもないし寝ても大丈夫だろう。
「まぁ、不本意だけど、しょうがないか。」
「多分耐えらえると思うんだけど、上の段を使ってくれ。」
「何よ。私が重そうで心配してるの?」
カーベラが睨んでくる。はぁやっぱりコイツ面倒臭いところあるよな。
カーベラがヒョイっと押入れの上の段に寝転がる。
「うーん。さすがに硬くて腰が痛いかも。」
「あーじゃあこれ使ってくれ。」
とりあえず俺の部屋のマットを差し出す。これでも痛いとは思うが、少しはマシになるだろう。しかし、これだとまるでドラ○もんだな。
「何笑ってるの。」
「いや、小学生の学習で、教科書より大事な教材に出てくるヤツに似ててさ。俺の国の子供はその教材を見て創造力を養うんだよ。」
「その小学校やら教科書っていうのがイマイチ、ピンと来ないけど、とりあえずこの国で一番尊敬されてるものに似てるってこと? 褒め言葉として受け取っておくわ。」
いや、やばい。もう心の中で大爆笑が起きている。次笑ったら流石に言い訳できそうにない。平常心・・・平常心・・・
「俺、飯作ってくる。妹が腹空かして待ってるからな。」
「疲れているし、少し休ませてもらうことにするわ。」
俺はそういって自分の部屋をでた。どうやら心の中ではまだ大爆笑が起こっているようだった。
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