第16話 君と引っ越し

 引っ越業者の車がやって来た。昌子はすでに二階の端っこの、部屋を自分のモノとして荷物を搬入していっている。

 ジーパンに白いTシャツ。作業を優先したスタイル、でもよく似合っているのが歯がゆい。

「ほ、本当にお前はここに住む気なん?」俺は、まだ騙されているのではないかと疑っている。


「だって、弟達が二人とも高校生になって流石に3LDKでは無理でしょ。私が部屋を借りるって話をしてたんだけど、おばさんがそれなら格安で部屋を貸してくれるって言うからさ。まあ、知らない仲でも無いのだからヨロシクね」いや、俺はそんなに貴女の事は知らないんですが……。彼女の母親と俺の母親は旧知の仲で、よく吊るんで買い物や旅行に行っていた事を思い出した。


「でも、倫理的にあかんやろ。男女七歳にして席を同じにせずだ!」


「あなた、意識しすぎなのよ。別に襲ったりしないから安心して」いやいや、襲うって俺を食べるつもりなの、肉は固いし美味しくないよ。


「お前の親、よくも許可したな!男と二人だけって知っているんだろ!」


「ええ、亮介なら大丈夫って、お父さんもお母さんも安心してたわよ」わお、絶対的信頼。いやいや可笑しいでしょう、それって……。


「あれ!?な、なんなんだ、このバイク!?……ハーレーダビッドソン……!」俺のZX10Rの横にピンクの大きなバイクが止まっている。凄い存在感。お前は不二子ちゃんか!!ZX10Rが霞んで見えるぞ。


「驚いたわ。亮介もバイク乗るんだね。今度、一緒にツーリング行く?」いや、このバイクと一緒にツーリングは勘弁してほしいわ。


「ちょっと、そこの重い荷物運んでよ」


「あっ、はい……って、普通に指示すんなよ!」反抗の意思を示しながらも、言われたままに段ボールを持ち上げてしまう。


「よしよし、いい子ね」昌子が頭を撫でてくる。


「うるへー!」俺はその手をかわしながら部屋に段ボールを運ぶ。これはていよく利用されて、奴隷のようにこき使うつもりだな!一つ、ガツンと言ってやらないと!「あのな……」


「あっ、亮介。今晩私が夕食作るから、後で買い出し手伝ってくれる?」両親が転勤で引っ越ししてから、カップラーメンが主食となっていた。まさか、毒をもられるとか!?


「料理ってレトルトですか?」ボ○カレーなら俺でも美味しく作れますけど……。


「なに、馬鹿なこといってるのよ!これでも料理には自信があるんだから!まかせなさい!!」なんだか、自信満々に大きな胸を更に張る。ちょっと目のやり場に困ったちゃん。

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