『拾ったバイクと元ヤン彼女⑨』


 先ずはタンクやキャブを外す為外装を取り外した。


「ドライバーの使い方は最初にネジとドライバーのサイズを合わせる。ピッタリサイズが合ってないとネジ山舐めちまうからな、がっちり食い込むドライバーを探すんだ」そう美香さんは教えてくれた。

「はい」

「そして、必ず直角に当てて押し付け七、回転三の比率でしっかり押し付けながら一気に回す。やってみ」

「〝の〟の字の逆でしたよね。あれ回らない」

「おう。そんで一回で回らなかったら、ネジの根元にCRCを吹き付けて、反時計回りにテンションを掛けながらドライバーの柄をハンマーで叩いて振動を与える」


 そう言って美香さんはドライバーの柄の後ろを金槌でガンガンと叩いた。今度は、ネジは何事も無かったように回った。


「取れました」

「これでも駄目だったときはインパクトドライバーを使うんだが、まあいいか。よし次はタンクを外せ」


 僕はタンクの上に乗ったシートを外し、ネジを緩めてタンクを外した。タンクを引っ張り上げて下に付いている燃料ホースを外す。リングをペンチで挟みずらしておいてマイナスドライバーを隙間に挟みこじりながら外していく。ホースが外れた拍子にガソリンが噴き出した。


「残ってるガスはここへ出しな」

「はい」


 タンクを美香さんが持って来たトレーに乗せた。


「ガスが残ってるって事はまだ中は錆びて無いな」

「でもこれガソリンぽい匂いじゃないですね。何と言うか薬品ぽい匂い……」

「ああ、ガソリンは古くなると腐っちまうんだよ。ガソリンの成分だけ揮発して添加剤だけ残るんだ。そうするとこんな匂いになんだよ。そんでそれが色々悪さする」

「悪さですか」

「ああ、飴みたいにベタベタになってノズルが詰まったりすんだ」

「それは、大変ですね。あれ、もしかしてこのカブのエンジンが掛からないのもそれが理由ですか」

「そうだよ、キャブのジェットが詰まっちまったんだ。長く乗らないバイクはガソリンコックを閉じてキャブのガスを抜て置かないとそうなんだ」

「そうなんですか……」


「おい、タンクのキャップ外してこいつを入れろ」


 そう言って美香さんはガソリンぽい色の液体の入ったオイルジョッキを掲げた。


「何ですかそれ」

「ガソリンと2ストオイルを混ぜたもんだ。中が錆びてるようなら洗浄剤を入れるんだが、錆びて無けりゃこれで十分だ。中に入れて、よくシェイクしろ」

「はい」


 僕はタンクの下のノズルの穴をビニールテープで塞ぎ、ガソリンタンクにその液体を注ぎ込んだ。そしてまんべんなくいきわたる様にタンクを振った。テープを取ってトレイへ液体を出す。


「うわ、何か黒いの出て来た」

「汚れが残ってたんだな。まあ、これくらいなら大丈夫だろ。よし、次はキャブばらすぞ」

「はい」



「この行灯型のカブは縦キャブと言ってな、ちょっと他のバイクとは違う構造になってんだ……」


 美香さんに教えて貰いながら僕はキャブレターの取り外し始めた。


 チューブ類をすべて外す。次にエアクリーナーのコネクティングチューブ。ペンチで挟んで金具を外し強引に手でひぱって引っこ抜く。

 キャブの前側アクセルワイヤーの付け根をプライヤーで挟んで回して外す。ワイヤーごと引っ張り出す。


「このワイヤーの先に付いてるのがスロットルバルブとジェットニードルな。バラすと面倒いからこれはこのまま後で清掃する」

「はい」

「んで、マニホールドのボルトを外せばキャブが外れる」


 僕は言われるままキャブレターの下のボルトを回した。

 エンジンから精密機械の様なパーツが外れた。


「これがキャブレターだ。空気を吸い込んでガソリンを気化させてエンジンに送り込む装置な」

「はあ……」今一意味が判らない。

「まあ、でっかい霧吹きみたいなもんだと思え。そんで空気とガソリンの量が増えれば爆発が大きくなってエンジンの回転が上がる。その量を調節してるのがさっき外したスロットルバルブとジェットニードルだ」

「成る程……」


「よし、こいつをバラすぞ。細かいパーツが多いからなこのトレーの上で分解すんだぞ」

「はい」


 僕はドライバーを立ててキャブレターの分解を始めた。


「スプリングや小さなワッシャーも無くないよう気付けんだぞ」

「はい」


 外せる場所のネジを外し分解を終えた。トレーの中には大小さまざまな部品が置いてある。


「この穴のいっぱい開いた大きなネジがメインジェットな。そんで小さいのがパイロットジェット。こっちの丸いのに針が刺さってのがフロートだ」


 取り外したパーツやキャブの内側は不自然に茶色くなっていた。


「よし、手袋嵌めてこいつをまんべんなく吹き付けろ」

「何ですそれ」

「キャブクリーナーつってキャブの汚れを溶かすスプレーだ。トレーに置いたまま全部の隙間と穴にぶち込むんだよ」

「ぶち込むって……はい、わかりました」


 僕はスプレーを吹き付けた。吹き付けたところにモコモコとした白い泡が出てきて茶色に変色する。それが次第に液体になって落ちていく。


「吹き付けたとこをこれで磨きな。そんでジェット類は出て来た液に着けときな」

「はい」


 そう言って美香さんは使い古した歯ブラシを差し出した。僕はスプレーを吹き付けながらキャブの汚れを落とした。ブラシで擦ると見る見る茶色の汚れが落ちていく。これが美香さんの言っていたガソリンの添加剤なのだろう。本体の隅々まで磨きフロートやジェットも磨く。


「一番問題なのはこのジェットの小さい穴なんだ」


 そう言って美香さんはメインジェットとパイロットジェットを手に取り明かりにかざした。


「どうしても詰まりが取れねえようなら細い針金突っ込んで穴を通すんだが、それをやると穴のサイズが変わっちまって性能が落ちる事があるんだ」

「それ、どうですか」

「うん、問題ないようだな。よし、組み直すぞ」

「はい」


 僕は今度は逆の手順でキャブレーターを組みなおし始めた。

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