僕は幸せに生きたい

メグリくくる

序章

 自分の事を、何処にでもいる、平凡な奴だと思っている人は一体どれぐらいいるのだろう? 少なくとも、自分は他の人よりも特別だ! と思っている人よりは多いんじゃないだろうか?

 かく言う僕自身も、自分の事はそんなに特別ではない、平々凡々な高校生だと思っている。人と少し違うところを上げるとするなら、僕は常々幸せに生きたいと願っている、ということぐらいだろう。

 そう。僕、鹿山 煌(かやま あきら)は幸せに生きたい。

 どの様に生きれば幸せに生きることが出来るのか? 如何にして生きれば幸せに生きていくことが出来るのか? それだけが僕の関心ごとであり、それだけが僕の悩みでもある。

 そんな極端な考え方は変わっていると昔言われたことがあるけれど、でも、この悩みは僕以外の人だって普通に抱えている悩みなのではないだろうか? 皆、幸せに生きたいと願うのは、普通なんじゃないだろうか? 逆に、自分は幸せに生きたくない! と思っている人の方が、僕には変わった考え方をしていると思えてしまう。

 とにかく。

 僕は幸せに生きたい。

 そのために普通に悩み、幸せになるために日夜考えを巡らせ、行動し、その度に挫折して、それでもまだ願っている。渇望していると言ってもいい。幸せに生きるために、僕は日々努力しているし、その努力を惜しんだことはない。

 何度も、何度でも言おう。

 僕は幸せに生きたい。

 他の人が当たり前に願い、当たり前に欲しているその願いを、僕は叶えたいだけなのだ。

 だからこそ、僕はこの状況を受け入れる事が出来ないし、何故こんな状況になっているのか、さっぱり理解できない。故に、僕はこの現状について不平を言う事にした。

「……ちょっと、痛いんだけど」

「なっ! あなた、会話が出来るの?」

 そりゃ出来るさ。こっちは普通の、五体満足健康体の高校生なんだぞ? 一体僕の事をどう思っているんだ。統計的に考えても、普通の高校生なら会話が全く出来ない人の方が少ないのではないだろうか?

 心に浮かんだ不満を相手にぶつける様に、僕は首をめいいっぱい伸ばし、背中に視線を送る。

 そこにいたのは、天使だった。

 背中から二枚一対の美しい翼を生やした彼女の事は、誰がどう見ても天使にしか見えないはずだ。ただし、その天使は何故だかナース服のような衣類を着用し、僕を組み伏せているのだが。

 僕だって、本当であれば立ち上がり、真正面からこの灼熱色の髪をポニーテールにまとめている天使の姿をこの目に収めたかった。しかし腕を捻り上げられ、地面に押し倒されているこの状況では、相手の姿を見るには首をめいいっぱい伸ばし、背中に視線を送るしかないのだ。

 全く、本当にどうしてこうなった? 僕は単に、幸せに生きたいと願っているだけなのに。

 いや、人によっては天使、の様にしか見えない目麗しい少女に組み伏せられるというこの状況に価値を見出す人もいるかもしれないが、生憎僕はまだその手の道に幸せを感じていないし、価値を見いだせていない。正直、勘弁して欲しいというのが本音だ。

 僕が会話する事が出来ることに驚いた天使に向かって、溜息の代わりに、捻られた腕の痛みを訴えるために、苦悶の吐息を漏らした。

 そして、何故自分がこんな目にあっているのか、回想し始める。

 本当に、一体どうしてこんなことになってしまったんだろう?

 僕はただ、幸せに生きたいだけなのに……。

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