異世界人が降ってきたので、匿ってしまいました。(改稿済)
大福
000:プロローグ
「いやぁぁぁ! このセクハラ男!」
文字通り降ってきた彼女が最初に俺に叫んだ第一声は これまた文字通り無慈悲なものだっだ。
そんな事件から俺の日常は破綻する。でもこれは俺が望んだような望まなかったような話の序章の序章の序章に過ぎない。
*
榊原睦月は窓から入る日差しに目を覚まし、朝を迎えた。
朝起きるのが遅い俺は急いで着替えて部屋を出る。
「おはよう 彩芽」
俺が部屋を出ると同じようなタイミングで妹の彩芽も隣の部屋から出てきた。もうすぐ中学一年生も終わると言うのにまだまだお兄ちゃんと遊び足りないちょっとブラコン気があるとも思われる妹だ。お兄ちゃんから卒業しなさいとでも言えたら良いのだろうが、これまた嬉しいものだから俺にはどうにも注意ができない。
「ふあぁ……おはよう、お兄ちゃん」
少し前に起きた俺とは違って寝起きの彩芽は目を擦り、欠伸をしている。
やはり注意するのは諦めようと、そう思った。
「おはよう、むっちゃん。今日の朝ごはんは何がいい?」
リビングに向かうと、祖母が朝ごはんを作ってくれている。
もうすぐ春を迎える2月下旬のいつもと何ら変わることのない朝。共働きで忙しい両親のために祖母が毎日炊事をしにやってきてくれるのだ。
「ご飯炊いてある? 別になんでもいいよ。おばあちゃん。 てか、いい加減その呼び方やめてくれよ。女の子みたいじゃん」
「あらあら、むっちゃんも、もうそんな年頃なの〜? はいはい、努力します」
「あぁーもう またぁー」
祖母が俺を見る目は6歳の頃からおそらく変わっていない。多分俺が今ここで急に裸になったとしても特に何も思わないだろう。あの頃から色々体は成長しているがそれでも祖母にとってはやはり俺は永遠の孫なのだろう。
「行ってきまーす」
短い時間で軽めの朝食を済ました睦月は、鞄を右肩にぶら下げて玄関のタイルを蹴った。
本当に何も変わらない朝。
家から学校までは自転車で数十分の距離。籠に鞄を乗せてサドルをまたぐ。自転車通学で少し自転車に興味を持った睦月は自転車に見栄を張るアマとしてサドルを結構高めにしてある。足がつかない程度に、こうすると漕ぐスピードが段違いなのだ。
見えない風に髪をなびかせて俺は通学路をいつものルートで発進した。
残念ながら俺の自転車ルートには駅やら賑やかなところがまるでない。ただただ進んでいるのに雰囲気は全く変わらない住宅街を突っ切っていくだけ。
何も考えず、ただペダルを回していたら高校が見えてくる。
一年前高校受験をしてまぁまぁ有名な高校に入学した。とはいっても学校生活が充実している訳ではない。彼女もいない、学校に言っても何も知らないゲームの話で盛り上がっている同級生。ただ必要な時に人と会話していたら、いつの間にか、クラスのどのグループにも属せなくなっていた。決してぼっちではない。人並みに話しかけれるし人並みに話せる。ただよくつるむ友というのがいない。
青春とは何だろうか、そんな無意味な問いを根深く持ちながら日々を漫然と過ごしていた。
授業をまともに聞き、友達と言える人たちとそれなりに言葉を交わしていれば太陽はいつの間にか落ち始めている。
「明日の日直は加藤くんです。さようなら」
「じゃあねー」だの「バイバーイ」だの聞こえる中今日も一日の終わりの始まりを感じる。
流れるように俺は自転車置き場えと向かい鞄を籠に乗せて、たまに面倒臭いと思ってしまう高さのペダルを跨いだ。
行きとは違い、授業に疲れた俺のペダルを漕ぐスピードは遅い。
途中、信号にその進みを止められて何気なくスマホを確認すると、
『今日、夜は行けそうにないからむっちゃんがご飯作ってね。冷蔵庫の中もあまりなかったと思う』
祖母からのメールだ。祖母は何げにスマートフォンを使いこなしているので連絡が取りやすい。こうして何かあれば連絡をくれる。本当に便利な時代になったものだと思いつつ、一体俺は何歳だ、と自分で感嘆してツッコミを入れる。
だからむっちゃんって呼ぶなよ……と心も中でため息を吐きながらスーパーの方向に自転車の進路を変更した。
両親が家を多く空ける我が家では料理を作るのは大抵祖母が俺だ。そのためスーパーのおじさんにも少しばかり顔が覚えられている。顔見知りに挨拶を交わしながら彩芽の好きな焼うどんの材料を買った。
すぐ帰るのも何かつまらなかったので、おまけに買ったアイスを頬張りながら近くの公園でブランコを漕ぐ。
冬も明けてきたみたいだ。もう5時だというのにまだ明るい。
こうしてまた一年が経っていってしまうのか……
そう思って太陽に顔を向ける。ギリギリ見上げる位置に太陽はあった。
ん?
何かが太陽と覆いかぶさっている。
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
逆光で黒く見える何かが降ってきているのように視える。
その何かは俺の視界を徐々に覆い、視界が真っ黒になる頃には顔に柔らかい2つの感覚を俺は得ていた。
思ったより軽い、いや柔らかい。
死んでないよね?
空から降ってきた何かがぶつかったのだ。ただ事じゃない。
俺の顔でワンバウンドした何かは目の前で転がり、体勢を直してこっちを向いた。
綺麗な女性の形をしている。
「いやぁぁぁー このセクハラ男!」
いや意味わからん。
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