第一部 勇太side② 検魔所
「ここが検魔所……?」
傭兵っぽい人に案内されて来たのは町の路地裏に入ったところにある怪しげな入り口だった。
いやいやおかしくない?検魔所って名前からして綺麗な研究室ってイメージだったんだけどなんでこんなギャングの巣窟みたいな見た目してんの?え?ってか俺ここ入んの?やだよ?
「それでは私はここで失礼いたします!」
「あ、はい、ありがとうございました。」
「いえいえ、少しでも勇者様のお手伝いができて本当に嬉しいです!!」
傭兵さんは一つ敬礼をするとクルリと向きを変えて城の方に歩き出した。勇者だからなんだと思うけど随分良くしてくれたな……あ、でも俺置いていかれたヤバい。
もう一度検魔所を見上げる。
「大丈夫かぁ??」
まぁここでちんたらしてても仕方ない。ちょっと覗いて無理だったら逃げよう。俺の足が遅いとはいえクラウチングスタートの構えの状態から行けばギリギリ大通りまでは逃げれるだろう。
クラウチングスタートの構えで扉に手をかけると、扉が開いた。
俺触っただけなんだけど!?ウィーンっていいながら自分から開いたよ!!なんだ、自動ドアだったんだ、あはは。
「ごめんくださーい……い?」
酒場、いや検魔所の中は至って普通の研究室だった。俺ら一般人に想像できる研究室な?眼鏡の人と白衣の人がいっぱいいる感じ。
「どうかいたしましたか?」
俺に気づいた白衣+眼鏡の女の人が声をかけてくる。どうやらここまではまともな研究所らしいし、大丈夫だろう。
「あの、検魔?をしてほしいんですけど。」
「検魔でございますね。少々お待ちください。」
女の人は一旦研究室の奥に引っ込むとタブレットのようなものを持って戻ってきた。
「こちらに右手を置いてください。」
緊張しながら差し出されたタブレット(仮)に右手を置く。来い!チート能力!!
しかし数秒経ってっも何も起こらない。
「あの、これ大丈夫ですか?」
「はい。検魔には五分程度お時間を頂戴いたしますので、もうしばらくお待ちください。」
五分って結構長いな。
五分間ずっとハンドオンタブレット(仮)の状態でいなきゃいけないのか……目の前の女の人も談笑とかしてくれそうにないしなぁ。
にしてもこの人めっちゃ美人だなぁ。目鼻立ちも整ってるし、肩下まで伸びた檸檬色の髪もさらっさらしてる。なんかアニメキャラとかにいそうだな。流石異世界。
ピコンという軽快な音に思考が遮られる。いやまぁ大した思考はしてなかったけども。
どうやら検魔が完了したようで、女の人はタブレットを色々操作している。そしてふいに手を止めるとジッと俺のことを見つめてきた。
「こちらが検魔の結果でございます。」
そう言って差し出してきたタブレット(仮)にはデカデカと【無能力】と書かれてあった。
「えっと、無能力です。」
「はい。無能力です。」
「無能力って、あの?」
「あのが何を示すのかはわかりませんが無能力です。」
「おう……無能力か。」
無能力。これはおそらく王道の無能力だろう。他人が使った能力は効かない系のアレだ。これなら魔王と渡り合える可能性も十二分にあるだろう。よっしゃキタコレ!
思わず顔がニヤける。あ、女の人の目が冷たい!
「それでは、検魔代の金貨80枚……あと100枚頂きます。」
「えっ」
ちょっと待ってお願い。金貨?え?ん?
「……」
「……」
無言で見つめ合う。やっぱりこの人綺麗だな。人形みたいな美人だ。っと現実逃避してたらヤバいことになった。女の人はサッと奥に引っ込むとナニカを持って戻ってきた。
待て待て待て。待ちなさいお嬢さん。そのキラキラ輝く斧で何をしようというのだね?
「無銭検魔ですね。」
「あります!お金あります!僕とってもお金持ち!!!」
はい嘘です。お金なんて持ってません。このせかいに来てから一日も経ってないからしょうがないよねー。
「金貨180枚をお支払いください。」
殺気立ってますよー!黒いの出てますよー!
「えっ、あ、や、その、あの、あはははは」
ヤバいヤバいヤバい俺死ぬ殺される。
口元がピクピクと引き攣る。ずりずりと後ずさるが後ろは壁。
「お待ちください!!!」
俺と女の人の間に誰かが割り込んできた。ショッキングピンクの髪を一つにくくった少女だ。知ってるぞ、ポニーテールだろ!
戸惑う俺と対照的に女の人は驚いたように少女を見た。
「サラ様!?なぜここへ……?」
「この方は王の客人です!検魔の代金は後程国から支払われます!」
どうやらこの少女……サラさんは俺のヘルプに来てくれたようだ。助かった、マジで死んだと思った。
「王の客人……!大変失礼いたしました。」
女の人が慌てて謝ってくる。
いやもう全然気にしてないけども怖かったっす
姐さん。いやもうマジで一緒に冒険に出て守ってほしいレベルです。
サラさんがいろいろ処理してくれたらしく、俺は何とか生きて検魔所を出ることができた。
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