第一部 勇太side③ サラ・サクランボ

「検魔所では我々の通達ミスで勇者様にご不便をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした!私はサラ・サクランボです!王宮の専属薬剤師の一人で、この度は王から勇者様の案内役をするよう仰せつかっております!」

 王宮に向かう道中、サラさんが自己紹介をしてくれた。サラさんも目が大きく、目鼻立ちのはっきりした美人だ。さっきの女の人が綺麗系ならサラさんは可愛い系といったところだろうか。

「私の能力は『薬を作る』です。この能力で冒険中も、貴方様の健康をお守りします!」

「え、冒険にも付いて来てくれるんですか?」

「はい!私は勇者様の案内役ですから!魔王の城までしっかりと案内させていただきます!!」

「おぉ、お願いします。」

「いえいえこちらこそよろしくお願い致します!!」

 王宮専属薬剤師ってすごくないか?頭良さそうだな!服も立派で宝石のブローチが付いているが、ちゃんと冒険に適してそうな動ける格好だ!準備万端だな!!!

 回復系の美少女もいるし、能力は王道チート能力!いよいよ勇者っぽくなってきたぞ!!

「ところで、勇者様の能力をお聞かせ願えますか?」

「え、あ、はい、えっと」

 無能力って能力として大丈夫なのか?何も知らない人から見たら能力が無いって思われるんじゃないか?

 やばい、急に自信なくなってきた。でも言わないという訳にはいかないだろう。

「あー……無能力です。」

「……むのうりょく?」

 キョトンとしてる。そうですよねー、国王が呼び出した勇者が無能力だなんてそうそう受け入れられるもんじゃないだろう。まぁ、実際はチート能力だ(と俺は信じている)けど。

 さてどう言い逃れようか。いや別に悪いことしてる訳じゃないから言い逃れるも何もないんだけど……

「勇者様の能力は'むのうりょく'というんですね!聞いたことありませんが凄そうな能力ですね'むのうりょく'!かっこいいです!使うときが楽しみですね!!」

 およよ?割と好感触だった?たしかに聞いたことないだろうがそんな能力にテンション上がるか?めっちゃポジティブやな。

「むのうりょく……無能力……まさか能力が無い?なんてことはありませんよね??」

 なんてこと言うんだ!!!そんなバカな!!

「まああり得ませんね!そんなこと言ったらどれだけの民が失望するか。」

 やめてくれよ。フラグ立てんな!!

 なあ、俺本当に能力あるよね?心配なんだが??

「さて、勇者様の能力も判明した事ですし、冒険の準備を致しましょう!あ!その前にスピーチの練習もしないとですね!」

「え?スピーチ???」

「はい!貴方様の冒険にはこの国の国民全員の希望が詰まっています!ですから出発の前夜には国民達全員が王宮に集まり勇者様の門出を祝うのです!そこで、勇者様には彼らに向けて、魔王を倒すというようなスピーチをして頂く予定です!」

 言ってませんでした?と小首を傾げる。

 その動作こそ愛らしいものの、言ってる内容は俺にとって残酷なものだ。

 いやいやいや、学校のスピーチでB評価しか貰った事の無い俺に百人以上の他人の前でスピーチをしろと?ふざけてやがる!そんな立派なスピーチができるか!!というか出発って明後日の朝だよね!?ってことはスピーチするの明日の夜ってことだよね!?もっと早く言ってよ!!!

 この日の夜、俺は夜なべして原稿案を練った。B評価が本気だしたらA評価なんだぜ!

 これも元の世界に帰るため!頑張れ勇太!!



 こちら異世界出身の勇者、田中勇太でーす!今僕は王宮の城門前にいまーす!

 今日は遂に魔王討伐の出発の日ですねー。

 いやぁ適度に雲がある晴空!涼しくもないけど暑くもない人体にとって最適な温度を保つ気温!そして閉じた城門越しでも分かる俺を応援する声!

 本当に出発日和ですねー!!

 この国にとって魔王討伐に勇者が出向くというのは結構な大イベントらしく、昨日の夜に行われたパーティーでも今まで見たことないくらいに大勢の人が集まって俺の出発を祝ってくれた。

 スピーチの後にあれだけ盛大な拍手を貰うのは後にも先にもあの時だけだろう。色んな人に声をかけられ、応援され、まだ何もしてないのに感謝されて、なんか申し訳ないような照れ臭いような……。

 昨日あれだけ祝ってくれたのに今日もまだ俺のこと待ち構えてるとか、俺のこと好きすぎだろ!まぁ一応勇者だし?チート能力者だし?この国の人達のために働いてやらなくも?ないみたいな?

「勇者様?間も無く出発ですが準備などは大丈夫でしょうか?」

 おっとなんやかんや考えてたら時間がきたみたいだ。うわやばい緊張する。異世界で魔王とかやば過ぎるだろ。

 とりあえず命大事にいこう。聞いた限りではモンスターとかはいないらしいしヤバいのは魔王だけらしいけど。ん?死なないよな流石に?いや主人公ポジの俺が死んだらダメだろ。死なない死なない、いけるぞ、俺!

「それでは、勇者よ!魔王を倒してきてくれ!!!」

 開くのだ門を!いま〜いま〜!!なんてふざけてる場合じゃないな……。

 なんとなく予想はしてたけど人が多い。この人達はみんな俺のために集まってくれている。嬉しいような恥ずかしいようなちょっと怖いような……。大した力があるかどうかも分からない俺のことをこんなに本気で応援してくれるんだから、これは頑張んないとやばいよなぁ。

 もうここまで来たんなら仕方ない!このために呼ばれたわけだし、やらないと帰れないし、いっちょやってやろうじゃねーか!!

 なんて思ったりするのは割と主人公っぽいんじゃないでしょうか?

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